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第11話 7.パレード

快晴の空へ向けて――

乾いた破裂音が立て続けに鳴り響いた。


それは祝砲。式典の開始を告げる数発の弾幕が青空へ撃ち上がり、音は街へ大きく木霊していく。


日本最大の大都市。

無数の高層ビルが立ち並ぶ巨大都市、東京。

その一角で今、一国の王女を迎えるための厳戒態勢が敷かれていた。

式典会場周辺では、朝早くから警察機動隊による大規模な交通規制が始まっている。


幹線道路には何重ものバリケード。

要所には警察車両が並び、普段なら車で埋め尽くされる道路は異様なほど静まり返っていた。


当然――都民たちが、

この異例の警備体制を見過ごすはずもない。


何が始まるのか、誰が来るのか。

その答えを一目見ようと、多くの人々が周辺へ足を運んでいた。


規制線の外には野次馬の人だかり。

近隣ビルの窓際にはスマートフォンを構える会社員たち。

中には立ち入り禁止区域ギリギリまで身を乗り出し、様子を窺う者もいる。


視線の先にあるのは、ただ一つ。

本日来日する――エルトライム王国第一王女。


フィリア・エルトライム、その人だった。


だが。


人々の視線が向けられているのは、彼女だけではない。

規制され一般車両の姿が消えた車道。その中央を走る黒塗りの高級車列――その上空を護衛するように、

三つの少女の影が並走していた。


高層ビルの窓際では、

スマートフォンを構える人々が身を乗り出す。


歩道に集まった野次馬たちからも歓声が上がり、テレビ中継のカメラはその姿を逃すまいと追い続けていた。


今や誰もが知る存在、アイアンガール。

その三人が、そこにいるのだ。


車列の上空。

風を切りながら飛行する冷と麦は、

視界に浮かぶホログラム画面へ目を向けていた。


「……パワードスーツ持続可能時間、残り五十四時間」


淡々と数値を確認する冷。


隣を飛行する麦も周囲へ視線を巡らせ、小さく口を開いた。


「周囲に怪しい影は無し」


式典開始前。


すでに三人は変身を終え、

厳戒態勢の中で王女の護衛任務に就いていた。


「うん、今のところは安全だね!」


華は車列の真上を、

速度を合わせるようにゆるやかに飛行している。


「それにしても……普段は人目を気にして、戦いが終わったら逃げるように去ってたのに」


麦は眼下に広がる人だかりを見下ろした。

規制線の向こうでは、多くの人々がスマートフォンを掲げている。


「こうして大勢の前に堂々と姿を見せるのって……なんだか不思議な気分だわ」

「パワードスーツを着ていれば身元がバレることはないからね」


冷が変わらず冷静な声で返す。

すると華が、何か思い出したように声を上げた。


「あっ!そういえば前に決めたコードネーム! 結局使ってないね!」


((……覚えてたんだ))


