第33話 霧島の決意
「ここを守ろうとしているのは、なぜですか?」と霧島さんが訊いた。
俺は少し考えてから答えた。
「ここには上位存在のシステムの中心に近い機能があります。管理権限、経費申請、収益への介入——これらは俺たちが使える道具です。この場所を失えば、その道具も失う」
「道具、か」と霧島さんが繰り返した。「そういう理由なんですね」
「それだけではありません」と俺は言った。「この場所で何かを変えられると思っているので、やめたくないです」
霧島さんが黙った。
「……私」と霧島さが言った。「今まで"仕方なく"ここにいると思ってた」
「はい」
「攻略者になれなくて、スキルが地味で、ここに配属されたって。十年間、そう思ってた。でも今は」
宮代がペンを止めた。
「……今は"ここにいたい"と思ってます」と霧島さんが続けた。「自分で選んでいる感じ、初めてかもしれない」
「僕もです」と宮代が言った。「観察眼スキルが役に立てる場所は、ここだけな気がする。他の場所では使い方がよくわからなかった。でもここでは、現地巡回でも視察でも使えてる」
しばらく静かだった。
「それで」と霧島さんが言った。「民営化法案に反対するために、何ができますか?」
「まず整理が必要です」と俺は言った。「感情で反対しても法案は止まらない。データと論理で阻止する方法を考えます」
「どういうデータですか?」
「民営化されると、誰の収益が、どれだけ減るか。それを数値で示す。ギルドが中間に入ることで生じるコスト増を計算する」
「……誰を説得するの?」と霧島さんが訊いた。
「今のところ、最も効果的なのはアルダさんです。上位存在の担当者として、本社への影響力がある。アルダさんに"民営化は損だ"と理解させれば、上位存在側から動いてもらえる可能性があります」
「霧島さんにできることは?」と霧島さんが訊いた。「書類と行政手続き。でもそれでも戦えますか?」
「戦えます。法案の条文を全部整理してもらう必要があります。どの条文が何に影響するか、対照表を作りたい」
「わかりました。やります」
「俺は現地のデータを集めます」と宮代が言った。「変化があればすぐ報告します。攻略者たちの動向も確認します」
三人で役割を確認した。
霧島さんが「私たち、三人とも地味スキルで」と言った。「でもできることがある」
「そうです」
「……よし」と霧島さんが言った。静かに、でもはっきりと。「やります」
その夜、法案の公式テキストが掲載されたページのURLが、行政ニュースに掲載された。
俺は端末でアクセスした。
「第一条:ダンジョン管理局を廃止し、ダンジョン管理業務は認定ギルドに移管する」。
一文目でそう書いてあった。これは本格的に動かないといけない。




