第34話 法案の全文
法案の全文は五十一条あった。
俺は一条ずつ読んだ。
主な内容は三つに集約される。一、管理局廃止。二、認定ギルドへの業務移管。三、移管手続きに六ヶ月の猶予期間。
「霧島さん、条文番号を全部整理してもらえますか。各条文が何に影響するか、対照表を作りたいです」
「はい」と霧島さんが法案の印刷を始めた。「どういう項目で分けますか?」
「業務内容・権限・収益・契約関係・例外規定の五つで」
「わかりました」
俺は条文を読み進めた。第二十三条に目が止まった。
「……これだ」と俺は言った。
「何ですか?」と宮代が訊いた。
「第二十三条。"認定ギルドは管理手数料を収益から差し引く権利を持つ"」
「それって……ギルドが取り分を持つってこと?」
「そうです。現在の仕組みでは、ダンジョンの収益は経費を引いた後に上位存在へ渡る。ここにギルドの手数料が加わる」
「どのくらい取られるんですか?」
「法案には上限の規定がない。認定基準の中で別途定めるとある。仮に二十パーセントとして計算してみます」
俺はノートに数式を書いた。
現状:収益一〇〇→経費差し引き→上位存在へ八十前後が渡る。
民営化後:収益一〇〇→経費差し引き→ギルド手数料二十→上位存在へ渡るのが六十前後。
「計算が合っていれば」と俺は言った。「ギルドが介在することで、上位存在への実入りが大幅に減る」
「……それって、上位存在が損をするってことですか?」と霧島さんが言った。
「そうです。アルダさんのような担当者の立場では、本社へ報告するノルマが達成できなくなる」
「じゃあ、アルダさんに説明すれば動いてくれますか?」
「動く理由になります。ただし、数値を正確に出す必要があります。俺の試算だけでは弱い。第十七支部の実際の収益データと、ギルドの一般的な手数料率を組み合わせる」
「手数料率のデータってどこで調べるんですか?」と宮代が訊いた。
「ギルドが公開している業務案内と、関連業界の統計資料から推算できます。正確な数字は出ないかもしれないが、試算として十分な根拠にはなります」
「俺、飯塚さんたちに聞いてみます」と宮代が言った。「攻略者はギルドのことをよく知ってると思うので」
「ついでに、法案についての反応も確認してもらえますか」
「はい。行ってきます」
宮代が出ていった。
霧島さんが対照表の作成を続けた。俺は数字を整理した。
二時間後、宮代が戻った。
「飯塚さんに聞いてきました」と宮代が言った。「白瀬副会長の法案について……"実は反対寄り"みたいな話をしてました」
「どういう内容でしたか?」
「"ギルドが管理するようになれば、俺たちが直接入金できなくなる手続きが増える"って。今のシステムに不満はあるけど、ギルドに取り仕切られるのも嫌だって言ってました」
「攻略者の反対があるなら、使えます」と俺は言った。「データと合わせれば、より強い根拠になります」




