第50話 上位次元へ
白が、形になった。
いつの間にか、空間がある。天井がある。床がある。机がある。書類がある——ただし、それらは全て光の粒子で構成されていた。壁は半透明で、その向こうに別の部屋が見える。誰かが動いている。
オフィスだ、と俺は思った。会社のオフィスの構造に似ている。でも全てが少し違う。スケールが違う。光の質が違う。空気がない、でも息は苦しくない。
「ここが……上位存在の分局か」
「そうだ」という声がした。
振り返ると、男性がいた。初老の、スーツを着た男性に見えた。顔のパーツは人間に近い。でも少しずつ違う。目の形。肌の色。光の当たり方。
「神崎凌」と男が言った。「初めて直接話す。私はヴァルドという」
「はじめまして」と俺は言った。
「……落ち着いているな」とヴァルドが言った。少し意外そうに。
「準備してきたので」
「そうか」とヴァルドが言った。表情が緩んだ。「では話そう。君は非常に興味深い管理員だ」
「ありがとうございます」と俺は言った。「質問があります。民営化法案についての本社の見解を教えてください」
ヴァルドが止まった。
それから、苦笑いした。人間と同じような苦笑い。
「……単刀直入だな」とヴァルドが言った。
「準備した最初の質問でした」
「準備した最初の質問」とヴァルドが繰り返した。「面白い。アルダが"不思議な管理員"と言っていた。確かにそうだ」
俺は待った。
「答える前に」とヴァルドが言った。「まず君に教えなければならないことがある」
「何ですか?」
ヴァルドが光の粒子でできた机の前に座った。書類——光の束——を一枚取り出した。
「君の名前は、本社の複数の部署に認識されている」とヴァルドが言った。「それが何を意味するか、わかるか?」
「……想像はできます」
「このような接続の場を設けることは、前例がない」とヴァルドが続けた。「下請けの管理員が本社役員と話す機会は、制度上は存在するが、実際に起きたことは一度もなかった」
「そうですね」
「それが今日、起きている」とヴァルドが言った。「なぜだと思うか?」
「俺がやったことが、本社にとって無視できないものだったから、だと思います」
「その通りだ」とヴァルドが言った。「続けよう——」




