第42話 本社の沈黙
「時間がかかるというのは、どのくらいですか?」と俺は訊いた。
「……わかりません」とアルダが言った。「本社内部で意見が割れているようです。민営化法案への対応について、複数の見解がある状況です」
「意見が割れている」
「……それだけです。詳細は言えません」とアルダが言った。
通信が切れた。
意見が割れている。誤送信文書で見たβ勢力とα勢力の対立——どちらかが民営化に利益を見出しているのかもしれない。判断を遅らせることも、誰かの戦術になっている可能性がある。
「アルダさん、困ってる感じでした?」と霧島さんが訊いた。
「本社の決定を急かせない立場だと思います。担当者として、内部の意見調整を待つしかない」
「つまり……本社がまとまるまで、アルダさんも動けない?」
「そういうことです。でも法案審議は進んでいる」
「どうするんですか?」と宮代が訊いた。
「方針を変えます」と俺は言った。「待つことから、先に動くことへ」
「緊急停止ですか?」と霧島さんが訊いた。
「そうです。本社の判断を待っている間に法案が成立すれば、後からでは変えられない。先に事実を作る必要があります」
「緊急停止って……ダンジョンを完全に止めるんですか? 攻略者が文句を言いませんか?」
「言います。でも規定上は問題ありません。管理員の判断による緊急停止は、管理権の正当な行使です。そして言われた時の対応を準備します」
「具体的にはどういう準備ですか?」と宮代が訊いた。
「安全点検という名目で停止し、停止中にギルドが再稼働を試みた場合——管理スキルなしには再起動できないという事実が自動的に証明されます。その事実を記録する」
「……法案の審議中に、そういう実例ができるってことですね」と霧島さんが言った。
「そうです。政治的な主張より、事実の方が重い」
俺は最終シミュレーションの数字を確認した。三日間の停止。第十七-Aだけで攻略者百三十人程度が影響を受ける。竜牙ギルドの主要攻略者も含まれる。損失額は相当になる。
「飯塚さんに事前に知らせた方がいいですか?」と宮代が訊いた。
「……少しだけ」と俺は言った。「飯塚さんは話が通じる。全部は言わないが、準備させる必要がある」
翌日、ダンジョン内で巡回中の飯塚を宮代に呼んでもらった。
「近いうちにダンジョンが三日間停止する」と俺は飯塚に言った。「攻略の予定を調整してほしい」
飯塚が目を細めた。
「……なんで俺に?」
「あなたは話が通じるから」と俺は言った。
飯塚がしばらく俺を見た。
「……わかった。他の連中への説明は?」
「自分ではまだ話せません。でも飯塚さんが判断していいです」
「……厄介な頼み方をするな」と飯塚が言った。でも断らなかった。




