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終戦

 光。

 俺の想いをありったけに詰めた炎が光る。

 一瞬のうちに広がったそれは一瞬のうちにラウちゃんを包み込んだ。

 黒く淀んだ邪が散り消えるように。

 炸裂したそれを俺は落ちながら眺める。

 まるで走馬灯のようだ。

 それだけ烈しく、まばゆく、強い光――


「うぐぐ……ごめんお兄ちゃん、もう、無理……」

「……ぐふっ!」


 ゆっくりと落ちる俺の体が急に速くなった。

 竜華の力が尽きたようだ。幸いにも低いところまで竜華が頑張ってくれたおかげでちょっと痛いだけで何ともない。

 俺が落ちても尚、それはラウちゃんから不浄を取り除いている。

 一体どれだけの力がそこにあるのだろう。

 ルフと竜華が俺を心配してやってきた。


「どうなったの……?」

「分からない。けど……」


 救えててほしい。

 願望を言葉にする勇気は無かった。


「これは……」

「おいおい、まじかよ」


 その光に願いを託していると、背後から声が聞こえてきた。

 おそらくアレイスターさん達も手が止まっているのだろう。

 そして、その瞬間は急に訪れる。

 光が突如として消えた。消えた場所で倒れている一人の少女。

 その外見を見間違うはずもなく。我も忘れ駆け走る。


「ラウちゃん……! ラウちゃん!」


 返事は無い。けど息はある。

 その肌に触れ、抱き締め、確かな温もりを感じ、生を実感する。

 そこで初めて救えた事を実感出来た。

 そして気付けば俺は泣いていた。

 ぎゅうっと抱き締める力を制御出来ない。想いのままにラウちゃんを抱き締める。

 ラウちゃんが小さく息を漏らしていた。


「よがっだぁ……よがっだぁ〜」


 もう感情も自分では制御出来ていない。

 そんな俺にルフと竜華が寄り添ってくれていた。


「慶志郎、よくやった。流石だ」


 アレイスターさんもやってきて褒めてくれた。

 アレイスターさんに、そしてルフと竜華にお礼を言おうとして立ち上がろうとした時、俺はよろけてしまった。

 体に力が入らない。


「無理をするな。それだけお前は力を使った。お前の妹も小さき竜もな」

「えっ、でも、二人ともピンピンしてる……」


 どうやらガス欠のようだった。

 想いが力になると言っても限界があるらしい。

 入る器が小さいのだろうか。


「りゅ、竜が負けるわけ、ない、わ……」

「リュウお姉ちゃんさすがっ!」


 二人を見る。見間違いだった。

 ルフはともかく、竜華は明らかに無理をしている。

 いや、まあ、竜華の負担は相当なものであったのは理解出来ている。


「さて、慶志郎。花宮殿を頼んだぞ」

「は、はい。アレイスターさんは……」

「俺か? 俺はだな……」


 視線がダイエン達に向けられた。


「おいおい、まだやろうってか」

「あぁ、お前の首を一つでも落としてやらんと俺の気が済まない」

「だーかーらー、お前と俺とじゃ勝負がつかんだろ」

「そうだな。心を読む力と未来を見る力では勝敗は中々決まらない。既に見えているんだろ? この結末が」

「あぁ、そうだとも。見えている、厄介な結末がな」

「ほう……?」


 アレイスターさんがその剣に、空いたその片方の腕に炎を沸き立たせる。


「ならその行く末を見届けよう」

「はっ! そういう強情な奴だったなお前は!」


 始まる。

 二人の戦いが幕を上げようとしている。

 今の俺に止める術は無い。いや二人を止められる者なんてこの場に居ない。

 だからこそ、聞こえてきた声が安堵を覚えた。


「そこまでだ。お前達」


 ずっと聞きたかった声が、見たかった顔が俺の横に立つ。

 相変わらず凛々しく、頼もしい。

 それだけでまた泣いてしまった。


「遅くなってすまない。だがよく頑張ってくれた」

「ほんとうですよ、全く……!」

「悪かった、謝る。だから泣くな」

「うぅ、そんなつもりじゃないんです……なんか勝手に……」


 今は今だけは体裁なんて考えられなかった。

 思ったことを言葉にして口にする。

 それでも俺の泣き言にオウミさんは嫌な顔せず、ただただ受け入れてくれて、困ったように笑ってくれた。

 そんなオウミさんが前に出る。


「さて……。お前達ももう終わりだ。アレイスター、剣を収めろ」

「しかし――」

「約束を違えるな。私は望んでいない」


 オウミさんがそう言うと、アレイスターさんの剣が消えた。

 だが殺気のようなものまで収めるつもりはないらしい。

 渋々というようにオウミさんに従っているのが見て取れる。


「ハッ! 不出来な教え子を持つと大変だな! なぁ先生?」

「その教え子にお前も入っていることを忘れるなダイエン」


 そう言われた瞬間、ダイエンの表情が一気に豹変した。

 飄々としていた表情が無に変わる。


「ダイエン様。いかがいたしましょう?」

「……ババアが出しゃばって来るんじゃしゃーない。退くぞ」


 オウミさんを見つめていたダイエンがそう言う。

 そして、またあの闇を展開すると、その身をネーセフ毎包んでいく。


「おかげで良いもんが見れた。それだけで価値がある。そして――慶志郎君、また会おう」


 そんな不穏な言葉を残して、闇が去る。何も無かったように。


「お、お断りだっつーの……」


 何か負けた気がして俺はそこに居たところに返した。

 何かが返ってくることは勿論無い。

 既に何の変哲もない夜に戻っているから。


 しかしこの夜を勝ち取るために皆の想いが交わり合った。

 ラウちゃんを救い、誰も欠ける事無く、戦いは終わった。

 全てが終わってそれを改めて実感する。

 そしたら踏ん張ってきた力が抜けてしまった。

 それを見てオウミさんが心配してくれる。


「おい、大丈夫か、慶志郎」

「あははっ、何かダメッぽいです」

「仕方ない奴――いや私が言えた立場じゃないな。お前には無理をさせた。アレイスター皆を頼む」

「はい。先生は慶志郎を支えて上げてください」

「言われなくともそのつもりだ」


 そうやって労ってくれるオウミさんに今だけは甘えたい。

 そう言ってくれたアレイスターさんからは殺気など消えていた。


「オウミさん、ラウちゃんと課長大丈夫ですよね」

「心配いらない。今は疲れ果てて眠っているだけだ」


 今も寝続けるラウちゃんと課長に心配が募る。

 オウミさんは大丈夫だと言うが、やはり目でそれを実感したい。

 そんな想いが胸を叩くが今は二人が目を覚ますのを待つしかない。

 俺達が出来ることはこんな場所で寝かせることでは無く、もっと良い環境で寝かせる事だ。

 ならば一刻も思い、アレイスターさんに乗せて貰い、家へと向かった。

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