第45話 ギルドの損失
七十二時間後、管理画面を開いた。
緊急停止解除。三ダンジョン同時再開。管理画面に「稼働再開。収益計測再スタート」という表示が出た。
「開いた」と宮代が言った。現地確認から戻ってきたばかりだった。「ダンジョン前に攻略者が集まってて、"やっと開いた"って感じです。でも……ギルド系の人たちは顔が硬かった」
「損失レポートを集めてもらえますか。公表されている情報から」
「はい。竜牙ギルドは業績報告書を定期公開してるので」と宮代が言って端末を開いた。
停止中の収益はゼロだった。攻略者が入れない。採掘もできない。管理画面の記録にはっきり数字として残っている。
一時間後、宮代が「まとめました」と言った。
「竜牙ギルドだけで攻略者報酬の機会損失、採掘業者への補償、関連業務の停止による損失……合計すると相当な額になります」
「記録しておいてください」
「これって……民営化されてギルドが管理した場合、誰がこの稼働保証をするんですか?」と宮代が訊いた。
「そうです」と俺は言った。「ギルドに管理スキルを持った人間がいない限り、再起動できない。停止のリスクを誰が担保するかという問題です」
霧島さんが「ギルドが損失を出した」と言った。「でも神崎くんは規定通りにやっている。なんか……複雑な気持ちですね」
「良いことをした、とは思っていません」と俺は言った。「でも必要な手でした」
「飯塚さんが"あれは神崎さんの仕業だな"と仲間に言ってたって」と宮代が言った。「ちょっと笑ってたらしいです。観察眼で見てたので確かです」
俺は「効果確認レポート」の作成を始めた。緊急停止の実施内容、影響範囲、規定上の根拠。そして「この権限が民営化によって移管された場合のリスク」という分析を加える。
完成したレポートをアルダに送信した。
「これが管理権限の一部です。民営化でこの権限が移管されると、管理クオリティの低下リスクが生じます。本社の検討材料として使用してください」
数時間後、アルダから通信が来た。
「神崎さん」とアルダが言った。声がいつもと違った。少し緊張しているような音だった。「本社の担当部長から……"この管理員に会いたい"という要請が来ています」
「上位存在の担当部長が、直接?」
「はい。前例はありません」とアルダが言った。「下請け管理員と本社部長が直接接触するのは——規定上は問題ありませんが、これまでなかったことです」
「その要請を受けた場合、会います」と俺は言った。
「……わかりました。調整します」
通信が切れた。
霧島さんが「……本社が動いた?」と訊いた。
「動き始めました」
その夜、管理局の電話が鳴った。
「神崎さんを呼んでいただけますか」という声だった。男性の声だった。「白瀬と申します。今すぐ来ていただけますか」
霧島さんが受話器を押さえながら俺を見た。緊張した顔だった。
「白瀬副会長から直接です」と霧島さんが言った。「……どうしますか?」




