第37話 飯塚の接触
「入ってください」と俺は言った。
飯塚健斗が管理局のドアを開けた。いつものダンジョン仕様の装備ではなく、私服だった。少し硬い顔をしていた。
「急に来て悪かった」と飯塚が言った。「少し……話したいことがあって」
「どうぞ」と俺は椅子を勧めた。
飯塚が座った。霧島さんが奥のデスクで気配を消していた。宮代は壁際に立っていた。
「白瀬副会長の法案に……俺は反対だと思ってる」と飯塚が言った。
「聞いています」
「あんたのところの宮代が聞いてたのか?」
「はい」
「まあ……隠すつもりもなかったから、いい」と飯塚が続けた。「管理局がなくなって、ギルドが管理を持つと、攻略者は結局ギルドの都合で動かされる。今でもギルドには色々縛られてるのに、ダンジョン管理まで持たれたら、行動範囲が全部ギルドの判断次第になる」
「そうなりますね」
「それに」と飯塚が少し間を置いた。「今のダンジョンは……正直、管理局が動いてからの方がやりやすい。あんたが変えてるのはわかってる」
「第十七-Aの難易度設定のことですか?」
「それだけじゃなく、全体的に。モンスターの出方が予測しやすくなった。攻略の計画が立てやすくなった」と飯塚が言った。「最初に文句を言いに来た時のことは……まあ」
「気にしていません」
「そうじゃない」と飯塚が言った。少し苛立ったように。「謝ろうとしてるんだが」
「必要ありません。あの時の要望は、データで対処できたので問題なかったです」
飯塚がしばらく黙った。それから「……あんた、扱いにくいな」と言った。でも声に怒りはなかった。
「そうですか」
「それで」と飯塚が話を戻した。「俺は反対だが、ギルドの一員として白瀬副会長に面と向かって反対するのは難しい。あんたが何か動いているなら、協力できることがあるかもしれないと思って来た」
「飯塚さんが反対したいなら」と俺は言った。「俺には情報を共有してほしいです。ギルド内部の動きを」
飯塚の眉が少し動いた。
「……それ、白瀬副会長に反することになるが」
「それはあなたが決めることです」
飯塚がしばらく黙って床を見た。
「……わかった」と飯塚が言った。「俺にできる範囲で」
「ありがとうございます」
飯塚が立ち上がりながら「法案のタイムラインについて、一つだけ言っておく」と言った。「竜牙ギルドの会議で話が出ていたが、白瀬副会長は審議を早めようとしている。何か動きがある」
「どのくらい早まりそうですか?」
「詳しくはわからない。でも急いでいる。それだけは確かだ」と飯塚が言って、ドアを開けた。
「助かりました」と俺は言った。
飯塚が出ていった。
「……すごかった」と宮代が言った。「飯塚さん、めちゃくちゃ緊張してましたよ。観察眼で見たら体が固まってた。本当に悩んでたんだと思う」
「飯塚さんが来るなんて」と霧島さんが言った。「今日は珍しい」
「タイムラインが縮まっているなら、試算書を送るタイミングを変える必要があります」と俺は言った。




