第23話 誤送信の文書
翌朝、霧島さんが出勤してきた俺のノートを見て止まった。
「神崎くん、これ……全部昨夜書いたの?」
「誤送信文書の分析です。情報を整理しました」
「三ページ分あるんだけど」
俺はノートを開いた。昨夜から考え続けていたことを整理した内容だった。
「三つの情報があります。先日、チームで共有した内容の深堀りです」
宮代が入ってきた。「おはようございます。あ、また朝からやってたんですか」
「三点の情報について、どう使えるかを考えました」
一点目、Q2ノルマ変更。アルダはコスト削減を求められている。つまりアルダは今、俺の管理コストを下げることに協力することで、本社の評価を上げられる。
「アルダさんのコスト削減ニーズと、俺の収益向上実績が合致する。これを提案の軸にします」
二点目、俺の名前が本社文書に載っている。
「"要注目"という記述は、本社がすでに俺の存在を把握しているということです。アルダさんが俺を支援することは、本社に対するアルダさん自身の評価に直結します」
「アルダさんにとっての名刺代わりになるってこと?」と霧島さんが言った。
「そうです。俺の実績を本社に示すことが、アルダさんのキャリアになる」
三点目、β/α勢力の内部競争。
「これが一番扱いにくい情報です」と俺は言った。「どちらの勢力がアルダさんの所属かまだわからない。使い方を間違えれば相手を刺激する。今はカードとして温存します」
「温存……」と宮代が言った。「でも持っているだけで強いんですね、その情報」
「持っているだけで、こちらの立場が変わります」
霧島さんが「つまり今動かすのは一点目と二点目の情報だけ?」と訊いた。
「そうです。三点目は時機を見ます。提案書はその二点を根拠にして書きます」
「わかった」と霧島さんが言った。「書類の構成を考えます」
宮代が「僕、現地データの補完があれば取ってきます」と立ち上がった。
「お願いします」
部屋に俺と霧島さんが残った。
「神崎くん」と霧島さんが言った。「昨夜、一人でずっと考えてたんでしょ」
「頭を整理したかった」
「夜中に何時間も?」
「整理が必要な情報でした」
霧島さんがしばらく黙った。それから「……そうか」と言った。「じゃあ、私は書類から始めます」
ノートの四ページ目を開いた。提案書の骨格が、ここから始まる。




