第28話 本社の注目
アルダからの通信は、いつもと始まり方が違った。
「神崎さん」とアルダが言った。「少し、情報を共有してもいいですか?」
俺は画面の前で止まった。アルダがこういう聞き方をするのは初めてだった。
「はい」
「……本社では、現在、担当管理員の能力評価に関する議論が行われています」とアルダが言った。「通常、下請け管理員が本社の議題になることはありません」
「はい」
「あなたは例外です」
間があった。
「なぜ今、私にそれを教えるんですか?」と俺は訊いた。
長い沈黙が続いた。
「……規定では禁止されていません」とアルダが言った。「それだけです」
そして、ほぼ間を置かずに通信が切れた。
霧島さんが「今のは……何でしたか」と言った。
「アルダさんが情報を提供してきました。本社で俺の実績が議題になっているという情報です」
「……それって、アルダさんが教えてくれた? わざわざ?」
「そうです」
霧島さんがしばらく考えてから「アルダさんって、もしかして神崎さんのことを認めてますか?」と言った。
「変化しているのは確かです」
「変化って、どういう意味ですか?」
「最初のアルダさんは"規定通りにやれ"という管理者の立場で接触してきました。今は自分から情報を提供してきた。立場より、別の何かが動き始めています」
「別の何か……」と霧島さんが繰り返した。「神崎くんを信頼し始めてるってこと?」
「信頼という言葉が正確かどうかはわかりません。でも敵意だけではなくなっている」
宮代が「本社ってどのくらい大きいんですか?」と訊いた。
「誤送信文書から読み取れる範囲では、複数の勢力が競争している大きな組織です。アルダさんのような担当者が各地域に配置されている構造から見ると、規模は相当大きいと思います」
「……それって、上位存在の"会社"みたいなもの?」
「そう理解して間違いないと思います」
「神崎さんは、その会社の議題になってるんですよね」と宮代が言った。「すごいな。僕、最初は神崎さんが何を考えてるか全然わからなかったけど」
「今はわかりますか?」
「なんとなくは。……でも全部じゃないです」
俺は管理画面を開いた。本社が注目している間に実績を最大化する。これが今できることだ。
「第十七-Cの引き継ぎ確認、今日中に終わらせます」と俺は言った。「防衛型の管理最適化も来週中に初稿を出します」
「はい」と霧島さんが言った。「書類、私が整えます」
「ありがとうございます」
三日後の朝、霧島さんがいつもより早く来た。息が上がっていた。
「神崎くん」と霧島さんが言った。「外に、高級車が停まってる」
「高級車?」
「第十七支部のビルの前に。普通の車じゃないです。何台も来てる」
「視察ですか」
「わからない。でもビルの外にスーツの人たちが立ってて……」と霧島さんが言った。血相が変わっていた。「来ます。視察者が来ます」




