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王城の魔法使いになる前のお話(前編)

こちらの作品、「優しい婚約者の様子が変です〜お嬢様は黒髪の魔法使いに恋をする〜」のコミックス1巻が発売になります。

発売日は、4月27日です。

ぜひお手に取ってみてください。

発売記念で、SSを3本掲載します。

 リオンハールは、自分の過去を知らない。

 意識がはっきりとしたときには、雨に打たれていた。


「……ここは、どこ? 冷たい」


 自分は何者で、どこから来たのか。そして、ここはどこなのか。

 そんな単純なことが、わからない。


「どうしよう。ボク、どこに行ったらいいの?」


 リオンハールは怖くなって、走った。

 あの角を曲がったら、知っている景色があるのではないか。そう期待して曲がり角を折れても、そこにあるのは見たこともない建物。


「お父さんっ!! お母さんっ!!」


 何度叫んでも、答える人はいない。雨の降る音が響くばかり。

 リオンハールは疲れて、走るのをやめた。どうしたらいいのかわからず、街を彷徨う。


「坊や。どこから来たの?」


 親切な女性が声をかけてくれた。リオンハールの上に、女性の傘が差し出される。

 

 どこから来たのか。親はどこにいるのか。 

 リオンハールは答えられない。


 行くあてのないリオンハールは、孤児院に入れられた。

 院長は言った。


「自分の名前を思い出すまで、仮の名前で呼ばせてもらうよ。オリバーはどうだ? それとも、ガブリエルがいいかい? ピンときていない顔だね。では、レオ。ノア」


 どれもしっくりこなくて、リオンハールは黙り込んだ。

 院長は辛抱強く、名前を言い続ける。


「ジェームズ、セナ、ルーカス、イライジャ、ケント、リオンハール」

「っ!? ボク、リオンハールがいい!!」


 リオンハールは、思った。


(ボクの本当の名前は、リオンハール! 両親は今頃、ボクを探している! ボクは家に帰れる!)


 リオンハールという名前が、記憶のない自分と両親を繋ぐ希望に思えた。

 けれど夏が過ぎ、秋になっても両親は現れない。リオンハールを探しているという噂もない。

 

「ボク、捨てられたのかな……」


 孤児院には、たくさんの子供がいる。しかし、リオンハールはいつもひとりぼっち。


「真っ黒い髪の毛、キッモ!!」

「こっちに来んな!!」

「目の色、変!」

「おまえみたいなヘンテコなやつ、誰ももらってくれないぞ!」

「やーい! ヘンテコだから、親に捨てられたんだろう!」


 リオンハールは、瞼をゴシゴシと擦った。親に捨てられたと認めたくない。


「違う。ボクは、捨てられたんじゃない。事情があって、お父さんとお母さんから離れちゃったんだ。……家に帰りたい」


 帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。


 でも、どこに?

 家がどこにあるのか、わからない。両親の顔も、わからない。



 ◆◇◆◇



 月日が過ぎ、リオンハールは十六歳になった。

 名前だけでなく自分の年齢もわからないのだが、体格からして十六歳だろうと、院長が年齢を決めたのだ。


「リオンハール。孤児院には、十六歳までしかいられないんだ。困ったね」

「はい……」


 孤児院にいられるのは、十六歳まで。それ以降は、働かなくてはいけない。

 だからリオンハールは必死に働き口を探しているのだけれど、採用してもらえない。

 

(見た目のせいだ。ボクの髪と瞳の色が、変だから)


 アジュナール王国の国民は、髪と瞳の色が明るい。金、ライトブラウン、水色、黄緑、オレンジ、ピンクなど。

 リオンハールのような黒髪と紫紺色の瞳は、異質の存在。薄気味悪く思われて、面接で落とされてしまう。


 暗い表情のリオンハールに、院長は提案した。


「君には、魔法の才能がある。思いきって、王城魔法使いの試験を受けてみてはどうかね?」

「王城の? そんなの無理です」

「まぁ、厳しい道ではある。アジュナール城に勤める魔法使いは、普通の魔法使いではない。一流のさらに上。超一流の腕前を持つ魔法使いたちだ。魔法の才能がある。それだけではダメだ」

「だったらどうして、試験を受けろなんて……」

「一次試験は、筆記だ。合格基準に達した者には、一次試験通過ハガキが届くそうだ。そのハガキがあれば、雇ってくれるところがあるはずだ」


 院長の言いたいことが、わかった。

 王城魔法使いの試験を受けるが、王城魔法使いになるのが目的ではない。目的は、一次試験通過のハガキを手に入れること。そのハガキがあれば、魔法使いの仕事に就くのに有利だ。

 リオンハールは目を輝かせた。


「ありがとうございます! ボク、頑張ります!」

「私は目が悪くてね。リオンハールが十六歳に見えていたが、よくよく見れば、幼い顔をしている。まだ、十五歳だ」

「え?」


 意味がわからず、リオンハールは首を傾げた。

 院長は机の上で手を組むと、穏やかな眼差しを向けた。


「十六歳になるまで、あと一年ある。試験勉強に励みなさい」

「あっ!? ありがとうございます!!」


 院長の慈悲深さに、リオンハールは声をあげて泣いた。

 孤児院の生活は、寂しくて、つらいことばかり。けれど院長に出会えたことは、リオンハールの宝物になった。

 一年間、リオンハールは必死に勉強した。



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