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無事に?

 光は闇に――

 視界は真っ黒に覆われ、その全てが歪んで映し出される。

 気持ちの悪い感覚。俺の知ってる中で語るならば、無理やり飲み続けた酒で酔っ払った時に近いかもしれない。

 ただそれ以上に気持ち悪い。身体の自由も利かない。

 ただただ吐き気の激流が押し寄せてくる。

 左右の感覚が無い。無論、上下という感覚も。

 放り出され、闇の中を彷徨い、抗うのも至難。

 俺は一体どこに、どこまで流されていくのだろう――

 終わりの見えない闇の中をひたすら通り抜けては流されていく。


 だがその時は不意に来た。

 突如として現れた光に包まれる。

 ここがおそらく終着点なのだろう。

 しかしこの気持ち悪さは終わらない。むしろどんどん酷くなっている。

 少しずつ身体の自由が返ってくる。同時に気持ち悪さがよりリアルなものへと変貌していく。

 多分これは感覚を取り戻しつつあるが故の弊害なのだろう。あ、だめだ。もう限界――


 頭がぐっちゃぐちゃでガンガンに痛い。

 気付けば、俺は吐いていた。

 光の中で思いっ切り吐いた。


 それでも治まらない。ただひたすらに吐いた後、俺は意識を失った――


「――きろ。起きろ慶志郎――」


 呼ぶ声に意識が覚醒していく。

 おぼつかない視界の先には空が広がっていた。

 雲一つない澄んだ青空が広がっている。

 太陽が眩しい。どうやら俺は今仰向けで倒れているようだ。

 何の変哲もない風景に、果たして無事に辿り着いたのだろうかと疑問が湧く。


「起きたか慶志郎」

「アレイスターさん……?」

「ああ、俺だ。立てるか?」


 陽を遮り、アレイスターさんが俺の顔を覗き込んでくる。それに反応すべく、立ち上がったその時、急激にズキンと頭が痛くなった。


「うっ……ぷ……」

「無理をするな。気持ち悪いなら吐いてしまえ」


 さっきまで感じていた吐き気がここに来ても付き纏う。

 あまりの気持ち悪さに膝を付く。我慢など出来やしなかった。

 そんな俺を見透かしたようにアレイスターさんが俺の背中を擦ってくれる。


「おろろろろ……」

「楽になるまで出してしまえ」


 そう言いながらアレイスターさんが優しくずっと擦り続けてくれた。

 こんな時までイケメンの対応をされれば、男女関係なく誰しもがイチコロである。

 この人に優しくされると、どうしてこんなにも素直になれるのだろうか。普段はあんな無茶苦茶で頼りがいが無いのに……

 しかし今はこの優しさに存分に甘えておく。


「うっぷ……」

「少しは楽になったか?」


 アレイスターさんのおかげで少しは楽になった。もう何も出てこない。

 まだ脳が揺れるような感覚があり、ふらつくが何とか起き上がる。


「オウミさんが――皆が言ってた覚悟ってこういうことですか」

「これも含めてだが、先生が危惧していたのは主にこれだろうな。」

「そ、そうですか……て、ていうか何でアレイスターさんは平気なんですか……」

「俺やヒノタテは普段から空とか飛んでるからな」


 アレイスターさんが淡々と言う。理由にはなっていないが、三半規管が鍛えられているということなのだろうか。

 でもそれだと――


「じゃあ、あれは――」


 そう言って少し離れたヒノタテさんの方を見る。

 流石というべきか、確かにヒノタテさんは何事も無かったかのように平気そうに見える。

 しかしその一方でアカビとヒタキは俺と同じようにダウンしていた。

 女の子である二人を前に深くは語らないが、まあ、その、何だ……色々撒き散らしては白目を剥いて気を失って……いや未だ眠っているだけだな、うん。


「飛べるとは言えまだ子供だからな。ゲロ撒き散らしても多めにみてやれ。それが今も尚、気絶しながら吐き散らか――」

「いや、止めましょう。深くは追求してはダメです」

「あれはあれで器用なんだが、お前がそう言うのなら俺は何も言わない。だが、それを踏まえてお前はよく耐えている」

「あ、はい。ありがとうございます」


 これ以上は言及しない。二人のためにも。

 それよりも今は目の前の光景に集中する。


 見上げた空は見慣れた青空が、踏みしめる大地は最近やたらと慣れ親しんだ山のような土の感覚が、妙に親近感が湧く。

 確かに何処か見知らぬ土地である。けどそれが俺が居た世界、ひいては日本とかけ離れているかと言われれば些か疑問だ。

 少しだけ息が詰まるというか、空気が薄く感じるのは今居る場所が高い位置だからなのだろうか。


 俺はもっと想像していたゲームや漫画にでてくるような――そんなファンタジー要素を想像していたんだが、何処にも無い。

 だからこそ俺は少し疑問と期待外れの感情を持ちながらアレイスターさんに聞く。


「アレイスターさん、本当に俺達はアレイスターさん達の世界に来たんですか?」

「あぁ、そうだな。ちゃんと辿り着いた」

「そうですか。何かなんか凄く見慣れた光景だなって」

「そうだな。お前の想像とはかけ離れているな」


 俺の心を読んでいるならば、俺の言いたい事も伝わっているであろう。

 期待を裏切られた、ではないけどもそれなりにがっかりしている。


「で、ここは一体何処なんですか?」

「ここは、そうだな。おそらく――」

「ここは俺達の土地だな。歓迎する」


 アレイスターさんとの会話にヒノタテさんが入ってくる。

 振り向けば、アカビとヒタキの二人を米俵でも持つかのように担いでいた。

 二人から何か色々と女の子から出ちゃいけないのが今も出ちゃってる。


「えっと、その……その子達、大丈夫なんですか?」

「心配するな。時間が経てば元気にはしゃぎ回る」

「でも見た目がヤバいっす……」

「確かにヒノタテが襲ったと思われるだろうな」

「ですね」

「何……?」


 ヒノタテさんが怪訝に俺達を睨む。

 が、アレイスターさんがいる心強さからか、平常を保っていられる。


「ふむ、ならば急ごう。付いてこい」

「あ、ちょ、待って下さい」


 そう言うと、ヒノタテさんは歩き出した。

 俺もアレイスターさんもその背を追いかける。


「えっと、何処に行くんですか?」

「言っただろ。ここは俺達の土地だ」

「久しぶりだな。あの婆さんに会うのは」

「ば、婆さん?」

「慶志郎、気を付けろ。ロン婆はかなり口うるさい」

「アレイスター、お前はもっと言葉に気を付けろ」

「ちょ、全然話が見えないんですけど!」


 俺を他所に二人の会話が進んでいく。

 それを見かねてか、ヒノタテさんが俺に言う。


「だから言っただろ。歓迎すると」

「そんな無表情で言われても!」


 その言葉に含まれた意味をまだ汲み取れていないが、何やら怖い気がしてならなかった。

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