第25話 提案書の設計
提案書の構成を決めるのに半日かかった。
まず、アルダが本社から何を求められているかを逆算した。誤送信文書には「担当者はコスト削減と収益最大化を優先すること」と明記されていた。つまり本社が評価するのは、担当区域の数字が改善されているかどうかだ。
次に、俺の実績を整理した。
第十七-Aダンジョン:モンスター配置最適化により収益三十五パーセント増。
第十七-Bダンジョン:鉱脈発掘スケジュール調整により収益四十パーセント増。
経費申請:端末、学習資料、現地視察費——いずれも収益改善に直結する業務投資。
これだけでは「管理員が頑張りました」という報告でしかない。
必要なのは「アルダさんが本社で評価されるための文書」だ。
「霧島さん」と俺は言った。「提案書の構成を話します。整えてもらえますか」
「どうぞ」
「四つのセクションを作ります。一つ目、アルダさんの担当区域の現在の数字。二つ目、俺の管理手法による実績。三つ目、今後の拡大ロードマップ。四つ目、アルダさんが本社から高評価を得るための行動推奨」
霧島さんがペンを持ったまま、しばらく黙っていた。
「……四つ目が面白い。アルダさんに"あなたはこうすれば評価されます"って書くってこと?」
「そうです」
「神崎くん、そんなこと書いてもアルダさんに失礼じゃない?」
「相手のメリットを明示することは、失礼ではありません。むしろ必要なことです。相手が動くのは理由がある時だけなので」
霧島さんが「……そうか」と言って書き始めた。
宮代が現地から戻ってきた。鉱脈マップの更新データと、採掘業者へのヒアリング結果を持ってきた。
「第十七-Bの当たり鉱脈、もう口コミが広がってて遠くから来る業者が増えてます」と宮代が言った。「データでも稼働時間が伸びてます」
「その数字、ロードマップのセクションに使えます。表にしてもらえますか」
「はい」と宮代がデータを広げた。
三人で作業した。霧島さんが書式を整え、宮代がデータを補完し、俺が論理構造を組み立てる。二時間かかって、提案書の骨格ができた。
「読んでもいいですか?」と宮代が訊いた。
「どうぞ」
宮代が文書を手に取った。数分間、静かに読んでいた。
「……神崎さん」
「はい」
「これって……アルダさんに"あなたのためになりますよ"って言って動かしてるってことですよね」
「そうです」
「すごいな」と宮代が言った。「でも確かに、これを見せられたらアルダさんは動くと思う。断る理由がない」
「断る理由をなくすことが大事です」
霧島さんが「私には思いつかない発想だ」と言った。「ずっとアルダさんのことを"上から命令してくる存在"と思ってた。でも神崎くんは、アルダさんの立場で考えてる」
「動かしたいなら、相手の立場で考えるしかないので」
「……でもこれ、アルダさんが怒ったりしない? 自分の立場を分析されたって気づいたら」
「怒るかもしれません。でも文書の内容は正確で、合法的です。提案として受け取るかどうかはアルダさん次第です」
霧島さんがしばらく考えた。
「送る価値はある、ってこと?」
「そうです」
夕方、提案書を送信した。
タイトルは「第十七-A・B担当区域収益拡大提案書および今後のロードマップ」。添付ファイル付き。受信確認は自動で届いた。
「……あとはアルダさんの反応ですね」と宮代が言った。
「そうです」
俺は管理画面を閉じた。
送信した。あとは待つだけだ。ここから先は、アルダが動くかどうかにかかっている。
「お疲れ様でした」と霧島さんが言った。「今日は帰りましょう」
「そうします」
翌朝、出勤すると霧島さんがすでに来ていた。珍しかった。いつもは俺の後に来る。
「どうしました?」
「アルダさんから連絡が来てます」と霧島さんが言った。声のトーンが違う。「……いつもと違う感じです」




