第7話 9.不意の出来事
「おばちゃんたち!これから見ることは、内緒にしててね!」
「は、はぁ!?なに言って――」
おばちゃんの声が裏返る。
次の瞬間――
「“変異武装!!”」
それぞれが背負う箱から、白・黒・青の光が弾けた。まるで生命を得たかのように、光は空間へと広がる。
瞬く間に、周囲は三色の輝きに染め上げられた。
無数の粒子が舞う。白、黒、青――それらは意思を持つかのように、三人のもとへと集束していく。
粒子は水着へ吸い付くように張りつき、形を変え、しなやかな装甲ドレスへと変化していく。
同時に――
華の髪に、温かな桃色の光が絡みつく。
ダークブラウンだった髪は、みるみる淡い桃色へと染め上げられていく。
一方、冷の髪留めが弾け飛んだ。
金色の髪が解き放たれ、背中へと広がる。
さらに――
麦のツインテールがほどける。
黒い髪は淡い青の粒子へと変わり、爆ぜるように伸びていく。
耳元で光が弾け、煌めくピアスとなって現れる。
粒子の帯が編み込まれるように絡み合い、艶やかな長い髪が膝まで伸びた。
頭上には、純白の二輪の花が咲く。
足元では粒子が収束し、三色のブーツが形を成す。
装甲ドレスは肌に吸い付くように馴染みながら、強固な力で三人の体を包み込んだ。
最後に――
腰へ集まった光が、ふわりと広がる。
それは大きなリボンとなり、風を受けて静かに揺れた。
次の瞬間――
バチンッ!!
耳をつんざく音とともに、光膜が弾け飛ぶ。
煙の中から現れたのは――
桃色の髪をなびかせ、純白のドレスを纏う少女――華。
金色の長髪を揺らし、黒のドレスで静かに佇む少女――冷。
そして――
淡青の髪を舞わせ、青のドレスを纏う少女――麦。
三人の戦士。
――“アイアンガール”。
沖合の海上に、その姿を現した。
「……あ、あれは」
三人が、船の先端・中腹・後方へとそれぞれ着地する。
その光景に、おばちゃんは目を丸くした。
「おい、あれって……」
操縦席から、ヨキチが顔を出す。
「ああ、間違いない。テレビのニュースに出てた子たちだ……」
おばちゃんが驚く中、華が振り向く。
「下がってて!そいつ、もう来るよ!」
華の声が飛ぶと同時に、海面が大きくうねる。
黒い影が船の真下を横切り、水面が不気味に盛り上がった。
次の瞬間――巨体が跳ね上がり、船へと牙を向ける。
「来た……っ!船を横にして避けて!」
「おおぉ!?よしきた!」
ヨキチが戸惑いながらも舵を切る。
船は海面を切りながら大きく左へ傾いた。
突っ込んできた影喰をやり過ごすが、船尾がわずかに掠め、姿勢が崩れおばちゃんは華達が大きく姿勢を崩す。
「華!リョウくんはどこ!」
冷が叫ぶ。
「あそこ!」
麦が指さす。
影喰は通り過ぎざまに少し離れた位置で、体勢を反転させていた。
その大きく開いた口の奥――リョウの姿が見える。
喉の奥から伸びた黒い触手が手足に絡みつき、身動きが取れない。
「くっ……ぶん殴って吐かせれば早いんだけど……」
華は歯を食いしばり、足元を見る。
「この船じゃ、パンチの衝撃に耐えられなくて沈む……!」
「わたしの光弾、使えないかな?」
冷の提案に、華が顔を上げる。
「どういうこと?」
「光弾を足場にするの。踏み台にすれば、船に負担をかけず動ける」
「いつの間にそんなことが!」
「朝練習、毎日やってるから。それより!」
「うん!」
次の瞬間――
影喰の巨体がうなりを上げて動き出す。
海面を引き裂き、蛇のようにしなるその動きには、明確な殺意が宿っていた。
「よけて!」
「この姿勢じゃ無理だ!」
「まずいっ!」
「ひええ!神様!」
パキィン、と甲高い音が響く。
顔を上げた二人の視界に飛び込んできたのは――
船を覆う、巨大な透明の障壁だった。
幾何学的な紋様が淡く光り、影喰の突進を受け止めている。
宙に浮かぶ麦が、両手を突き出していた。
「ぶっつけ本番だけど……なんとかなったみたいね!」
「すごい……浮いてる?」
「わからない!でも――飛べるみたい!」
「……麦のスーツ。飛行機能付き、ってこと?」
冷が静かに分析する。
「アタシが押さえてる!今のうちに!」
「わかった!冷!」
「おっけぃ!」
冷は両手を構える。
収束した光が、顔ほどの大きさの光弾を形作る。
「――光弾、発射!」
放たれた光弾に反応し、影喰が後退する。
だが次の瞬間、光弾は空中で静止した。
「そこか!」
華が船首を蹴り、跳ぶ。
空中で光弾を踏み込み、姿勢を沈める。
「とらえた――怪力拳!!」
爆発的な加速とともに拳を突き出す――
その瞬間。
影喰は大きく口を開いた。
喉の奥――触手に絡め取られたリョウの姿。
「っ――!」
華は咄嗟に拳を引く。
勢いは止まらない。
次の瞬間、華はそのまま口の中へ突っ込んだ。
バクン――影喰が口を閉じる。
ごくり、と喉が鳴った。
「……え?」
冷の目が点になる。
「た、食べられた……?」
麦も船に着地し、言葉を失う。
一部始終を見ていたおばちゃんとヨキチも、思考が追いつかない。
ただ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で立ち尽くしていた。
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