第38話 奇妙な同盟
翌日、飯塚が再び来た。
「昨日の続きを言いに来た」と飯塚が言った。「数字が出た」
「どうぞ」
「白瀬副会長が法案成立のタイムラインを縮めようとしている。当初六ヶ月の審議予定が、三ヶ月に短縮される動きがある」と飯塚が言った。「ギルド内の一部が反対しているが、副会長の押しが強くて……今のところ、三ヶ月で動きそうだ」
「三ヶ月か」と俺は言った。
「足りないか?」
「足りないことはない。ただ、動くなら今です」
「なぜあなたはそこまで教えてくれるんですか?」と霧島さんが訊いた。飯塚に向かって。
飯塚が霧島さんを見た。少し驚いた顔をした。
「……あんたが、正直に動いてるのがわかるから」と飯塚が言った。俺に向かって。
「正直に?」
「最初は管理局のくせにと思ってた。でも、実際に見てたら……あんたはルールの中でちゃんとやってる。ごまかしじゃない。やれることをやって、できないことはできないと言う。俺みたいな攻略者が力でやるのと、あんたが仕組みでやるのは違う。でも……どっちも正直だ」
俺は少し考えてから「助かります」と言った。「試算書を送ります。上位存在への収益影響をまとめた文書です。それが通れば、法案に対して上位存在側から圧力がかかるかもしれない」
「上位存在が動くのか?」
「その可能性があります」
「……あんたのやり方は、俺には思いつかない」と飯塚が言った。「管理画面の数字を使って、上から下に向けるんじゃなく、下から上を動かす」
「動く理由があれば動きます。それは人間でも上位存在でも同じです」
飯塚が「そうか」と言って、少し間を置いた。
「……俺、あんたのことを最初に馬鹿にした。それは……まあ」
「気にしていません」
「だから扱いにくいって言ってるんだ」と飯塚が苦笑いした。「普通は怒るか、それとも気にするふりをするかどっちかだろう」
「怒る理由がなかったので」
「なんで怒らないんだ?」
「あの時の飯塚さんは、正確な情報を持っていなかっただけです。情報があれば別の結論を出せる人だと思っていたので」
飯塚がしばらく黙った。
「……あんたは人の話を結構よく聞いてるんだな」と飯塚が言った。
「必要なことだからです」
「変わった奴だ」と飯塚が言って立ち上がった。「法案の動きがあれば、また連絡する」
「ありがとうございます」
飯塚が出ていった。
「……本当に変わった組み合わせ」と霧島さんが小声で言った。
「飯塚さんって、怖い人じゃなかったんですね」と宮代が言った。「最初の印象と全然違う」
「人は変わります」と俺は言った。「というより、最初から変わる余地はあった」
「試算書、今日送りますか?」と霧島さんが訊いた。
「三ヶ月のタイムラインなら、アルダさんが動くには時間がない」と俺は言った。「今すぐ送ります」
端末を開いた。試算書を送信フォルダから取り出した。タイトルを確認した。「民営化法案施行による上位存在収益への影響試算——第十七支部データを基準として」。
送信した。




