第四章 仁義の果てに
月明かりの下、資材置き場に緊張が走る。
僕は拳を握りしめ、親分・大田 仁はドスを構える。
だが――。
【スキル発動:喧嘩上等 Lv.5】
ダメージを受けるほど攻撃力が上昇します。
【スキル発動:仁義 Lv.3】
信じる者のために戦う時、能力が大幅に上昇します。
「なっ……親分もスキル持ち!?」
驚愕する僕をよそに、大田の体が赤黒い闘気に包まれる。
その迫力は、まさに“修羅場を潜った侠客”のそれだった。
「若造ォ! シノギに首突っ込んだなら、命懸けで通してみせろやァ!」
ドスが閃光のように走る。
僕は直感回避でギリギリ躱すが、頬に血が滲む。
坑道で鍛えた力を込めて拳を叩き込む――だが、仁義スキルに強化された大田はびくともしない。
(クソッ……力の差がデカすぎる……!)
必死にアイテムボックスを駆使し、炭鉱用のスコップやツルハシを取り出して応戦する。
だが、大田は「喧嘩上等」で傷つくほどに強さを増していく。
やがて僕の体は血と煤にまみれ、膝をついた。
「……クッ……これで……終わりか……」
大田がドスを振り上げる。
群衆が息を呑んだ、その瞬間――。
「……だが俺は、街を守るって約束を、最後まで通すぞ!」
フラフラになりながらも立ち上がる僕。
ドスに素手で挑むその姿は、もはや無謀だった。
だが――その眼差しは決して折れていなかった。
◆◆◆
ドスが振り下ろされる直前。
――ピタリ、と止まった。
「……ほぅ。仁義を通すか。テメェ……気に入った」
ドスを引き、笑う大田。
その顔は、戦う前よりもずっと晴れやかだった。
「若造。名は?」
「……ただの炭鉱夫です。みんなからは“若旦那”って呼ばれてますけど」
「ハッ! 面白ぇ! 俺と五分の兄弟にならんか?」
群衆がざわめく。
親分・大田 仁が、敗れたはずの若造に兄弟盃を差し出すなど、誰も想像していなかったのだ。
「……俺と五分の兄弟盃を交わせば、この筑豊は半分お前のシマだ」
「大仁会を……俺に預けるってことですか?」
「そうだ。お前の仁義に惚れた。炭鉱の街のために、俺と並んで立て」
◆◆◆
杯が差し出され、静寂が包む。
僕は震える手でその杯を受け取った。
――こうして、炭鉱夫から成り上がった一人の若者は、筑豊を動かす侠客と五分の兄弟盃を交わすこととなった。
それは、炭鉱街の運命を大きく変える第一歩でもあった。




