キスの約束(後編)
カリオスは手帳を捲った。
「リオンハールのスケジュールは、半年先まで埋まっています。当分、デートは無理でしょう」
「そこをなんとかしろ! わしの可愛いユラシェの体内水分を、涙にしていいのか!」
「いいわけないでしょう! 可愛い妹のもちもちお肌が乾燥してしまう!」
カリオスは、メガネをクイっと上げた。
「私にいい考えがあります。明日の午前は、リオンハールは新聞社のインタビューと写真撮影。午後は、魔法講習会の講師。夕方は、外国の要人との会合。夜は、魔法学会パーティーの挨拶。これらの予定を全部、他の者にやらせましょう」
「パーティーの挨拶は代理でもいいだろうが、その他は無理ではないかのぅ?」
「愛する妹のためなら、私は不可能を可能にしてみせます!」
カリオスのメガネが、キラリと光った。
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翌日。ユラシェはカリオスから、世界の花図鑑を渡された。
ユラシェが花図鑑を開くと、まばゆい水色の光が広がった。
「リオンハールの魔法の色だわ!」
水色の魔法の光が消えたとき。ユラシェは、色とりどりの花が咲き乱れる美しい花園に立っていた。
その花園にいるのは、リオンハール。
「ユラシェ!! 会いたかったよ!!」
リオンハールが満面の笑顔で走ってくる。少し痩せたものの、優しい笑顔は以前と変わらない。
「私も会いたかったです!」
ユラシェは嬉しさのあまり、リオンハールの胸に飛び込んだ。
泣きじゃくるユラシェの髪を、リオンハールが優しい手つきで撫でる。
「ごめんね。ボク、仕事を断れなくて……。昨日、カリオスがボクの秘書になってくれたんだ。ボクのところに来ていた仕事を、他の人に割り振ってくれた」
「そうだったのですね。だから今日、会うことができたんですね」
「うーん……」
リオンハールは、気まずそうに頬をポリポリと掻いた。
この時間は本当なら、新聞社のインタビューと写真撮影が入っている。他の人に任せることができない仕事なのだが……。
ブランドンが「今度は、ヨルン様がリオンハールに変身するのじゃ! 助け合いの精神じゃ!」と詰め寄ったのである。
そういうわけで、新聞社のインタビューを受けているのは、リオンハールに変身したヨルン。
(ヨルン様。お休みなのに、ごめんなさい)
リオンハールは、心の中で謝罪した。
リオンハールとユラシェは、手を繋いで花園を散歩する。それから、花の冠を作って交換した。
ユラシェが作った花冠は、リオンハールの頭の上に。リオンハールが作った花冠はユラシェの頭に。
「ユラシェ。寂しい思いをさせてごめんね」
「いいんです。わかりましたから」
「ん?」
ユラシェは微笑んだ。
最高名誉魔法使いになっても、みんなの人気者になっても、リオンハールは変わらない。優しい笑顔で、隣にいてくれる。それがわかったのだ。
「リオンハールに出会えて、本当に良かった!」
「うん、ボクも! ……あのさ。約束、覚えている?」
「約束? なんでしたか?」
リオンハールはユラシェの手を取ると、手の甲に口づけを落とした。
「思い出した?」
──今度会ったとき、キスをする。
二ヶ月近く会えないでいたが、ユラシェもリオンハールも忘れていない。今度会ったら……と期待していた。
(私、やっぱり独占欲が強いみたい。リオンハールを、誰にも取られたくない。これが、本気の恋というものなんだわ)
ユラシェは、頬をピンク色に染めた。
「……思い出せないです。忘れました。だから、あの、もう一回お願いします……」
リオンハールは驚いたものの、ユラシェの願いを叶えた。
はにかみながら、ユラシェの頬にキスをする。
「思い出した?」
「……まだ、ダメみたいです……」
リオンハールは、キスをする。ユラシェの額やこめかみや鼻、耳、首筋に。
ユラシェはリオンハールの熱を唇で感じてやっと、「思い出しました」と真っ赤な顔で微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
コミックス1巻発売記念のSSは、以上で終わりになります。
2巻が発売されるときにまたSSを載せたいと思いますので、楽しみにお待ちください。
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