第4話 収益の異常
※本作は第70話で完結予定です。
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数字を確認するのに一時間かかった。
攻略者が消費したマナ量と、システムが回収したマナ量。この二つの数値の間に「手数料80%」という項目があった。
仕組みはこうだった。攻略者がダンジョン内でマナを使うと、その八十パーセントが自動的に「システム手数料」として回収される。残り二十パーセントが攻略者に戻る。さらに、回収されたマナはシステム側で増幅されて保管されるため、最終的にシステムが得るマナ量は攻略者の使用量の何十倍にもなる。
霧島さんに説明すると、しばらく黙っていた。
「……前任者が真っ青だった理由がわかった気がする」と霧島さんがやっと言った。
「私は白くなっていないので大丈夫です」と俺は答えた。
「呆れているのかあなたが」
「驚いてはいます。でも、おかしいとは思っていない」
「これのどこがおかしくないの?」
「上位存在がダンジョンを作って人間に使わせているということは、何らかの利益を取っているはずです。その仕組みがここにある。問題は仕組みが存在することじゃなくて、その仕組みを使って自分が何をできるかです」
霧島さんが「……ずいぶん落ち着いているんだね」と言った。
「驚いているだけです。落ち着いてはいないかもしれない」
実際のところ、驚いていた。上位存在がマナという資源を人間から回収しているという事実は知識として理解できても、その規模を数字で目の前に見せられると、感覚が追いつかなかった。
だが感情の処理と行動は別だ。
「このレポートの数字、前任者も見ましたか」と俺は訊いた。
「フルログインができなかったから、見られなかったんじゃないかな。管理スキルがないと、そこまでアクセスできないって言ってたでしょ」
「ということは、俺が初めてこの数字を見たということになります」
「……そうなるね」
ノートに書き写した。攻略者消費量、システム回収量、手数料率。前月分と前々月分の比較。ほぼ変動がない。固定された構造になっているらしかった。
「手数料八十パーセントは変えられませんか?」と俺は言った。
「何で変えるの?」
「管理画面に難易度設定のタブがありました。他の設定も管理権限で変えられる可能性がある」
「手数料を変えたら、上位存在が怒るんじゃないの」
「変える前に規定を読む必要があります。何が許可されていて、何が禁止されているか」
翌日、管理局に音声通信が届いた。
霧島さんが「神崎くん、これ」と言いながらヘッドセットを渡してきた。「上位存在の担当者から。アルダさんって人。毎月来るやつ」
俺はヘッドセットをつけた。
「ダンジョン管理局第十七支部、新任管理員の神崎凌です」
「アルダです」という声が聞こえた。感情の起伏が薄い、事務的な声だった。「業務連絡を伝えます。本月中に、コスト削減二十パーセント、および収益二十パーセント向上を達成してください。以上です」
俺は一瞬だけ沈黙した。
「承知しました。規定書はどこにありますか」
「……規定書?」と声が止まった。「そこに送付してあるはずですが」
「わかりました」
通信が切れた。
「毎月これが来るんですよ」と霧島さんが言った。「前任者はこれで折れていきました。コスト削減と収益向上を同時に言ってくるんです」
「規定書、引き出しの中にありますか」
「え? ……たぶんあの引き出しに」
引き出しを開けると、未開封の冊子があった。「管理業務規定書(v12.4)」。封を切った形跡がなかった。
「読む人、初めて見た」と霧島さんが言った。
俺は規定書を持って椅子に座った。ページを開いた。目次を確認した。全七章構成。
第七章の項目名が目に入った。〔管理員の付帯権限〕。
付箋を挟んで、最初から読み始めた。




