約束
視点が移り変わってしまい読み辛いかもしれません。
申し訳ないないです。
「お兄ちゃん、あのね……」
家に戻ってきて、色々と一段落ついた時、ルフと竜華がやって来た。
気不味そうにもじもじとしては俯いて、その後の言葉が続かない。
「分かってるよ。大丈夫」
そんな二人を俺は両腕に抱き締める。
言いたい事なんて既に伝わっている。だから俺の方こそ言わないといけない。
「俺もごめんな。大声出しちゃって。二人の事怒っちゃって」
「ううんっ! ルフもごめんなさい! ルフ、お兄ちゃんにだいっきらいなんていっちゃった……ルフ……ルフ……」
刺さったままの棘がルフをずっと苦しめていたのだろう。
引き抜こうとしてまた泣いてしまいそうになっている。
「ルフが悪いんじゃないよ。俺がルフにそう言わせてしまったんだ。ごめんな、苦しかったよな」
言ったルフより言わせてしまった俺の方が悪い。
でもルフはこうして自分が悪いと言ってくれる。俺を想ってそう言ってくれる。
それは間違いなくルフの成長だと思う。
それが嬉しくて抱き締める腕に力が入る。
「竜華もごめんな」
「ううん、私もひどい事言っちゃったから……ごめんなさい」
非を認め、素直に謝れる。
人を想って、言葉を伝える事が出来る。
この子達に心配はいらない。
なら俺達大人がその道を踏み外さないように見守ってやらなければならない。
大丈夫、俺達なら、きっと――
「でもこれだけは守ってくれ。無茶だけはしない。じゃないと俺の心臓が持たん」
「お兄ちゃん、しんぱいになる?」
「ああ、いっぱいなる」
「お兄ちゃんは心配しすぎな気もするけど……それがお兄ちゃんだものね。分かったわ」
「それじゃあ、約束」
「うんっ!」
二人と交わした約束。
固く結ばれた想い想いの糸。
繋ぎ止める。誰も欠けないように。
「じゃあ、夜も遅いしもう寝る時間だけど……お風呂入りなおすか……?」
汚れてる訳じゃないけど、多分汗でべったりだろう。特に竜華なんかは。
とか言ってる俺がもしかすると一番汚れているかもしれない。
「ルフ……もう眠い……」
「私も。服だけ着替えるわ。ほら、ルフも」
「うん……」
竜華はそう言って、ルフのお着替えを手伝った――
――――
慶志郎の部屋のリビング。そこに今、私とアレイスターはソファーに座っている。
花宮殿とラウルはまだ目を覚まさない。同じベッドでよく眠っている。
今回の件、花宮殿を大きく傷付けてしまった。
いや、ラウルも同じくらいかそれ以上に……。
私が付いていながら情けない。自分の無力さを嘆くばかりでだ。
だが過ぎた事を嘆いてばかりではいられない。今後こんな事がないように対策を講じなければならない。私にはその義務がある。
その昔、憂いを抱いて沈んだあの子と交わした約束を果たすために。
守られねばならない。例え幾千の時を越えようとも。
誓いを改めて心に刻む。
「それにしても、今回は慶志郎に無理をさせ過ぎてすまったな」
慶志郎と子供達はもう眠ってしまっただろうか。
ばたばたと騒がしかった声が聞こえなくなった。
ちなみに花宮殿とラウルを同じベッドで寝かせたのも慶志郎の頼みである。
目を覚ました時に、お互い一番見たい顔であろうとのこと。
慶志郎のそういう考えは嫌いじゃない。
「確かに慶志郎のおかげで無事解決しましたね」
アレイスターが私の呟いた独り言に反応した。
「アレイスターもよくやってくれた。あいつの――ダイエンの相手をお前がしなかったら、こう上手くいかなかっただろう。礼を言う」
「いえ、俺は俺がやるべき責務を果たしたまでです」
私の言葉にアレイスターはそう言う。普段と変わらない、淡々とした言い方に私は少しホッとしている。
