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第8話 8.貴女は―。


一方その頃。

トライデントタワー第三棟、外壁部。


「ブラック・サザンクロスエッジ!」


アヤカが振るった両腕の前に、巨大な漆黒の“十字”が刻まれる。


次の瞬間。

黒い十字は膨張し、無数の黒弾へと分裂。


――黒い雨。


空気を裂きながら、一斉に華へ降り注ぐ。


「っ!」


腰のリボンで外壁へぶら下がっていた華は、咄嗟に身体を捻る。

頬をかすめる黒弾。

避けきれない。


瞬時に判断した華は、拳を大きく振りかぶった。


「おおおッ!!」


ドゴォンッ!!


外壁へ叩き込まれた拳がコンクリートを粉砕する。

巨大な風穴。砕けた瓦礫とガラスを巻き込みながら、華はそのままビル内部へ飛び込んだ。


床を転がる。

勢いのまま受け身を取り、即座に立ち上がった。


だが。

後ろから、破壊音。


ゴガガガガッ!!

黒い弾丸の群れが、壁も天井も食い破りながら一直線に追ってくる。


まるで“喰らいつく獣”だった。


「うわっ、しつこッ!?」


華は通路を蹴り、一気に駆け出した。

背後では、黒い雨が通路そのものを削り取っていく。


「あんなの食らったら、ひとたまりもない!」


直後。

真横から迫る圧に、華の背筋が粟立つ。

反射的に窓の外へ視線を向けた。


そこには――

外壁を駆けるアヤカの姿。

右足を高々と掲げ、こちらへ狙いを定めている。


「ブラック・メテオラ」


静かな声。


次の瞬間、

ゴシャァンッ!!


漆黒の渦を纏った蹴撃が、外壁へ叩き込まれる。

その一撃は、まるで巨大な鉤爪だった。

コンクリートを縦に引き裂きながら、ビルの外壁を大きく抉る。


直後。

耳をつんざく轟音が通路全体を揺らした。


ゴガァァァァンッ!!


爆発にも似た衝撃。

壁面が悲鳴のような軋みを上げ、無数の亀裂が一気に走る。

砕けたコンクリート片とガラスが豪雨のように吹き荒れ、白い粉塵が視界を呑み込んだ。


床が沈み天井は崩れる。

支えを失った通路が、ねじ切られるように裂けた。


華の進行方向にあった通路は、一瞬で崩落。巨大な裂け目となって口を開ける。


「っ!?」


足場が崩れる。

砕けた床が沈み、華の身体が宙へ投げ出された。


「ぐっ……!」


瓦礫と共に落下しながら、華は咄嗟に腰のリボンを展開。伸びたリボンは、剥き出しになった鉄筋へ蛇のように絡みついた。


落下が、止まる。


「くっそ……!」


宙吊りのまま、華は歯を食いしばった。


「足場を壊されたら戦えない!こっちの不利になる状況を、完全に分かってる戦い方だ……!」

「当然よ」


静かな声。

真上から、アヤカがゆっくり下降してくる。

ダークブルーのドレスを揺らしながら、華と同じ高さで静止した。


「貴女の戦闘は分析済み」


赤い瞳が、華を真っ直ぐ見下ろす。


「並外れた怪力。経験に裏打ちされた接近戦。それが貴女の武器」


一拍。


「でも、足場を奪えば怪力は使えない」


淡々と。

まるで事実を読み上げるような口調だった。


「加えて、貴女には致命的な欠点がある」

「欠点?」


華の眉が寄る。


「飛べないこと。そして、“速さ”」

「え?」

「力を振り回しても、当たらなければ意味がない」


アヤカは冷たく言い放つ。


「地を這うゴリラと同じ」

「バナナは好きだよ!」


華は即答した。


「聞いてない」


間髪入れず切り捨てられる。


「もうじき、この三つの塔は“生贄の祭壇”になる」


アヤカが、ゆっくり空を見上げた。

その視線を追い、華も顔を上げる。


――瞬間。


「……なっ!?」


トライデントタワー上空。


黒雲が渦を巻いていた。

空を埋め尽くすほどの闇。

赤黒い稲妻が何本も走り、巨大な穴のように空間が歪み始めている。


ゴォォォ……。

低く不気味な唸りが、空そのものから響いていた。


「なんだよ……あれ……!」


華の視線の先。


黒雲は空を覆い尽くし、赤黒い稲妻を撒き散らしながら巨大な渦を形成していた。

空間そのものが捻じ曲がっている。

まるで、空に“穴”が開き始めているようだった。


「――“地獄の扉”」


アヤカが静かに呟く。


「またの名を、“ヘルズゲート”」


その声には感情がない。

だからこそ、不気味だった。


「あれは、この世界と“向こう側”を繋ぐ門」


ゴロォン――ッ。

黒雲の奥で、赤黒い雷が炸裂する。


「このビルにいる人間達の命を贄にして、門を開く」

「命を……捧げる!?」


華の目が大きく見開かれた。

アヤカは淡々と続ける。


「そう」


その赤い瞳が、ゆっくり華を映す。


「このビルにいる人間は、全員死ぬ」


一拍。


「当然――貴女の仲間も」

「――っ!」


その瞬間。

華の表情から、色が消えた。


「……みんなを?」


喉が、かすかに震える。

脳裏に過るのはキャロライナ、麦。


そして…冷の顔だった。


何気ない日々を過ごしてきた想い出が、話した内容が、一緒に経験したきたことが。


笑った顔が、怒った顔が、困った顔が。


”靄のかかった炎の記憶”が。


そんな、どうでもよくて。

だけど何より大切な時間が、一瞬で脳裏を駆け抜ける。


「……ふざけるな」


ぽつり、と。

低い声が漏れた。


「ん?」


アヤカが、わずかに目を細める。


華は俯いたまま拳を握る。

震えていた。


恐怖ではない。


「そんな理由で……」


ギリッ――と歯が軋む。


「みんなを殺すとか……!」


華が顔を上げる。

その瞳には、先ほどまでの軽さは欠片もなかった。


「絶対に――やらせないッ!!」


ドンッ!!

華は外壁を蹴った。

リボンが鉄筋から外れ、身体が弾丸のように空中へ飛び出す。


「怪力拳――ッ!!」


握り締めた拳を振り抜く。

空気が爆ぜた。


轟ッ――!!

衝撃波が、周囲の窓ガラスを砕きながら走る。


…だが。


「遅い」


その声だけが残った。


「なっ――!?」


視界から、消えている。


次の瞬間。

真横の空間から、黒い刃が閃く。


「ブラックブレード・ファースト」


ゴバァッ!!

鈍い衝撃。


肺の空気は強制的に吐き出される。


視界が揺れた。


肋骨が軋む。

漆黒の刃が内臓を抉り、鮮血が宙へ散った。


華の身体は、くの字に折れる。

血を散らしながら、華の身体が重力に引かれて落ちていく。


「ぐ……ぁ……!」


落下していく華を、アヤカは無表情のまま見下ろしていた。


「怒りで速くなるなら、苦労しない」


黒雲の雷光が、二人の姿を照らす。


「貴女は…弱い」


静かな断言だった。





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