第14話 飯塚健斗の変化
※本作は第70話で完結予定です。
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業務学習資料の申請は、翌日には承認された。
「また通った」と霧島さんが言った。「今度は理由を確認してこなかった。前より早い」
「承認事例が一件あれば、同種の申請は通りやすくなります」と俺は言った。
「事例を積み上げるってことか」
「そうです。最初の一件が一番難しい。あとは論理を積めばいい」
届いた資料の中にダンジョン設計の専門書があった。上位存在が公式に出している技術文書ではなく、研究者が独自にまとめたもので、マナ流量と難易度の相関についての分析が詳しかった。
三日かけて読んだ。
この本で理解が深まったことが一つある。ダンジョンのマナ収益は、攻略者の「限界近くまで使わせること」で最大化される。限界以内なら消費が増えるほど収益が上がる。しかし限界を超えると攻略者が撤退するか、最悪死ぬ。その手前のラインをキープすることが最適化だ。
第十七Aの現在の設定はまだ余地がある、と俺は判断した。
飯塚が三度目に来たのは、その翌週だった。
「難易度の件、取り下げる」と飯塚が言った。
霧島さんが「え?」と言った。宮代が目を丸くした。
「あんたの言い方で、一回考えた。難易度を下げることがギルドの育成に本当に得かって」
「得ではないと思いますか?」と俺は訊いた。
「Cランクを楽に育てても、実戦で使えない攻略者になる。ちょうど苦戦する環境の方が成長が早い」
「同じ結論に至りました」と俺は言った。「今の難易度はCランクにとってちょうど苦戦できるラインです」
「意図してそうしてたのか?」
「最適化の結果です」
飯塚がしばらく俺を見た。
「……管理局の人間と、こういう話をするとは思わなかった」と飯塚が言った。
「管理権限を使えば、ダンジョンの設計に関われます」
「それを知らなかった」
「俺も着任してから知りました。マニュアルに書いてありました」
「マニュアルを読むのか、お前は」
「読まないと判断できないので」
飯塚が「……そうか」と言った。
「問題があれば報告してください」と俺は言った。「対処します」
「わかった」
今度こそ飯塚が帰ると、宮代が「飯塚さんって、最初と全然印象が違う」と言った。「観察眼で見てると、最初は敵意みたいなのがあったんですよ。でも今は……なんか普通に話してる感じ」
「実力を出せば変わる人です」と俺は言った。
「実力主義ってことですか?」
「強さだけじゃなくて、能力があれば認める人だということです。根は悪くない」
「神崎さん、意外と人を見てますね」と宮代が言った。
「観察してないと判断ができない」
霧島さんが「それ、私は苦手なやつだ」と言った。「判断する前に疲れる」
「慣れます」
「神崎くんは何に対してもそれを言う」
翌月の収益が出た。配置最適化の継続と、宮代の現地確認による細かい調整が効いて、前月比でさらに上積みされた。
アルダのノルマ、収益二十パーセント向上を超えた。
アルダからの連絡は、いつもより短かった。「今月の収益、確認した。継続してください」。それだけだった。




