第40話 本社への報告書
草案が届いた。
上位存在の書式で作られた文書。でも内容は読み取れた。三つのセクション。民営化法案の収益影響試算。主人公の管理実績のまとめ。そして「民営化阻止の検討を要請する」という意見書。
俺は全ページを確認した。
数字を見た。試算の数値が保守的すぎた。楽観ケースの数字だけが使われていて、最悪ケースの試算が含まれていない。
「この数字、保守的すぎます」と俺は言った。「最悪ケースも追加した方がいい」
「……どの部分ですか?」
「第三ページの収益影響試算です。現在は保守的推計十二パーセント減のみ記載されています。中程度の十八パーセント、最悪ケースの二十五パーセント以上も追加してください。本社が判断材料として使うなら、シナリオが複数ある方が有効です」
「……理由は?」
「一つの数字だけだと、その前提が崩れた時に根拠が消えます。複数のシナリオを出しておけば、どのケースでも説得力が保てます」
間があった。
「……ありがとうございます」とアルダが言った。「修正します」
霧島さんが俺の横で「アルダさん、今……お礼を言いましたか?」と小声で言った。
「言いましたね」
「初めて聞いた」と霧島さんが言った。「……びっくりした」
「仕事ですから」と俺はアルダに向けて言った。
「……そうですね」とアルダが言った。「修正した草案を本日中に本社に提出します。結果が出次第、共有します」
通信が切れた。
「主人公さんとアルダさん、なんか対等になってきてますね」と宮代が言った。「最初は命令と報告だけだったのに」
「まだ対等ではありません」と俺は言った。「でも距離は縮まっています」
「それって良いことですか?」と霧島さんが訊いた。
「良いことです。距離が縮まれば、動かしやすくなります」
夕方、アルダから「本社への提出完了」という通知が届いた。
それから数時間後。
端末のニュースフィードが更新された。「ダンジョン管理民営化法案——委員会審議開始」という見出しだった。
同時に、管理局の正式ファイルフォルダに文書が届いた。送信元は「ダンジョン庁」。
タイトルを見た。「管理局廃止手続きに際しての参考資料」。
「神崎くん」と霧島さんが言った。「これ……」
「見えています」と俺は言った。
参考資料。廃止手続きの参考資料が正式に届いた。
「来た」と俺は言った。「最大の危機だ」




