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勇猛果敢

 男と目が合う。

 屈強、獰猛、勇敢――

 どの言葉でも表せない。

 しかし、数多の死線を越えてきたような凄みは正に歴戦の猛者――

 この人の前に立っているだけなのに、重圧がハンパない。

 背中を伝う汗が嫌らしく冷たい。

 自分でも分からないくらい、余程緊張しているらしい。

 何故――?

 勝てないからだ。

 今の俺だから分かる。どう転んでも勝ち目がない。

 やっと立つことが出来るようになった赤子が竜に立ち向かうかのような無理に等しい。

 そう思ってしまうのは、やはり俺が力の使い方を分かってきたからであろう。


「――ヒノタテ、慶志郎をあまり怖がらせるな」

「む、俺にそんなつもりは一切無い」


 オウミさんが俺達の間に割って入ってくれた。

 たったそれだけなのに弱気に沈んだ心を立ち直らせてくれる。

 そのおかげか少し冷静さを取り戻す。


「ヒノタテ……? って、アレイスターさんと同じ……」


 ちらりとアレイスターさんを見ると、何かを考えているような複雑そうな顔をしている。

 その後ろで竜華は――


「思い出した! 竜華のッ!」


 竜華から聞いた話を思い出す。こっちに来る前に散々な目に合っていた。

 そのトラウマを思い出してしまったからか今もアレイスターさんの後ろから離れようとしない。


「そうだ。俺が育てた」

「おーっ! 私、白竜種を初めて生で見た!」

「ヒタキ、種で呼ぶのは失礼。竜華って名前で呼んで」

「でもアーちゃん! いきなり名前で呼ぶのは抵抗あるよ! ね! ヒノタテ様!」

「何でそういう常識はもってるのよ」

「それは本人に聞け」


 ヒノタテという男が話しているのに何やらさっき少女達がぴーちくぱーちく騒いでいる。ちょっとうるさい……


 しかしながら、この少女達がヒノタテを様付けで呼んで敬っている様子と、表情を見るに、竜華が語ったそれとは似つかない。

 寧ろまるで別物のような気がする。

 ただ、だからと言って竜華が嘘を言ってるようにも思えない。

 それは今のこの様子が火を見るよりも明らかである。


 いや今はそれよりも――


「竜華、大丈夫。俺が付いているから」


 そう言って安心させたかったが、竜華は不安を隠す事無く俺を見上げてくる。

 それは多分、ヒノタテって人の強さを嫌と言うほど知っているから。

 このギュッと俺のズボンを掴む小さな手の不安を、俺は払拭出来るだろうか。

 いやしなければならない。例え相手が格上でも。


 そんな俺の想いが伝わったのだろうか。ヒノタテはそう言って小さく笑った。


「ふっ、安心しろ光志郎の息子。とって喰ったりなどしない。それにしても――」


 しかし竜華には厳しい目を向ける。竜華の体が少しビクリと跳ねた。


「な、なによ……」


 負けじと竜華も反論を見せるが、弱々しく言葉が続かない。


「随分と腑抜けたな」

「――ッ!」

「ヒノタテ」


 竜華とヒノタテの間にオウミさんの声が割って入る。

 静かな声だが、そこに確かな気迫を孕んでいる。

 おそらくヒノタテもオウミさんの怒りに気付いているだろう。それ以上竜華に何かを言う事は無かった。


「ねえ、リュウのおじちゃん……」

「む、何だ光志郎の娘」

「あやまって。リュウお姉ちゃんに」


 今までラウちゃんと静観に回っていたルフがヒノタテに向かって行きそう言った。

 自身の手から離れたルフにラウちゃんはどうすれば良いか分からず狼狽えている。


 ルフの真っ直ぐな目がヒノタテを捉える。言葉にせずともルフの想いが分かる。

 初めて見た。

 ルフがこんなにも怒っているのを俺は見たことがない。


 二人の空間に俺も竜華もオウミさんも――誰も彼もが唖然とし、入れる余地など無い。

 それはまるで二人だけの戦場――

 しかしその幕は案外呆気なく閉じた。


「ふっ、流石は女王の娘だ。少し見ない間に逞しく育ったものだ」


 そう言ってヒノタテは柔らかく笑い、ルフを撫でた。

 鬼の――いや、何人たりとも寄せ付けない竜の形相が崩れ、近所のおっちゃんのように接していた。

 それをルフは笑って受け入れている。


「すまなかったな。お前を見ていたらつい昔を思い出してしまった」

「べ、べつに……」


 その目が竜華を捉えながら言葉を口にした。

 竜華自身、そんな言葉を投げ掛けるとは思っても無かったのだろう、意表を突かれたように言葉を詰まらせていた。


「おー! 流石女王カトラ様のご息女! ルフちゃん! 可愛いからのカッコいい!」

「えへへ、トリのお姉ちゃんも可愛いカッコいいよ?」

