第20話 誤送信
※本作は第70話で完結予定です。
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添付ファイルを開く前に、少し考えた。
「本社ノルマ変更Q2(担当者回覧用)」——これはどこの本社の話か。アルダが所属している上位存在側の組織、ということになる。担当者回覧用ということは、アルダのような現地担当者が読む書類だ。
これが俺の受信フォルダに届いているのは、誤送信か、あるいはアルダの操作ミスか。
規定書を確認した。管理員が正規の経路で受け取った情報を閲覧することを禁じる条文は、どこにも書かれていない。
つまり、読んでも問題はない。
ファイルを開いた。
文書は十五ページほどあった。全体的に「上位存在の本社」から「各地域担当者」への連絡という形式で書かれている。アルダはこういう立場の者だったのかと、書式を見ながら理解した。
内容を整理すると、いくつかのことがわかった。
まず、Q2——第二四半期のノルマが変更される。各地域担当者はコスト削減を優先するよう指示されている。
次に、注目すべき一行があった。「日本区担当:アルダ。現在管理員一名(神崎凌)が異例の収益改善を記録中。要注目」。
俺の名前が、上位存在の本社文書に載っている。
三点目。「本社内部競争について:β勢力がα勢力のシェアを侵食中。各地域担当者はβ側への情報提供を禁止する」。
上位存在の社会に、派閥がある。シェアの奪い合いがある。β勢力とα勢力。それだけの情報しかないが、「内部競争」という言葉は明確だった。
文書を閉じて、ノートに要点を書き写した。
この情報は持っているだけで、カードになりうる。ただし使い方を間違えれば相手を刺激する。慎重に扱う必要がある。
「どうかしましたか?」と霧島さんが声をかけてきた。俺が長い間、動いていなかったらしい。
「少し待ってください」
「……何かあった?」
「情報を整理しています」
宮代が「神崎さん、顔色が違います」と言った。「驚いてますよね、たぶん」
「驚いています。すぐ戻ります」
夜、三人で残業しながら、俺は整理した内容を話した。文書の存在は伏せて、「上位存在の組織について調べていたことがある」という形にした。
「上位存在の社会に、会社組織がある」と俺は言った。「アルダさんも、組織の中間管理職に近い立場のはずです」
「つまりアルダさんも、上から追い詰められてる側、ってこと?」と霧島さんが言った。
「可能性があります」
「それを知ってどうするんですか?」と宮代が訊いた。
「アルダさんが本社から評価されるような提案をすれば、アルダさんは動きます。アルダさんを通じて、本社が動く。それが次の手になりえます」
霧島さんがコーヒーカップを持ったまま止まった。
「……アルダさんのメリットを使うってこと?」
「弱みではなく、メリットを提示するという表現が正確です。相手が動くのはメリットがある時です」
「神崎さん、なんか怖い」と宮代が言った。
「そうですか」
「いや、怖いけど正しいと思う」と宮代が言った。




