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仮説

三人称です

「おや? 久々に君の顔を見た気がするね」


 とある異界のとある一室。

 そこには数々の実験道具とそれらが生み出した呪物が棚と机を占拠している。

 床にはおそらく失敗作であるような産物が何個も転がっており、何か複雑な計算やら文字やら図が書かれた書類すらも散らばっている。


「確か君は英雄殿の故郷へ行っているとマンバ君から聞いていたが……まあ何でもいいか。よく来たね、歓迎するよ」


 足の踏み場も無い、とある男だけの実験室。

 そこに入れるのは数少ない。いや正確に言えば多くの人間が近付く事を拒絶するその部屋にダイエンはやって来た。


「こんな薄気味悪ぃ部屋で歓迎されてもなぁ」

「分かっていないね。良いかい? ここにあるのは全て世界を変える宝さ。それがこんなにも積み上がっている。つまりこれ全部で宝の山なのさ」


 水色の髪を揺らし、胸を張って威張るようにダイエンに告げる。

 座らせる椅子が無いのか、自ら宝の山と呼んだにも関わらずテーブルの呪物を男は雑に押し退けて、ダイエンに座るよう促す。

 ダイエンはそれを見ながら相変わらずだなと思いつつも、そこに遠慮なく腰掛けた。


 ややつり上がり気味な目。右側の目元すぐ下には何かの呪印なのか稲妻のようなマークが白く描かれている。

 目元だけを見れば相手に威圧感を覚えさせてしまうが、顔全体で見れば少し幼さが残る可愛い顔立ちをしている。

 どこぞの英雄曰く、実は目もくりくりしてて可愛いだとか。

 どこぞの女王曰く、もじゃもじゃな髪に埋もれている耳と白い尻尾が感情でぴょこぴょこ動く様は凄く可愛いだとか。

 その出で立ちも全体的に白を基調としており、所々に反対色の黒のラインや、斑点模様が施されている。

 屋内であっても白と銀の混ざるマントを身に纏っているのは男曰く、それが頭領になった時からの正装だかららしい。

 そういうところはきっちりとしているが、いざ喋ってみればこの通り、物腰が柔らかいというか、適当というか、結構軽い性格が垣間見える。


 だがそんな男であっても人々からは恐れられている。大陸全土でこの男の悪名を知らぬ者はいない。

 当然だ、日夜研究に没頭し、様々なとんでもない呪物を作り出ししているのだから。

 そう、彼こそラウを呪獣化させた玉を作った人物。四聖シロトラである。


「シロトラってのは頭領を受け継いだ時の名称であり、僕の名前では無いんだ。ネコ科であるけどね」

「どした、急に」

「いや、何でもないよ。それで? どうだった僕の試作品は!? 本当は使った本人から聞きたいけど、廃人になってそうだから君の目を頼ったんだよ」


 シロトラがダイエンに向かって興味津々といった表情で聞く。

 それだけシロトラにとって、今回の玉の出来には自信があり、効力と性能をいち早く聞きたいらしい。

 幼さが残る顔立ちがキラキラとした少年の目を向ける。それ妙に人懐っこくあるが、ダイエンはうっとおしそうにしながら答えた。


「確かに聞いてた以上にあれはやべぇ代物だったな」

「フッフッフ。そうだろ、そうだろ!」

「だが完成と言うには程遠い。現に止められたしな」

「むっ……確かにまだまだ改善の余地を残しているがマンバ君はともかく何も分かっていない君に言われるのは――って、まじでっ!?」

「しかも玉を使った少女、多分生きてるぞ」


 そう言ってダイエンはタバコを吸い始める。

 そんな返答が返ってくるとは思ってなかったのかシロトラは驚く。

 タバコよりも話の詳細を重要視したシロトラは身を乗り出しダイエンに詰め寄った。


「相手はどっち!? アレイスター!? それともオウミ師!? 確かに丈夫で強そうな狼犬種の個体を選んだけど、そんな予想外の結果は待ち望んでいないんだけど!?」


 どうやらアレイスターとオウミが慶志郎達の世界に居ること知っているらしく、シロトラはそのどちらかだと踏んでいるようだ。

 しかしダイエンから語られるのはそのどちらでもない。


「そのどっちでもねぇよ。お前が知ってるかしらんが、英雄の息子、慶志郎君だ」

「なんと……」


 シロトラは目を丸くした。

 自身が作り出した傑作を見ず知らずの人間が倒したから――ではない。

 他ならぬ慶志郎が倒したという事に驚愕を隠しきれずにいた。


「嘘じゃないよね!?」

「こんな事で嘘なんかつかねえよ」


 シロトラはダイエンに更に詰め寄り聞き直す。

 それをダイエンは邪魔くさく手で押し退けると、シロトラはぐえっと鳴いた。

 その手を払い除け、シロトラは構わず続きをせがむ。


「それで英雄の御子息はどうやったの!?」