「ヒタキ。敬うか、フランクかどっちかに統一して」


 ピリついた空気がやっと緩和された。ルフのおかげだ。ほんとに頭が上がらん。

 しかしながら、ルフの臆せず立ち向かう姿は誇れる反面、やはり心配で気が気じゃない。

 今まではどうにかなってきたが、今後もし何かあったら俺は――いや今はルフのこの果敢な所を素直に褒めてやるべきだ。後でいっぱいよしよししてやろう。

 ホッとして竜華の撫でると竜華の体から張り詰めていた力が抜けているのが分かる。

 それは皆同じのようだ。ヒタキと呼ばれた少女がルフに近付いて羨望の眼差しというかなんというか、キラキラとした目で見ていた。

 確かにこっちのアーちゃん? の言う通りである。意外とこの子、礼儀的なアレは弁えているんだろうな。


「――で、ヒノタテ。どうして此処に来ている? それもお前が一番嫌いな方法で」


 その空気に流される事無く、オウミさんがヒノタテに問いかけた。

 ヒノタテはオウミさんに視線を移す。

 ホッとしたの束の間、今度はこっちで第二回戦が開始されようとしていた。


「お前がそんなに敵意を剥き出すのは珍しいな。そんなに大事か」

「お前らしくもない。無駄な問答をするつもりはない」

「ふっ、確かにな。俺もどうやら浮かれているのかもしれないな。アカビ、ヒタキ来い」


 ヒノタテに呼ばれ、アカビとヒタキがオウミさん――いやアレイスターさんの前に駆け寄った。


「俺はただの付き添いだ。訳はさっき話した通り。アレイスター」

「アレイスター様!」

「何卒お力を!」


 少女達の懇願を前に、アレイスターさんが黙りこくってしまっている。

 何かあったのだろうか。話は読めないが、何となくは流れは掴めそうだ。

 注力していると、アレイスターが静かに目を開き、重い口を開いた。


「悪いがそれは出来ない」

「そんな……」


 頼りの綱が千切れたような絶望が少女達の顔に表れる。

 それを見ていたオウミさんもヒノタテもアレイスターさんに視線を黙って向けている。


「俺は四聖ではあるが、里を捨てた身だ。そもそも本来四聖にすらなってはいけなかった。あの時俺は――死んだのだからな」

「ですが今は生きています!」

「そうです。私達を救えるのはアレイスター様だけなんです! アレイスター様が居ない間にしゃしゃり出てきた生意気な奴をめったんめったんにしてやれば良いんです!」


 引き千切れようとも燃えようとも、それでも何としてでも縋りつき、しがみ離さない二人の少女にアレイスターが冷たく言い放った。


「俺はお前達、正統種とは違う。袂を絶っている。ヒノタテ、お前なら分かるだろ」

「クロのことか」

「そうだ、俺があの里に出来る事など何も無い。それどころか反逆とみなされるかもしれないな」

「しかし……アレイスター様……私達にはもう……」


 物静かな方、アカビと呼ばれていた子が食い下がる。

 何としてでもアレイスターさんを頼りたいと伺える。

 もしかしたら、それしか方法が無いのかもしれない。


「オウミ。お前はどう見る」

「……里の話、ひいては種の話だ。こればかりは私にもどうする事も出来ないな……」


 ヒノタテの問いにオウミさんも難しそうな顔をして答える。

 なんだか俺が思っている以上に複雑な話なのかもしれない。

 そうは言うものの、何だかそれはそれで少しばかり冷たいというか素っ気ないないというか……。

 アカビとヒタキを見るに、どうにかしてあげたいと思ってしまう。


「本当に何もしてあげられないのでしょうか……」


 俺がそう言うと、全員の視線が俺に集まった。

 それに気圧され、俺は慌てて言葉を続ける。


「あ! いや! 俺には良く分かってないんですけども。何かこのまま、だめって言われて終わるのはこの子達が可愛そうで!」


 そう言って俺はアカビとヒタキに視線を移した。

 俺がそんなこと言うと思って無かったのか、二人はぽかんと口を開けっ放しにしている。

 そんな中、何か考えを思い付いたのかアレイスターさんが口を開いた。


「ふむ、解決策が無くは無いが――慶志郎」

「はい」

「お前は、この子達を何とかしてやりたいって気持ちに偽りは無いな」

「え、あ、はい俺で出来る事があれは」


 不意に聞かれた事に俺は頷いた。

 その瞬間、アレイスターさんが少しニヤつく。

 何となく分かる。あれは――何か企んでいる。


「ならば出来ない事は無い」

「おい、アレイスター。まさか――!?」


 オウミさんの焦り具合が確信に変わった。

 それは何なのかをアレイスターさん自ら語る。


「ならば慶志郎、俺と共に来い。お前が望むならな」

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