第39話 試算書の送信
送信確認が端末に届いた。
数分後、アルダからの通信が入った。珍しく速かった。
「神崎さん」とアルダが言った。「この試算書は……どのデータを使いましたか?」
「管理画面の収益レポートと、公表されている法案の条文です」と俺は答えた。「計算根拠は全てページに記載してあります」
「……(長い沈黙)……」
霧島さんが俺の横で「アルダさん、今まで一番速い反応だ」と小声で言った。
「……これは、本社に上げる必要があります」とアルダが言った。
「はい」
「確認ですが、この試算書を本社に提出することを許可しますか?」
「はい、むしろそうしてください。本社が判断材料として使うなら、追加データも提供します。第三ダンジョンの稼働データや、防衛型のシミュレーションも手元にあります」
また沈黙があった。
「……わかりました。報告を待ってください」
通信が切れた。
「本社に上げる、って」と宮代が言った。「本社が動いてくれるんですね」
「動く可能性があります。確約はできません」
「でも可能性はある」と霧島さんが言った。「試算書が届いた瞬間、アルダさんの反応が変わったんですよね。普通じゃないスピードで折り返してきた」
「上位存在の担当者にとっても、この数字は無視できないはずです。Q2のコスト削減指示が出ている中で、担当区域収益が十五パーセント以上落ちる見込みがあれば、対応しないわけにはいかない」
「あとは待つだけですか?」と宮代が訊いた。
「待つだけではありません。本社の判断次第で次の手を考える必要があります。ただ今は、アルダさんが動くのを確認するのが先です」
夕方、宮代が第十七-Aの巡回から戻った。
「飯塚さんに会いました」と宮代が言った。「試算書を送ったことを言ったら……"うまくいくといいが"って言ってました」
「そうですか」
「なんか、飯塚さん、昨日とは少し表情が違いました。少し……応援している感じ?」
霧島さんが「飯塚さんがそういう顔をするの、想像できなかった」と言った。
「人は変わります」と俺は言った。
翌朝、管理端末に通信が届いた。アルダからだった。
「神崎さん」とアルダが言った。「少し、異例のことをお願いしてもいいですか?」
「はい」
「本社に提出する報告書の草案を……確認していただけますか。下請け管理員に本社資料の確認を求めるのは初めてです。ただ——」
間があった。
「——あなたの視点からの確認が必要だと判断しました」