冷と麦は思わず心の中で同時に呟いてしまう。


――その時だった。


不意に耳元で電子音が鳴る。

ピピッ、と短いアラーム音に、三人の表情が同時に引き締まった。

耳元へ手を添え、通信回線を開く。


『もうすぐ東京駅丸の内広場前に到着するヨ』


通信回線から聞こえてきたのは、キャロライナの声だった。


『もう一度流れを確認するネ。皆はフィリア王女が電車に乗るところまで同行』


一拍置いて、再び声が続く。


『王女が乗車した後は、SPと警察がそのまま護衛を継続。皆は予定通り東京都庁へ向かってネ』

「えーっ! 私達、電車乗れないの?!」


露骨に不満そうな声を上げる華。

それに対して、冷が呆れたように肩をすくめた。


「当然だよ。車両にはSPや警察が厳重に配置されてるし、線路も事前に安全確認済み」


冷静な声が続く。


「移動中、わたし達の出る幕はないよ」

「それにアタシ達、飛べるからね」


麦が苦笑混じりに付け加える。


「……あ、そっか!」


ようやく思い出したように華は目を丸くした。


その頃――

黒塗りの高級車列は、高層ビル群が立ち並ぶ丸の内の大通りをゆっくりと進んでいた。


太陽の光を反射する無数のガラス窓。

規制線の向こう側には、王女の来訪を一目見ようと集まった大勢の人々が詰めかけている。


スマートフォンを掲げる者に歓声を上げる者。

テレビカメラもまた、一斉にその車列へ向けられていた。


やがて車列は大きく右へ曲がる。


東京駅丸の内広場前。

先頭車両がゆっくりと路肩へ寄り、その場で静かに停止した。


後部座席のドアが開く。

中から姿を現したのは――フィリア・エルトライム。

王族らしい気品を纏ったその姿に、周囲の空気がわずかに張り詰める。


すでに通路の両側にはSPと警備隊員たちが隙間なく整列していた。

フィリアは彼らへ小さく会釈を返すと、赤レンガ造りの東京駅へ向かって静かに歩みを進める。


それに合わせるように。

上空を飛行していた華、冷、麦も同時に飛行ユニットを解除する。

アスファルトへ静かに着地すると、三人は自然な動きでフィリアを囲むように位置を取った。


そのまま歩幅を合わせながら、護衛を継続する。


――ふと。

何気なく前を見ていた華は、不意にフィリアと視線が重なる。


王女は何も言わない。

ただ――小さく微笑んだ。


その表情に、不思議と緊張の色は見えなかった。まるで最初から、何一つ不安などないかのように。


続いてフィリアはゆっくりと顔を横へ向ける。


隣を歩く冷と視線が合う。

言葉はない。

それでもフィリアは静かに目を細め、小さく頷きを返した。


さらに反対側へ視線が移る。


麦もまた、その視線を受け止めた。同じように、王女は穏やかな表情のまま、小さく首を縦に動かす。

そこに込められていた意味を、三人はもう理解していた。


信じています――と。


広場を抜け、一行はそのまま東京駅構内へと入っていく。

磨き上げられた床に靴音が響く。

すでに駅構内にも厳重な警備体制が敷かれており、フィリアの進むルートにはバリケードが設置されていた。


その向こう側には――。

王女の姿を一目見ようと集まった大勢の一般客。

人垣の最前列では、何十台ものスマートフォンが一斉に持ち上がっている。


シャッター音に歓声。

ざわめき。


普段なら慌ただしく人が行き交う東京駅は、今この瞬間だけまるで別の空間になっていた。


フィリアはその視線を一身に浴びながらも、表情を崩さない。

背筋を真っ直ぐ伸ばし、王族らしい気品を纏ったまま静かに歩みを進めていく。


やがて前方に改札が見えてきた。

本来なら切符や交通ICがなければ閉ざされるはずのゲート。


しかし今日だけは違う。


フィリアの通過に備え、一部の改札はすでに開放状態となっていた。

王女は歩調を崩すことなく、そのまま改札を抜けていく。

その背を追うように、華たち三人も足を進めた。


そして――ホームへ。


「よーし! とりあえずここまでは順調だね!」


華が明るい声を上げる。


ちょうどその時。

停車していた電車の扉がゆっくりと開いた。

ホーム上で乗車口の前に立つ華たちは、多くの黒服SPたちと共にフィリアが乗り込む様子を見守る。


フィリアは一度だけ振り返った。


「皆さまのおかげです」


柔らかな微笑み。

そして静かに続ける。


「次は東京都庁で」


それに応えるように。

華、冷、麦の三人は、それぞれ親指を立てて見せた。

数名のSPが最後の安全確認を終える。


やがて扉が閉まり、モーター音と共に電車はゆっくりと動き始めた。

東京駅を離れていく車両。


「あー……行っちゃったね」


華は電車の姿が完全に見えなくなるまで、じっと見送っていた。

その隣で冷がふと、目を細める。


「……実は今回の護衛」


ぽつり、と呟く。


「わたし達も一緒に電車へ乗る案、最初は出してたんだよね」

「えっ?! そうなの?!」


華が勢いよく振り向く。

冷は小さく頷いた。


「フィリア王女が日本の電車に乗りたいという希望もあって、コースも山手線外周を指定して。今回こういう移動方法になってるんだよ」

「王女本人が電車に…」

「けど影喰の黒紫の水晶をマクガイガが持ってるなら、何かに擬態して潜んでる可能性も十分あるから。……大阪の時みたいに」

「……確かに」


麦も静かに頷く。


「でも断られたのよね?」

「うん」


冷の視線が少しだけ沈む。


「キャロライナさんが今回の警備配置担当のところに掛け合ってくれたんだけど……認めてもらえなかった」

「……」


それを聞いた麦が、そっと顎へ手を添える。


数秒。

小さく口を開いた。


「……可能性の話だけど」


その声に、華と冷が同時に視線を向ける。

麦は顎に手を添えたまま、ゆっくりと言葉を続けた。


「警備配置を決めた人間が……もう既に影喰にやられていて、入れ替わっていたとしたら?」


――その瞬間。

華と冷の表情が、ぴたりと止まった。


脳裏をよぎるのは大阪・トライデントタワーでの一件。


人間に擬態し。

何食わぬ顔で内部へ入り込み。

気づいた時には、すでに手遅れだったあの怪物、


アレクザール。


背筋を、嫌な感覚が這い上がる。

二人は同時に目を見開く。





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