コミックス1巻発売しました
ブランドンたちがティータイムを楽しんでいると、カリオスが血相を変えてサロンに飛び込んできた。
「大変だ! ユラシェの漫画が、コミックスになるそうです!」
「なに!?」
「ついにこの日が……」
ユラシェの母は感極まって、涙を流した。
孫娘を心から愛するブランドンは、外出用のコートを羽織った。
「すぐに新聞社を買収して、コミックスの宣伝をするのじゃ!」
「おじい様、それだけでは足りません。オペラ作家に、ユラシェを主人公にした劇を作らせましょう!」
「ナイスアイディアじゃ!」
早速、カリオスとブランドンは行動に移した。オペラ作家、ソワカティーヌの家を訪ねる。
「この金額で、孫娘を主人公にした劇を書いていただきたい」
ブランドンが提示した金額は、ソワカティーヌの年収の十倍。ソワカティーヌは欲に目がくらんで、仕事を引き受けた。
ソワカティーヌは、タイプライターを叩く。
【童話に出てくる眠り姫のごとく、長い眠りについている女の子がいる】
ソワカティーヌの右横から監視していたブランドンが、口を挟む。
「長い眠りとは、何年じゃ?」
「十年です」
「待てん! 一年にしろ!」
「えぇーっ、一年って長い眠りですか?」
ブランドンがソワカティーヌの肩を掴んで、揺さぶる。
「長い眠りに決まっとる! おまえさんは、一年も眠り続けたことがあるのか!」
「……ないです」
ソワカティーヌはブランドンの圧に負けた。ユラシェの眠りを、十年から一年に短縮する。
ソワカティーヌは再び、タイプライターを叩く。
【リオンハールのセリフ「心臓発作で倒れてから一年もたつのに、全然変わってない……」
カリオスのセリフ「最高名誉魔法使いのマクベスタ様に来ていただき、毎日魔法で栄養を送ってもらっているからだ」
カリオス、メガネをクイっと上げる】
ソワカティーヌの左横から見ていたカリオスが、口を挟む。
「マクベスタは、我がメディリアス家の敵。憎い相手なので、めちゃくちゃにしてやりましょう。年齢は、五十代後半。バーコード頭の馬面。動くたびに、薄い髪がふぁさふぁさ揺れるという外見にしてください」
「えぇと、ユラシェお嬢様は十五歳ですよね? 十五歳の少女を追いかける五十代男って、やばくないですか?」
「やばいなんてものではないっ! 世に出してはいけない男じゃ! よし、こうしよう。マクベスタの身長を五センチにして、わしに踏んづけられるというのはどうじゃ? おおっ、そうだ! わしの身長は……」
「公式発表では、ブランドン様は145センチですね」
「印刷ミスじゃ! わしの身長は180センチじゃ!!」
ソワカティーヌは、ブランドンをまじまじと見た。ソワカティーヌは近視だが、さすがに身長145センチを180センチとは見間違えない。
しかし事実を貫けば、報酬をもらえなくなる。
ソワカティーヌは事実よりも、金を選んだ。
「わかりました。ブランドン様の身長は、180センチ」
「おじい様だけ、ずるい!!」
カリオスが不満を爆発させた。
「私だって、くるくる天然パーマではない! ストレートのサラサラ髪に、黒いサングラス。職業は、凄腕のスナイパー。真向かいにあるビルの屋上から、マクベスタを狙った。見事に心臓を撃ち抜き、世界一可愛い妹を守ったって書いてください!」
「でもそれでは、リオンハールの出番が……」
「僕も変えてください!」
長兄ガシューが現れた。泣きながら、訴える。
「ユラにゃんが目を覚ましたとき、一番最初に目にするのは僕がいい!」
「えぇー、でも……」
ガシューは錬金術師。ソワカティーヌの机に転がっていた万年筆を、黄金に変えた。
「これをあげるから、お願い!」
「兄上、ずるーい!!」
ユラシェが、一年もの長い眠りから目覚めたとき。最初に目にするのは誰にすするか?
その座を争って、ブランドンとカリオスとガシューの三人が揉める。
そこに、ユラシェが訪ねてきた。天使のごとく美しいユラシェは、怒っている顔も可愛い。
「ソワカティーヌ様、お願いがあります。私が目覚めたとき、一番最初に目にするのは、リオンハールがいいです」
「え? でも、事実は違いますよね?」
ユラシェはピンク色の頬に両手を当てると、うっとりと微笑んだ。
「目覚めた先にいたのは、恋焦がれていた黒髪の魔法使い様。会いたかったと涙する私を、リオンハールは優しく抱きしめてくれた。めでたしめでたし」
「オーマイガー! 劇が始まって、五分で終わっちゃうよー!」
「いけませんか?」
「ダメです!」
「可愛い孫娘にダメ出しするんじゃない! ユラシェの願いは、一族の願い。全力で叶えてやれ!」
「そうだそうだ!!」
「ユラにゃんを泣かせたらいけないんだおー!」
「でもさすがに、五分で終わったらダメでしょ……」
ソワカティーヌは、仕事を引き受けたことを後悔した。
すると今度は、リオンハールが部屋に入ってきた。
「僕からもお願いがあります」
「えぇ〜、君もなの?」
「はい。起こったことを、そのまま書いてください」
「いいの? 君は、へっぽこ八流魔法使い。ドジで落ちこぼれで恋愛偏差値が低い。オペラ鑑賞デートでは、いいところを見せられなかった。それでいいの? ヒーローなんだもん。かっこよく書いてあげるよ」
「そのままでいいです。僕は、いいところを見せられなかった。ユラシェをエスコートできなかったし、パンフレットを逆さまに見たし、階段から転げ落ちた。でも、そんな僕にユラシェは優しかった。またデートしたいと言ってくれた」
リオンハールはユラシェを見ると、にっこり笑った。
「僕がかっこいいことよりも、ユラシェが優しくて素敵な女性だということを観客に伝えたいんです」
「大好き!」
リオンハールの胸に飛び込んだユラシェ。
ブランドンとカリオスとガシューは、顔を見合わせた。
「そうじゃな。ユラシェの素晴らしさを観客に伝えるのが一番じゃ」
「はい。我が妹ユラシェは可愛いだけでなく、優しさと強さを持った世界一素晴らしい女性である。それが一番です」
「うん。そんな可愛いユラにゃんの兄は僕だと、観客に知ってもらえればいいよね」
「ガシュー、おまえというやつは……いいことを言う!! そうじゃ! 素晴らしいユラシェの祖父はわし、ブランドンじゃ!」
「私も私も! 優しさと強さを持った世界一素晴らしいユラシェの兄は、カリオスです!」
ソワカティーヌはワイワイと盛り上がっているみんな声を適当に聞き流し、タイプライターを打つ。
こうして出来上がったのが、
『優しい婚約者が変です〜お嬢様は黒髪の魔法使いに恋をする〜』
です。ドタバタラブコメディ、ぜひお楽しみください。