あの時の、ダイエンと対峙していた時のアレイスターはその昔の――
「なあ、アレイスター。私はな、お前を不出来だと思ったことは無い。お前は今も昔も、良くも悪くも自慢の教え子だ」
アレイスターを見つめる。
その目の奥に隠した感情は読み取れない。感情を隠すのが上手くなったものだ。昔は殺気を隠すのも下手くそだったのに。
「そう言って貰えるのはありがたいですね。ですが、俺だけを贔屓する気はないのでしょう?」
「そうだな。私にとって、アレイスターもあいつも――ダイエンも同じ大切な教え子だ」
「ふっ、そう言うと思いました」
アレイスターが私を見透かしたように笑った。
こいつが私にこんな表情をするのは何時ぶりだろうか。これもある意味成長している証拠なのだろうか。
真意は定かではないが、少なくともそれを嬉しく思っている私がいる。
「何だお前、まさか妬いているのか?」
「まさか。そんな子供ではありませんよ。ましてや今回の立役者に嫉妬するほど愚かではありません」
「ん? 何故慶志郎がそこで出てくる?」
そう疑問に思っているとアレイスターが席を立つ。
そして寝室を覗き、慶志郎を呼んだ。呼ばれた慶志郎も訳は分かっておらず、困ったようにアレイスターへ疑問を投げ掛けた。
「ア、アレイスターさん? どうかしたんですか?」
「いや、何。約束を果たそうと思ってな」
「約束……ああっ!」
何やら二人が話し合っている。何かを思い出したかのように慶志郎が叫ぶ。
そしてアレイスターは私に向き直ると言ったのだ。
「先生、言葉だけでは慶志郎には足りません。行動を示して労ってあげて下さい」
「えっ、はっ……?」
「ちょ、ちょっとアレイスターさん!?」
焦ったように慶志郎があたふたしている。
ふむ、どうやら慶志郎がそれを望んでいるようだった。こいつの心は言っちゃ悪いが見え見えだ。
「さて、俺は戻ります。何かあったら飛んできます。文字通り」
「えっ、あぁ……まあ何だ、お前もゆっくり休め」
「では――」
そう言って戻っていくアレイスターを慶志郎が見送りに行った。
「さて……」
アレイスターに言われた手前、慶志郎を労ってやらねばならん。
だがどう労ってやろうか。
いや、どうしたもんか。という方が正解だな。
慶志郎が望んでいることなど心を見れば容易く読み取れる。読み取った上で私は悩んでいる。だって――
「オ、オウミさん。アレイスターさんの言った事、真に受けないで下さいね。オウミさんも休んでいいんですからね」
慶志郎が戻ってきた。
嘘だ。言葉ではそう言うがその心は確かに期待を膨らませている。
私に嘘が突き通せるなど思っているのだろうか。全く……
覚悟を決める。そして私は慶志郎に言う。
「我慢するのがお前の良いところであり、悪いところだ。ほらっ、ここに頭を乗せろ」
そう言って私は膝を叩く。
そうやって誘った私に慶志郎は固まっていた。
それが妙に私に羞恥を持たせた。それに堪えきれず私は叫んだのだ。
「お、お前が望んだんだろうがっ! いらないと言うならしまうからな!」
「い、いえ! 乗せてもらいます! 乗させていただきます!」
慶志郎はそう言うと、いそいそと私の膝へと頭を乗せた。
程よい重みが膝に掛かる。
覗き込めば、慶志郎の顔が丸見えだった。
それが恥ずかしいのか慶志郎の視線はずっと泳ぎっぱなしだ。
「何だ、自分で望んでおいて恥ずかしいのか」
「だ、だって……」
それが妙に可愛くて気付けば頭を撫でていた。
戦いの後だ、汗っぽいのは仕方ない。
「慶志郎、後でちゃんと風呂入れよ。このままでは風邪引くぞ」
「は、はい……」
