第7話 4.影からの瞳
一方、その頃――
「うーん、南国の地はいいね。燦燦と照りつける太陽……実に“夏だ”。そうは思わないかい、アヤカ君」
とある高台。
広大な海を見下ろす場所に、“影”が立っていた。
低く、よく通る声。
身の丈は三メートルほど。
全身を覆う漆黒のマントは、風もないのにゆらりと揺れている。
顔には、模様のない白い仮面。
感情を一切映さない、無機質な面。
そして――その頭上では、赤い炎が絶えず燃え上がっていた。
「……ここには、良い思い出がない」
少し離れた場所。
建物の縁に腰掛け、足を宙に投げ出している少女が、ぼそりと答える。
黒いブレザーに膝丈のスカート。
切りそろえられた前髪の奥で、細い瞳がわずかに細められる。
その奥にあるのは――明確な殺意。
「アレクザール。今回は何をするの?」
「なーに。軽い余興だよ」
「また、あの子たちにちょっかいかけるの?」
つまらなさそうに、アヤカは視線だけを向ける。
「新しい仲間が加わって、勢いづいているそうじゃないか。――だから試しに、やってみたいことがあってね」
わずかに間を置くアレクザール。
その声には、愉悦が滲んでいた。
「……ふーん。まぁいいけど」
「今回は君も戦うかい?」
問われたアヤカは、脇に抱えていた紙袋に手を入れる。
取り出したのは、丸い揚げ菓子。
サーターアンダギー。
それを一口かじる。
さくり、と軽い音。
「……いいよ」
短く、それだけ。
「では、そのように」
アレクザールは大きな体をわずかに折り、優雅に一礼。
次の瞬間――
その姿は、まるで最初からそこにいなかったかのように、景色の中へ溶けて消えた。
残されたのは、少女ひとり。
遠くで波の音がかすかに響く。
アヤカは、サーターアンダギーをもう一口かじり――
ゆっくりと、目を細めた。
「……うざったい」
その言葉は、風に乗ることもなく、静かに落ちた。
***************************




