第31話 民営化の噂
議員提言の全文を読んだ。
「ダンジョン管理局を廃止し、ギルド連合による自主管理体制に移行する」。
提言者は五人の議員だった。内容を読むと、現行の管理局体制の非効率性を問題点として挙げている。そして「民間ギルドによる競争原理の導入」が効率を高めるという主張だ。
「……私たちの職場がなくなるってこと?」と霧島さんが言った。
「まだ提言の段階です。成立するとは限らない」
「でも……こういうのって、出てきたら通ることが多いですよね」
「ケースによります。ただ今の段階では分析が先です」
「民営化って」と宮代が言った。「ギルドが管理するってことですよね。今と何が違うんですか?」
「いくつか変わります。一つは、管理権限の移行。現在は上位存在から管理局への委託ですが、間にギルドが入れば委託構造が変わる。二つ目は収益の流れ。ギルドが中間に入れば、マージンが発生する」
「……それって、誰が損をするんですか?」と宮代が訊いた。
「全体のコストが増えます。最終的に誰が負担するかは設計次第ですが」
俺はニュース記事をもう一度確認した。報道の中に「背景に竜牙ギルドの支援がある」という業界関係者のコメントがあった。白瀬が訪問した翌日に提言が出た。繋がっている。
管理端末に通信が届いた。アルダだった。
「神崎さん。民営化の動きについて、あなたはどう見ていますか?」
珍しい問いかけだった。意見を求めてくる。
「議員提言の段階です。法整備と関係省庁の審議が必要で、すぐに実行される状況ではないと見ています」
「……そうですね」とアルダが言った。「規定通りの運営であれば問題ないはずですが……」
困惑しているような間だった。
「アルダさんも、この動きを把握されていたんですか?」
「……少し前から情報は入っていました。ただ、これほど早く提言が出るとは思っていませんでした」
「上位存在側の立場では、民営化されると影響がありますか?」
「……検討が必要です」とアルダが言った。「また連絡します」
通信が切れた。
「アルダさんも困ってるみたいですね」と宮代が言った。
「上位存在の担当者としては、管理局との委託契約が変わることが影響するはずです。ギルドとの新しい契約を結び直す必要があれば、コストが増える」
「じゃあ、アルダさんも民営化は困る立場なんですか?」
「可能性はあります。試算してみる必要があります」
俺はノートを取り出した。「民営化されると上位存在の収益はどう変わるか」という計算を始める。
現在の仕組みを整理する。攻略者がマナを消費→手数料として上位存在が徴収→管理局の経費を差し引いた残りが利益。
ここにギルドが入るとどうなるか。ギルドのマージンが加算される。ギルドの人件費・運営費が新たなコストになる。そのコスト分、どこかが損をする。
計算をしながら、一つの結論が見えてきた。
ギルドが中間に入れば——コストが増えて収益が落ちるはずだ。その損失をどちらが負担するかは別として、仕組みとしての非効率が生まれる。
上位存在も含めて、全員の利益にはならない。




