第47話 飯塚の決断
「一人でギルド本部に乗り込んだのか」と飯塚が言った。
「はい」
「……怖くなかったか?」
俺は少し考えてから答えた。「怖かったです」
「神崎さん、怖くなかったんですか?」と宮代も訊いた。意外そうな顔で。
「怖かったです。でも怖いかどうかと、正しいかどうかは別の話です」
宮代がその言葉を手帳にメモした。「……怖いかどうかと正しいかどうかは別」と書きながら小声で繰り返した。
「それで、どうなったんだ?」と飯塚が訊いた。「白瀬は何か言ったか?」
「謝罪と補償を求められました。断りました。ダンジョン庁に申し立てをすると言っていました」
「それで平気なのか?」
「規定の問題はありません。申し立てがあれば対応します」
飯塚が「……そうか」と言って、少し間を置いた。
「俺、竜牙ギルドを辞める気はないけど」と飯塚が言った。「白瀬副会長のやり方には従わない。それだけだ」
「はい」
「あんたが何かしたいなら、俺にできる範囲で協力する。さっきそう思って来た」
「ありがとうございます」と俺は言った。「一つ、お願いしたいことがあります。ギルド内部で"この法案に反対している攻略者がいる"という事実を作ってほしい」
「反対の声を上げろってことか?」
「組織内で反対意見があると知られることが大事です。全員が賛成しているわけではないという事実は、法案の説得力を弱めます」
「……やりにくいことを頼むな」と飯塚が言った。
「無理にとは言いません。飯塚さんが動いていいと判断した範囲でいいです」
「……わかった。やる」と飯塚が言った。「ただし、俺が判断してやることだ。あんたの指示じゃない」
「それで構いません」
飯塚が出ていった。
「……飯塚さんって」と霧島さんが言った。「最初の印象と全然違う人だったんですね」
「変わったと思います。でも元から変わる余地があった」
「神崎くんが変えたんですよ」と霧島さんが言った。「最初にデータで向き合ったから」
「そうかもしれません」
霧島さんが「かっこいいことを言いながら気づいてないんだ、この人」と小声で言った。
「何か言いましたか?」
「なんでもないです」と霧島さんが笑った。
翌朝、管理端末にアルダからの通信が届いた。
「神崎さん。本社の担当部長が——私より二段階上位の役職にある者ですが——あなたと直接話したいと言っています。日程を調整できますか?」