「それがな、さっぱり分からん」

「はっ? 何それ。君とも在ろうものが見逃したってこと!?」

「そうじゃねえよ。あの時――」


 慶志郎が浄化の炎を扱っていた事。

 その性能、効力がオウミのものと酷似していた事。

 その炎がラウルを助けた事。

 あの時の光景をダイエンはシロトラに話す。


「――ということだ」

「なるほど……」


 一通り聞き終わるとシロトラは冷静に頷く。

 しかし気になる事があるのか顎に手をあて何やら考え込んだ。

 ぶつぶつと何かを呟き、考えがまとまったのかシロトラは自らが導き出した解をダイエンに問う。


「まさかとは思うけど、現魔――いや今は前魔か。の力が解かれてようとしているかも」

「俺もそう思ったんだが、それにしてはおかしいんだよ」


 ダイエンから聞く限り、シロトラはそうとしか思えなかった。

 それを肯定しつつ、ダイエンは自らの意見を語る。


「あれの力はもっと凶暴で凶悪だ。救うために力が使えるとは思えない」

「それは確かに……うーん、そうなると考えられるのは御子息にそれだけの力があるか、もしくは前魔の力を自在に操ることが出来るようになったかの二つに一つの答えだけど……」

「いやいや、それこそ有り得ないだろ」

「そうだよね〜。そうなったらオウミ師が黙ってないよね」


 ダイエンはシロトラの言葉を否定する。

 シロトラの語る仮説はそれだけ有り得ない。それこそ語った本人ですらそれを否定する程に。


「ま、真相がどうであれ僕のやる事は変わらない。寧ろ少し燃えてきたよ。全く鬼というのは僕を飽きさせないね」

「やっぱ相変わらずだわお前。で、完成にどれくらいかかる? そもそもどういう原理なんだあれは」

「よくぞ聞いてくれた!!」


 ダイエンがそう聞くと、シロトラはまたも身を乗り出し詰め寄ってくる。

 普段人と禄に会話をしないシロトラは人との距離がバグっているのは今更である。

 ただそれだけシロトラにとって、忌み嫌われる代物を語れるのが嬉しいのであろう。

 興味のある風な会話を繋げたのはダイエンの落ち度である。

 しまったと渋い顔をダイエンがしているのにも関わらず、シロトラは語り出した。


「これを語る前にダイエン君、君に問おう。人はどうして生まれ、何のために生きるのか」

「おいおい、お前と哲学の話をする気は無ぇぞこっちは」

「そう結論を急ぐのは君の悪いくせだよダイエン。未来を見据えるのも良いが、時には過去に焦点を合わせるのも大事なのさ」

「うっぜぇ」


 自慢気に語るシロトラにやはり失敗したな、とダイエンは心底思った。

 しかしながら次に語られた言葉にダイエンは少しばかり興味が沸く。


「僕もそんな難しい話をするつもりはない。結論からいうとあの玉は、僕達に刻まれた太古の遺伝子を強制的に目醒めさせるものだ」

「ほう……?」


 二本目のタバコに火を付け、ダイエンはシロトラ向き直った。

 タバコを吸うのは止めて貰いたいシロトラだったが、ダイエンの耳を傾ける姿勢が嬉しかったのか、そのまま続ける。


「僕達が生まれるより遥か昔の話、それこそ人というものが生まれる前の太古の話だ。そこでは蛇が人に――いや正確に言うなら人型の何かに姿を変えたという文献が残っている。狐がそれに変化したという事例もある。挙げ句、その人型の何かは櫛や剣といったものに変化したなどという馬鹿げた話もある。そこから数千年の時を経て僕達人類が生まれた。僕達人類が仮にその人型の何かを真似て生まれたのであれば、その遺伝子が残っていてもおかしくはない。現に僕達はそれらに姿を変えられるのだから」

「そりゃまた壮大な話だねぇ」

「そうだね。僕はこれを先祖返り、または先祖戻りと命名しようと思っている」

「そこまできいてねえよ。だがお前の言うそれが本当なら何故出来る奴と出来ない奴がいる? 遺伝子の濃さとかってオチじゃねえだろうなぁ?」

「そう! そこだよダイエン!!」

「うおっ!? なんだうっとおしい!」

「僕も最初はそう思った。だが、おそらくそこに大差は無い。例外があるとしたら白竜種だけだ。けどもしそれ以外に大差があるとした場合、僕達にはあるじゃないか。もっと色濃く反映さらているものが!」

「あ? ああ、ババアが口酸っぱく言ってるあれか?」

「む、ダイエン、師にそんな言い方は感心しない。オウミ師が悲しむぞ」

「うるせぇよ。で、それがどう関係ある?」

「オウミ師の言う想いが力であるのならば、僕達は持っている太古の遺伝子を知らず知らずの内に自制によって封じ込めているのかもしれない。鎖で縛るかのようにね。しかし僕やダイエンとかのように、躊躇いもなく想いを全面的にひけらかせば、縛る枷は無くなり本来の姿を取り戻す。要は対の存在、本能を剥き出すか内に籠もるか」

