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誘い

「慶志郎、俺と共に来い」

「へっ? あっと……えっ……?」


 アレイスターさんの唐突な言葉に俺は間抜けな声を出すしか出来なかった。

 それだけアレイスターさんの言葉は衝撃的だった。

 だって、それってつまり――


「アレイスターさん達の世界に行くってことですか」

「そうだ」


 肯定。

 見知らぬ世界への誘い。

 ドクンと鼓動が高鳴る。

 好奇心のようなもの――では無い。真っ先に浮かんだのはもう何年も会ってない親父の姿。

 もし会えるのなら――言いたい事も聞きたい事も山程ある。

 けど、今はそれより先にぶん殴ってやりたい。

 ルフの事も竜華の事も――見てきた全部を拳に乗っけて思いっ切り。


「だ、駄目に決まっているだろう。アレイスター、お前は何を考えているんだ!」


 俺の良からぬ想いを読み取ったのか、オウミさんがすかさずアレイスターさんのそれを否定した。


「しかし先生、俺がどうする事も出来ない以上、ここは慶志郎に頼るのが無難かと」

「だから何故そうなる!? そんな些細ないざこざなんぞカトラにでもぶん投げておけ!」

「お言葉ですが、里の連中がカトラや光志郎の言う事を聞くとでも?」

「ぐっ……。だからと言って慶志郎を連れて行っても仕方ないだろう」

「いえ先生。慶志郎ならやれますよ」

「アレイスター……!」


 おお。珍しくオウミさんが押されている。

 じゃなかった。二人の話を聞き、状況を整理する。

 アレイスターさんの里のピンチにアカビとヒタキがアレイスターさんに助けを求めたが、それを断り、でも俺と一緒なら良いと言っている。


 ……謎が深まった。

 オウミさんの話ではそれを親父やルフのお母さんに解決してもらえと言っているが、アレイスターさんは聞く耳を持たないの一点張り。

 なのにどうして俺ならと言い切れるのだろうか。

 余計に謎が深まる……。


「おい、アカビとヒタキと言ったな。お前達からもこのアホに言ってやれ」

「うーん……私達はアレイスター様を里へ連れ帰れるのなら何でも良いです……」

「うん! しかも女王のご子息で秘蔵っ子様をついでに連れて帰れるなら踏んだり蹴ったりだよ!」

「ヒタキ、それ使い方が違う」

「お前達もか……!」

「諦めろ、オウミ。こいつが言い出したら梃子でも動かないのはお前が良く知っているだろ」

「そうだな知っている。だからこうして今無理矢理にでも止めようとしているのだ!」


 ……なるほど。俺は里にとっての打算的な土産か何からしい。

 おそらく俺という存在自体が肝になるっぽい。

 それが何なのかは今得た情報からでは知る術が無い。

 だが、ヒタキの言った秘蔵っ子という意味を紐解けば、何となく正解に辿り着きそうな気がする。


「慶志郎! 私はお前を行かせる訳にはいかない。行かないと言ってくれ」


 オウミさんが俺を見て言う。


 懇願。

 オウミさんのその目が宿した色が揺れている。

 おそらくオウミさんはとっくに気付いている。だからこそこれはある意味禁忌に近い泣き落とし。

 揺らぐ、俺はどうすれば良い……


「お兄ちゃん……」


 か細い声と共に竜華が俺を見上げる。ギュッと心臓が握られた気がした。

 俺が誘いに乗れば、二人の面倒は誰が見る。

 そうだよな、俺までもが薄情になってはいけない。

 俺は竜華に告げる。


「うん、そうだよな……竜華、ごめんな。一人で突っ走るとこだった」


 俺がそう言った時の竜華のホッとした顔は安堵に満ちていた。

 そんな竜華を見たからか、アレイスターさんは肩をすくめたようにそれ以上何も言わない。

 何気にアレイスターさんは竜華やルフを気に入っているのか、二人の意思を優先してくれる。


 でもそれは今まで二人の意思が、物事の考えが合致していたから。

 もし……もしも二人が食い違った時、この人はどちらの意見を優先するのだろう……?


「ねぇお兄ちゃん」


 そんな考えが浮かんだ時、ルフが俺の元へ寄ってきた。


「お兄ちゃんは、おかーちゃんとおとーちゃんに会いにいくの?」


 そして俺を見上げ聞いてくる。

 さっきのオウミさん達の話を聞くにカトラって人がルフのお母さんなのだろう。

 本来の目的ではなかったが、会えるなら会ってみたい。けどそれは今でない。


「ううん、そのつもりだったけど辞めたんだ」

「ふみゅ? どうして?」


 俺がそう言うと、ルフはこてんと首を傾げた。

 そして続けざまにルフが言う。


「おかーちゃん、お兄ちゃんのこと、すごくしんぱいしてたよ? おとーちゃんも」

「そうなの?」

「うん、だからお兄ちゃんはあわないとダメ」


 ルフが真っ直ぐに俺をじっと見つめてそう言ってくる。

 そう言われると何だか会わないといけないと感じてしまう。

 それだけルフの言葉には力があり、なんだか気圧されるような凄みを感じる。


「でもねルフ。今回は会いに行く事が目的じゃないんだ。それに、ルフと竜華を連れていくことは出来ないんだよ」


 今回はルフや竜華とは関係ない事情。

 だから二人を連れていくことは出来ない。その辺をルフは分かっていないと思う。

 そしてこう言えばルフも諦めてきれるだろう。そう思っていた。


「うん。ルフはだいじょうぶだよ? リュウお姉ちゃんとおばばとおるすばんできるよ? ね、リュウお姉ちゃん」


 しかしルフから出た言葉は意外なものだった。

 ちらりとオウミさんを見れば驚いていた。

 どうやら心情は俺と同じらしい。

 ルフはこう言っているが、竜華の事も考えなければならない。

 だが俺はどちらの想いを優先すればいいのだろう。


「えっと……」

「お兄ちゃん、私は大丈夫。だからルフを言う事を聞いてあげて」


 迷っていると竜華がそう言った。

 それがお姉ちゃんとしてのプライドなのか、それとも竜華のほんとうの心情なのかは分からない。

 けど自分の事よりも他の誰かを思うことが出来るのが竜華っていう子だ。


「――分かった。俺、行ってくるよ」


 ルフの、そして竜華の想いに背中を押され、俺は頷いた。

私事ですが多忙過ぎて全く書けずにいます。申し訳ありません。

何とか時間を作って書いていきますので、どうかよろしくお願い致します。

(繁忙期がこんなに忙しいとは思ってもみなかった)

寒暖差の激しい日が続きますが、皆様体調にはお気をつけ下さい。

(正直ぶっ倒れそうでした)

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