第26話 アルダの動揺
アルダからの通信は、いつもより間が長かった。
「神崎さん」とアルダが言った。「提案書を受け取りました」
「確認いただきありがとうございます」
「……この文書の中の情報について、確認させてください」長い間があった。「この提案書は……どこで、このような情報を得たのですか?」
俺は答えた。「管理画面のデータと、正規の経費申請で入手した業務学習資料を分析しました」
「……業務学習資料」
「はい。規定の経費申請で購入したものです。全て正規の手続きを経ています」
また間があった。今度は長かった。十秒以上。
「……規定上は、問題ない入手経路ですね」とアルダが言った。声が少し変わっていた。確認というより、自分に言い聞かせているような音だった。
「はい」
「……一点だけ、確認させてください」とアルダが続けた。「この提案書の内容、本社に報告してもよろしいですか?」
「はい、むしろそうしてください」と俺は言った。「提案書はその目的で作りました」
また沈黙があった。
「……わかりました。検討します」
通信が切れた。
霧島さんが「……声が震えてた」と言った。「アルダさん、いつもああいう声で話してこないですよね」
「はい」
「何が起きたんですか? 提案書を読んで動揺したってこと?」
「アルダさんは"自分の立場を相手に分析されている"と気づいたはずです」
「……それが怖かったってこと?」
「怖かったというより、想定外だったと思います。管理員が上位存在の担当者の立場を理解して提案書を送ってくるのは、前例がないはずなので」
宮代が「提案書が効いたってことですよね」と興奮した顔で言った。「アルダさんが本社に上げてくれるなら、本社に神崎さんの名前が届く」
「すでに届いていますが」と俺は言った。
「え?」
「先日話した内容——上位存在の組織に俺の名前が"要注目"として載っているという事実は変わっていません。今回の提案書でさらに追加の情報が本社に届く」
「……それって、どっちに動くんですか? 良い方? 悪い方?」
「わかりません。でも動かないよりは動いた方がいい」
霧島さんが「それ、リスクじゃないの?」と訊いた。
「リスクがない選択肢はありません。現状維持も一種のリスクです」
霧島さんがしばらく考えてから「……そうか」と言った。「じゃあ、アルダさんの反応を待ちましょう」
「そうです」
午後になって、管理システムの処理を確認していると、宮代が第十七-Bの巡回から戻った。
「採掘業者の人たちが"管理局が変わった"って話してました」と宮代が言った。「前の管理員は一度も来なかったのに、今は月に何度も来るって」
「それが普通の管理です」
「でも今まで普通じゃなかったんですよね」と宮代が言った。「……神崎さんって、本当にゼロから変えてきたんだな」
「ゼロは言い過ぎです。規定が元々あった。管理画面の機能も元々あった。使っていなかっただけです」
「使おうとする人がいなかった、ってことですね」
「そうです」
数日後、アルダから再び通信が来た。
「神崎さん。報告があります」とアルダが言った。今度は声が落ち着いていた。「本社が、神崎さんの管理実績に注目しています」
「はい」
「……第三のダンジョン——第十七-Cの追加委託を、本社が検討しています」
霧島さんと宮代が顔を見合わせた。
「第三ですか」と俺は言った。
「防衛型ダンジョンです。これまでとは管理方法が異なります。……対応可能ですか?」




