第7話 10.新たな一歩
その後、華たちはヨキチやおばちゃんと合流した。
船の上で、リョウがおばちゃんにこっぴどく叱られたのは、言うまでもない。
影喰の残骸が消えていくのを見届けながら、華たちは事情を説明しながら、陸へと戻った。
――そして、一日後。
「あーー!もっと遊びたかったー!あっという間だー!」
「仕方ないよ、二泊三日だからね」
「途中影喰出もたけど、楽しかったわよね。お土産もたくさん買えたし」
蝉の鳴き声が聞こえてくる朝の時間帯、
夏の暑い日差しが照り付ける。
宿泊していたホテルの前。
バスを待つ三人の足元には、旅行カバンやキャリーケースに加えて、大きな紙袋がいくつも置かれている。
「そういえば冷ちゃん、結局Tシャツ屋さんで何頼んでたの?」
「えっ……」
麦の問いに、冷の動きがぴたりと止まる。
「え!何か作ったの!?見せて見せて!」
気になった華が、冷の肩をつかんで揺らす。
「み、見せない……」
「えー!いいじゃーん!」
「人に見せられないTシャツ、とか?」
「えっ?!勝負Tシャツってやつ!?」
華は顔を真っ赤にして、自分の肩を抱くように身をよじる。
一方の麦は、顎に手を当て、片目を細めて冷静に推測していた。
「……これ、作ってもらったの」
少し照れたように、冷が紙袋から三枚のTシャツを取り出す。
そのうちの一枚を華に、もう一枚を麦に手渡した。
「……あ!かわいい!」
華がぱっとTシャツを広げる。
白を基調に、海面の風紋のような模様があしらわれていた。
「あたしのは青……もしかして、これって」
「うん。変身したときの色をイメージして……わたしは、黒」
冷もそっと、自分のTシャツを広げる。
「こうして、みんなで旅行に来られた記念……だから」
「ありがと!」
隣から、華の元気な声が飛んでくる。
「大事にする」
ぎゅっと、大切そうにTシャツを抱きしめる。
「あたしも大事に使うわ。ありがとね、冷ちゃん」
麦も丁寧にTシャツを畳み、そっと抱えた。その様子を見て、冷の口元がふっと緩む。
――その時だった。
ホテルのロータリーに、一台の軽トラックが入ってくる。
門をくぐり、そのまま三人の前で停車した。
助手席の窓が開く。
見覚えのある顔が、ひょこりと現れた。
「あれ、リョウ君?」
華が目をぱちくりさせる。
「今日帰るって聞いたからさ。見送りに来たんだよ」
運転席のおばちゃんが、にこやかに笑う。
「ほら、リョウ。言うことあったんだろ?」
肩を叩かれ、リョウは少し照れた様子で振り向いた。
「あの後、ちゃんと言えなかったから。その……」
リョウは目を泳がせ、体をもじもじさせる。
運転席のおばちゃんは、やれやれといった様子で横目に見守っていた。
「……助けてくれて、ありがとう」
やっと絞り出した言葉に、華の口元がにかっと緩む。
「どういたしまして!」
「あ、アイアンガールのことは秘密にする!内緒……なんだろ?」
「そうだね。正体がバレたら色々面倒だから、誰にも言わないでくれると助かるかな」
華の後ろから、冷がひょいと顔を覗かせる。
「い、言わない……!お姉ちゃんたちのことは、絶対に……!」
「約束だよ。リョウくん」
ふっと微笑む冷に、リョウの顔がほんのり赤くなる。
その様子を見ていた麦が、少し意地悪そうに目を細めた。
「あら、もしかして照れてる?」
「ち、違うって!」
「あっははは!こんな綺麗な子たちを前にしたら、いつもの悪ガキっぷりも引っ込んじまうねぇ」
「う、うるさいなぁ……!」
必死に否定するリョウに、動揺の色がはっきりと浮かぶ。
おばちゃんはそれを面白そうに見て、豪快に笑っていた。
「あ、リョウ君!」
華が何か思い出したように声をかける。
「な、なに?」
「これからも頑張れよ!」
にかっと笑い、華は親指を立てて見せた。
その言葉に、リョウの表情がぱっと明るくなる。
何度も力強くうなずく姿を、冷と麦、そしておばちゃんが穏やかに見守っていた。
プシュン、と少し離れた場所で音が響く。
振り向くと、那覇空港直通の高速バスが到着していた。
「ほら、バス来たよ。ちゃんと帰りな、ヒーローさんたち」
「はい。色々お世話になりました」
冷が頭を下げる。
それに続いて、華と麦も軽く会釈をした。
ホテルから出てきた他の観光客に混じり、三人はバスへと向かう。
――その時。
「また来な!今度はもっとゆっくり遊んできな!」
軽トラックを降りたおばちゃんの声に、三人は振り返る。
手を上げて応える。
そして――
華たちはバスに乗り込み、ほどなくしてホテルを後にした。
「楽しかったよね」
隣に座る冷が、窓際で肘をつき外を眺めている華に声をかける。
「またいつか、三人で来たいよね」
「うん、絶対に」
にかっと笑った華は、再び窓の外へと視線を向けた。
――その時。
冷は、思わず目をぱちくりさせる。
(……なんだろう)
バスの窓越しに見える海は、
来たときよりも、少しだけ穏やかに見えた。
通路側に座る麦は、アイマスクをつけたまま静かな寝息を立てている。
窓の外を眺める華の隣で、
胸に小さな違和感を残したまま――
少女たちは南国の地を後にし、本土へと帰っていくのだった。
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