第41話 廃止手続きの通達
公文書の内容を霧島さんが声に出して読んだ。
「……管理局廃止に向けた事前準備として、現行業務の引き継ぎリストを六週間以内に提出すること」
霧島さんが読み終えて黙った。
「……これ」と霧島さんが言った。「本当に廃止の準備をしろってことですよね」
「そうです」
「六週間って……二ヶ月もない」
「四十二日です」と俺は言った。
宮代が「どうするんですか、神崎さん」と訊いた。
「二つあります。一つは本社からの反応を待つこと。アルダさんを通じて報告書を送った。上位存在が動けば、法案に圧力がかかる可能性がある」
「もう一つは?」
「緊急停止権の使用を検討します」
霧島さんが「緊急停止……マニュアルBにあったやつですか」と言った。
「そうです。管理権限の中に、緊急時のダンジョン停止権があります。ダンジョンを数日間完全停止させることができる」
「何のために使うんですか?」
「ギルドが管理権を持っても、実際には運営できないことを証明するためです。管理スキルがなければダンジョンの内部設定は変えられない。停止状態のダンジョンをギルドが再稼働させようとした場合——再起動にも管理権限が必要です」
「……つまり、ギルドには管理できないって見せる?」と宮代が言った。
「そうです。事実を作る」
霧島さんがしばらく考えた。「……私、まだここにいます。できることをやります」と言った。声は静かだったが、はっきりしていた。
「僕も」と宮代が言った。「観察眼スキルで現場の情報を最大限集めます」
「ありがとうございます」
夕方、飯塚が来た。
「引き継ぎの公文書が届いたと聞いた」と飯塚が言った。「ギルドの中でも話が出てた。……表情が険しくなるのは仕方ない」
「廃止手続きの開始です」と俺は言った。
「どうするんだ?」
「まだ手があります」
「……あんたがそう言うなら、そうなんだろう」と飯塚が言った。「何か俺にできることがあれば言ってくれ」
飯塚が帰った後、俺は管理端末を開いた。引き継ぎリストの作成——形式上は着手する必要がある。でも最低限でいい。時間を使うべき場所は別にある。
緊急停止権。使用条件を確認する。
規定には「管理員が安全上の理由から判断した場合」とある。安全上の理由。解釈の余地がある。
本社からの連絡が来るまで待つ時間があれば、待つ方がいい。でも——待てない可能性もある。
端末にアルダからの通信が届いた。
「神崎さん」とアルダが言った。「本社での検討が続いています。……時間がかかる見込みです」