しばらく撫で続けていると、くすぐったいのか膝の上で慶志郎の頭がもぞもぞ動く。
それがまた私もくすぐったい。けどまあ、労っているのは私なのだから多少の我慢はする。
「慶志郎、改めて礼を言う。よく頑張ってくれた」
「あ、ありがとうございます……」
その目は照れくさそうにしながらも私を見つめている。
しかし僅か数秒も経たずして逸らされてしまった。
私なんかに何を恥ずかしがっているのだろう。とか思うが、まあ距離が距離だ。仕方ないのかもしれない。
そのそっぽを向いた目が言う。
「でも、俺だけの力じゃないんです。皆が力を貸してくれたから。頑張ってくれたから。皆が力を合わせたから助けられたんです。そしてこれからも――」
謙遜では無い、嘘偽りの無い真っ直ぐな慶志郎の本心。
それを聞くだけでこんなにも嬉しくなる。
「やはり、似ているお前は……」
「えっ」
「いや何でも無い。ほら、今は存分に私の膝となでなでを堪能しろ」
そう言って私は慶志郎を撫でる。
今はこの教え子を労ってやっているんだ。過去を耽るのはやめよう。
――――
夜中、不意に目を覚ます。
自分の家のものとは違うベッドの感触。ここは一体――
そう思った矢先、目に映ったのはラウの姿だった。
「――ッ!」
その瞬間、私は思い出した。
そうだ、ラウが……ラウがッ……!
けど、私の目に映ったのはいつもと同じラウの姿だった。
何故……? そう思ったが、その答えに直ぐ辿り着く。
ベッドから起き上がる。
直ぐ隣では慶志郎の布団で眠るルフちゃんと竜華ちゃんの姿。
ルフちゃんの寝相が悪いのか布団が捲れていた。
私はそれを戻して、寝室の扉を開ける。
「花宮殿、目を覚ましたか」
「あっ……」
リビングへ行くと、そこにはソファーで膝枕されている慶志郎とオウミさんの姿が映った。
何故と思ったが、気持ち良さそうに眠っている慶志郎を見ると、何だか妙に納得してしまう。
「さっき風呂に入ってそのまま眠ってしまったよ」
「あ、あの……」
あれから一体どうなったのか。ラウは無事なのか。私達はどうなるのか。
聞きたい事が山程溢れてくる。どれから聞いていいか、訊ねていいか分からず、言葉を詰まらせているとオウミさんが全てを見透かしたように一言だけ言う。
「大丈夫。安心してくれ」
その目に慈愛のような優しさが籠もっていた。
その言葉には温もりが籠もっていた。
それが私に安堵をもたらしてくれる。
「あ、ありがとうございます……」
それら全てに触れ、気が付けば私は涙を流していた。
あれだけ流したのにまだ流れてくるなんて不思議だ。
でもこの涙は温かさを孕んでいる。そう実感した時にはもう遅かった。自分で止めれそうには無さそうだ。
「花宮殿、聞きたい事も言いたい事もいっぱいあるだろう。けど今は、今だけはラウルの傍にいてあげてくれ。それを慶志郎は望んでいる」
オウミさんがそう言う。私は何度も頷く。
「ラウッ……良かった、本当に良かった……」
ベッドに戻り、私はラウを強く抱き締める。
すぅすぅと眠るラウがちょっとだけ苦しそうして私を押し退けようとする。
その手から伝わる温もり。
当然のものがそこにあるありがたみ。それを感じるだけで私はまた強く抱き締める。
あの時振り解かれた手を握る。
もう離さない。離すもんか。
「ラウ、今度は絶対に離さない。約束だ」
ラウが私を助けたように、私もラウの助けになる。
そう固く心に誓う。
お読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークも評価も本当にありがとうございます!
次の話作るのにちょっとだけ時間かかります。申し訳ないです。(全く思い浮かんでいないことは内緒)




