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王城の魔法使いになる前のお話(後編)

 アジュナール城の魔法使い採用試験、当日。

 試験会場に入ったリオンハールは、言葉を失った。考えが甘かったことを知る。


「人がたくさんいる……」


 アジュナール国は、魔法先進国。アジュナール城で働くのを夢見て、世界中から魔法使いが集まっていた。

 採用人数は五人なのに、応募者は三千人。

 リオンハールはため息をついたが、すぐに気を取り直す。


「ここで働きたいって思うから、がっかりするんだ。期待しちゃダメだ。ボクの目標は、一次試験合格!」


 黒い髪と紫紺色の瞳のリオンハールは、どこに行ってもジロジロと見られる。試験者の間から「変な色」「気持ち悪い」との囁き声が聞こえてきた。

 リオンハールはうつむき、唇を噛んだ。


「気にしない。一次試験は筆記だもん。変わった色をしていることなんて、関係ない」


 リオンハールは、集中して試験に臨んだ。予想よりはるかに難しかったが、解答欄を全部埋めることができた。



 試験が終わると、リオンハールは庭に出た。


「王城に来るのはこれが最後だろうから、見ておこう」


 王城の広大な庭を見て回る。

 すると、鳥が地面に落ちているのを発見した。よく見ると、翼に怪我をしている。


「治してあげるね」


 リオンハールは魔法の杖を取り出すと、光を放った。水色の魔法が鳥を包む。

 傷口が塞がった鳥は、立ち上がった。翼を上下に動かし、空へと飛んでいく。


「君は優しいね」


 リオンハールが振り返ると、端正な顔立ちをした男性が空を見上げている。鳥が飛んでいった方向だ。

 男性は視線を下げると、穏やかな微笑を浮かべた。


「受験者?」

「はい」

「そうか。試験はどうだった?」

「難しかったけれど、全部書けました」

「受かりそう?」

「うーん……受かるといいけれど。一次試験合格が目的だから……」

 

 男性は、不思議そうに眉を顰めた。


「一次試験合格が目的? 王城で働きたいわけではない?」

「そういうわけじゃないんですけれど……」


 リオンハールと男性は庭園を歩きながら、話をする。

 リオンハールは親を知らないことや、孤児院にいることを話すつもりはなかった。だが話しやすい雰囲気と、男性が突っ込んで聞いてくるものだから、ありのままを話した。


「ボクの黒髪と目の色、変だから。どこも雇ってくれないんです」

「珍しいというだけで、ちっとも変ではない。私は、綺麗な色だと思うよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 リオンハールは照れて「えへへ」と笑った。男性は表情を厳しくした。


「我が国民は勤勉で素晴らしいが、見た目に重い価値を置くのはいただけない。君がもし、魔法の才能にあふれているのなら、王城で働いてもらいたい」

「え? いいの? ……あ、でも、魔法の才能がそんなにあるとは思えない」

「そうかな? 君からは特別なものを感じる。表に出ていない不思議な力だ。自信を持って。本当に大切なものは、目で見るものではなく、心で感じるものが多い。君は素晴らしい魔法使いになれる。そんな予感がするんだ」

「ありがとうございます! ボク、頑張ります!」


 男性の励ましのおかげで、リオンハールは勇気が湧いた。


 その後、一次試験合格のハガキが届いた。

 二次試験は、集団魔法バトル。三次試験は、一対一の魔法バトル。四次試験は、王城魔法使いとのバトル。

 そして、最終試験はヨルン王太子との面接。

 

 面接する部屋に入ったリオンハールは、顎が外れるほどに驚いた。

 そこにいたのは、王城の庭で話した男性。リオンハールを励ました人が、ヨルン王太子だったのだ。


 

 ◆◇◆◇



 リオンハールは、王城魔法使いに採用された。

 リオンハールは浮かれたが、待っていたのは厳しい現実。

 筆頭魔法使いマクベスタは、氷のような冷たい目でリオンハールを睨んだ。


「ヨルン様のお情けで、合格できたのだ。調子に乗るな。おまえは八流魔法使いだ」

「八流……そんな言葉、あるんですか?」

「おまえ専用で作ってやった」


 マクベスタが「八流」と呼ぶので、他の魔法使いたちもリオンハールのことを「八流」と呼ぶようになった。


「絶対に、一流になる!」


 リオンハールは意気込んだものの、与えられる仕事は雑用ばかり。講習会や実践練習に参加したいのに、呼んでもらえない。

 王城に来て、半年が過ぎた。同期の四人は責任の伴う仕事に就いたのに、リオンハールは相変わらず雑用係。ゴミ捨て、掃除、スケジュール管理、意見書作成、謝罪文作成、各部署の連絡調整係など。


「こんな仕事じゃ、いつまでたっても八流魔法使いのまま。強くなりたいのに……」


 ヨルン王太子の期待に応えられない自分が情けない。

 ある日。リオンハールは、ヨルンに訴えた。


「ボクは、このまま王城にいてもいいんでしょうか……」

「もちろん」


 涙目のリオンハールを励ますように、ヨルンは力強く答えた。


「この世は、どの家に生まれたかで一生が決まると言っても過言ではない。裕福な家に生まれた者は、高い教育を受けて出世できるが、貧しく生まれれば学校へも行けず、望む職に就くことすら難しい。だが私は、それではいけないと思っているんだ。君にはぜひ、両親がいなくても、環境を用意すれば才能が開花するということを示してほしい。期待しているよ、リオンハール」

「ヨルン様……。ボク……頑張ります!」


 ヨルンは、困ったことがあればいつでも相談に乗ると言ってくれた。

 リオンハールは、魔法使いの仲間たちにのけものにされたり、意地悪をされて困ってはいる。だがそれを、ヨルンに話すつもりはない。


「ヨルン様なら助けてくれる。でもボクは、自分の力で困難を乗り越えたい。そのためには、もっともっと仕事を頑張ろう!」


 真面目に一生懸命に仕事をすれば、仲間たちに認めてもらえる。リオンハールは期待した。

 しかし、雑用係のまま月日が過ぎていく。


 王城仕えの魔法使いは天才ゆえに、プライドが高い。派手で目立つ仕事は張り切るが、注目を浴びない地味な仕事はやりたがらない。そういうわけで、雑用をリオンハールに押しつけている。

 

 この日も、リオンハールは王城の見回りをしていた。褒められることもなく、認められることもない仕事。

 けれど真面目に王城を回っていると、思いがけない人がいた。


「ユラシェ様!?」


 落としたブローチを探しているユラシェがいたのである。

 リオンハールは神様に感謝をした。


(真面目に頑張っているから、神様がプレゼントをくれたんだ。ありがとう!)


 リオンハールは勇気を振り絞って、憧れのお嬢様に声をかけた。


「何かお探しですか?」


 ユラシェの瞳に初めてリオンハールが映り、そして、恋が始まった日──。

 


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