「なるほど、つまり陽キャと陰キャみたいなやつか」

「よ、陽キャ? 陰キャ?」

「いやなんでもない」

「そこまでの仮説を踏まえ、僕は考えた。ならばその鎖を無理矢理引き千切ったら、本来の姿を――いや自制が無くなった分、本来以上の姿を呼び覚ませるんじゃないかと。そして幾分問題は残るが僕の予想は的中し、実験は成功というわけさ!」

「つまり厨二病の痛い奴がそのまま実体化してしまったというわけか。そりゃ罪なもん作り出したと言われても仕方ねぇな」

「??????」

「いや、お前は知らんでもいい単語だ。気にすんな」


 頭に?マークを浮かべるシロトラに構わず、ダイエンは聞く。


「んで、結局完成にまでどれだけの時間がかかるんだ?」

「うーん、ぶっちゃけて言うと、もう手詰まりになっていたりする。そもそもあの玉に使ったエネルギー源というのも偶然見つけたようなものだ。そしておそらく、あの暗黒的エネルギーは太古のものであろう。先ずはそちらの解析をしなければならない。手助けしてくれる助手が居れば話は早いのだが……」


 そう言ってシロトラはダイエンを見る。

 早い話が手伝いをしてくれる助手を寄越せと言っているのだ。それも優秀な人材を。

 シロトラが欲してる人材にダイエンは心当たりがあった。いや心当たりしかなかった。故に渋る。

 二人が組み合わさるのは不味い。最悪と災厄が組み合わさるもの。非常に不味い。


「ね、お願い……」


 その心情を知ってか知らずか、シロトラはダイエンにお願いする。

 キュルルンと目を潤ませ、ねだるようにか弱い少年を演じる。


「ちっ、ああ、もうしゃーねえな! どうせ聞かねぇんだろ! 分かったからやめろ気持ち悪い!」


 非常にうざったらしく思うが、双方に利があるのには変わらない。

 ダイエンはガシガシと頭を掻いて、それを了承した。


「さっすがダイエン。僕の事を良く分かってる!」


 お願いが通ったシロトラの表情は駄々が通った子供のように明るい。

 こんな幼げな表情をしているが、結構な歳である。


「む、そう言うが僕は四聖の中で一番若いんだぞ」

「いきなりどうした」

「なんでもない。なんでも、えへへ」

「まあ良い。ったくじゃあ俺からマンバに伝えておいてやる。だからお前は急げよ」


 そう言ってダイエンは踵を返す。

 少しばかりしか興味が無かったのにすっかり聞き入ってしまった。

 だがそれは退屈な時間ではなく、寧ろ興味のそそられる話であったとダイエンは思う。


「そうだ、ダイエンちょっと待って」


 踵を返すダイエンをシロトラは呼び止めた。


「君の想いはまだ変わっていないのかい?」


 シロトラの言葉にダイエンは振り向く。

 ふにゃふにゃな笑顔を消し去り、真っ直ぐに見据えるシロトラと目が合う。


「君と前魔に何が合ったのか僕もよく分かっている。その上で言うが、今の現魔――いや現現魔? 女王カトラと英雄は――」

「分かってる。それ以上は言うな」


 シロトラはやはり人との距離感がバグっている。でないと人の心にこうもズカズカと入ってこない。

 シロトラで無ければ、もしかするとダイエンに消されていたかもしれない。

 こういう奴だと互いに理解している上でダイエンとシロトラの関係が成り立っている。


「それでも俺は立ち止まることはない。友との約束を果たす。鬼の一族は俺がこの手で屠る」

「ダイエン……」

「ま、お前には分からないことだろうがよ」


 そう言い残し、ダイエンは今度こそ部屋を後にする。


「ダイエン、君は何も分かっていない。君の想いの力とあの二人、延いてはその息子と絶望的に相性が悪い」


 シロトラの呟きは誰に聞かれることもなく、宙に埋もれる。

 想いが力になり対になるのなら、一方が強くなることはない。

 それはまるで陰と陽の存在。

 想いは願い。願いは祈り。誰かのためを想える力があるのなら、その逆もまた然り。


「それとも君はそれに気付いた上で未来を変えようとしているのか。ならば僕はそれの手助けくらいはしてやるさ――他ならぬ友の頼みとしてね」


 シロトラの想いに火が付く。

 飽くなき探究心。それがシロトラの力の源。


「さっ! 先ずはマンバ君とコンタクトを取らないと! ふふっ、彼のアイディアは僕をわくわくさせてくれる。いや僕を強くさせてくれるの方が当て嵌まっているかもしれない」


 そう言ってシロトラは実に数ヶ月ぶりにこの禍々しい部屋から外に出た。


新章として触りだけ早急に書きました。

新章分けはまだ何も考えていないです。

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