第49話 接続の準備
接続の日程は三日後に決まった。
俺はノートを開いた。想定問答リスト。接続前に整理しておくべきことがある。
まず、上位存在本社が聞いてくることを予測する。
管理実績について。緊急停止の理由について。今後の方針について。この三つは確実に来る。答えは全て規定と数字に基づく。感情的な表現は使わない。
次に、俺が聞きたいこと。
民営化法案への本社の見解。管理者の立場の今後。本社内部の状況——誤送信文書で知った内容を、直接確認できるかどうか。
最後に、言ってはいけないこと。
誤送信文書を読んだという事実。向こうがまだそれを知らないなら、情報格差がある。それはカードとして持ち続ける方がいい。
「霧島さん」と俺は言った。「接続中の記録を自分の管理画面に保存する方法を確認してもらえますか。マニュアルBに記載があるはずです」
「はい」と霧島さんが資料を探した。「……ありました。"接続記録の複製保存"という項目です。操作手順を確認します」
「宮代さんはその保存作業のサポートをお願いします」
「わかりました」と宮代が言った。「……神崎さん、大丈夫ですか?」
「問題ありません」
「顔色が少し違います」と宮代が言った。「観察眼スキルで見ると……緊張してますか?」
俺は少し止まった。
「……少しは」と俺は言った。
「珍しい」と霧島さんが言った。驚いた顔で。
「前例がない状況だから、多少は」
「神崎くんが緊張するんだ」と霧島さんが言った。「少し、安心しました」
「安心?」
「人間みたいで」と霧島さんが言った。「接続中のサポートは私がやります。何かあればすぐに声をかけてください。外からでも声は届くはずです」
「ありがとうございます」
翌日も準備を続けた。想定問答を何度も見直した。誤送信文書の内容を改めて整理した。βとα勢力の対立。Q2のコスト削減指示。俺の名前が「要注目」として載っている事実。
これらを使うかどうかは、向こうの出方次第だ。
接続前夜、霧島さんが「今夜は早めに帰りなさい」と言った。
「まだ確認することがあります」
「確認しすぎると、逆に動きが固くなります。十分準備できてます」
「そうですか」
「そうです」と霧島さんがきっぱり言った。「帰って寝てください」
俺は帰った。
接続当日の朝、管理端末を開いた。接続可能時刻まで三十分。
ノートを見た。準備は整っている。
霧島さんが「記録保存の設定完了しました」と言った。「宮代くんも待機してます」
「ありがとうございます」
「……行ってらっしゃい」と霧島さんが言った。
管理端末の前に座った。画面に「本社接続要請:受信済み」という表示が出た。「接続開始」というボタンがある。
時刻が来た。
ボタンを押した。
目の前の景色が、白くなっていった。




