キスの約束(前編)
『キスをしないと出られない部屋』の続きになります。
ユラシェとリオンハールは、キスをしないと出られない部屋に閉じ込められたことがある。
キスを知らないリオンハールのために、ユラシェは勇気を振り絞って、キスしようとした。
唇があと三センチで触れるという、その瞬間──ブランドンが馬鹿力を発揮して、扉をぶち破った。
「ユラシェ、助けに来たぞ!!」
ユラシェは、がっかりしている自分に驚いた。
(私、リオンハールとキスをしたかったんだ……。恥ずかしい!!)
いけないことのように思えて、ユラシェは落ち込んだ。
後日。リオンハールは照れくさそうに、でもキラキラと輝くまっすぐな瞳で言った。
「キスってなにかわかったんだ。その……あのね。今度会ったとき、キスをしてもいいですか?」
「あ、はい……お願いします……」
好きだからこそ、触れたいと思う。それは、いけないことではない。
キスの約束に、ユラシェの胸は高鳴った。
すぐにでもリオンハールに会いたいと、ユラシェは願った。けれどそれは、叶わなかった。
リオンハールには、大事な予定があったのだ。
──両親に会いに行く。
リオンハールの両親は、ドラゴン族の王様と王妃様。
リオンハールは両親に会うために、魔物の国を訪れた。元気な姿を見せたリオンハールに、両親は歓喜の涙を流した。
「無事だったんだな! ずっと探していたんだぞ!」
「生きていて良かった!」
感動の再会を果たした後、リオンハールは愛する女性がいることを打ち明けた。
「ユラシェと生きていきたい。だから、ごめんなさい。ボクは人間のままでいる。人間と魔物の架け橋になりたいんだ」
両親は悩んだが、最終的にはリオンハールの意志を尊重した。
「寂しいが、それがおまえの道なんだろう。おまえが人間になったのは、運命なのかもしれんな」
リオンハールは、人間と魔物の架け橋になるという役割を成功させた。
人類の長い歴史上、人間と魔物が友好的な交流をしたことは一度もない。誰もできなかったことを、リオンハールはやってのけたのだ。
偉業を成し遂げたリオンハールに、アジュナール国の国王は最高名誉魔法使いの称号を与えた。
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ユラシェはゴシップ雑誌を読み終えると、ため息をついた。
「喜ばないといけないのに、胸が苦しい……」
ゴシップ雑誌の特集は、アジュナール王国なんでもランキング。
ユラシェや家族の名前も載っている。
美しい顔……一位 ユラシェ
結婚したい女性……一位 ユラシェ
友達になりたい女性……三位 ユラシェ
イケメン……一位 ヨルン王太子 二位 リオンハール
メガネが似合うイケメン……一位 カリオス
渋オジ……一位 ブランドン
恋人にしたい男性……一位 リオンハール 三位カリオス
結婚したい男性……一位 ヨルン王太子 二位 リオンハール
友達になりたい男性……一位 リオンハール
脱いだらすごいんです……一位 ブランドン 二位 ヨルン王太子 三位 リオンハール
人気急上昇のリオンハール。読者コメントは「童顔が母性本能をくすぐる」「笑顔が可愛くて、キュンキュンする」「すごい魔法使いなのに、謙虚なところがイイ!」「優しそう」「黒髪が神秘的」「紫紺色の目が綺麗。見つめられたい!」と大絶賛。
リオンハールが良さが認められたことは嬉しい。けれど、遠くに行ってしまったように感じられて、ユラシェは胸が苦しくなる。
「知らなかった。私って、独占欲が強かったんだ。私だけのリオンハールでいてほしいなんて、わがままよね」
人気者になったリオンハール。たくさんの女性に囲まれている様を想像し、ユラシェの胸は苦しくなる。
部屋でひっそりと泣いている、ユラシェ。それをこっそりと覗き見ている、ブランドンとカリオス。
ブランドンは地団駄を踏んだ。
「わしの可愛いユラシェが泣いておる! リオンハールは、なぜ来ない!!」
「最高名誉魔法使いになりましたから。式典に出たり、講演会が山ほどあったり、子供に魔法を教えるイベントがあったりと忙しいのです」
「子供向けのイベントなんて、マクベスタはやらなかったぞ!」
「あの人は、子供嫌いでしたから。リオンハールは親しみやすいと、ちびっ子たちに大人気なのです」
「ぐぬぬ。複雑な気分じゃ」
ユラシェが可哀想だと、ブランドンはもらい泣きをした。




