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乱戦

 雷が落ちて黒く焦げた箇所。

 そこにルフと竜華が降り立つ。

 ルフは体を蒼く発光させており、竜華もまた銀色に竜の体躯を光らせている。

 俺の前に立った二人の視線は巨大な狼と化したラウちゃんを見据えている。


「ルフ! 竜華!」


 二人を呼ぶと、ルフがビクリと大きく体を反応させた。

 そしてチラリと俺に振り返れば、プイッと顔を逸らしてしまう。

 この反応……俺には分かる。何かやましさを隠している。

 多分言う事を守らず来てしまったことで、また俺に怒られると思っているのだろう。

 正解だ、本当は怒ってやりたい。

 怒ってやりたいけど、来てしまったものに怒ってもしょうがない。

 起こってしまったものを咎めても意味がない。ならその自主性を重んじる。そう課長から教わった。

 それにそんな時間をこの場は待ってくれない。ならば――


 俺は二人の隣に立ち並ぶ。


「力を貸してくれ! 共にラウちゃんを必ず助けるぞ!」

「……ッ! うんっ! 任せて!」


 ルフの顔が喜びの表情に晴れる。

 竜華も柔らかく微笑んでいるように見える。ちょっと竜の表情を読み解くのはまだ俺には難しい。


 ただ、その想いは何となくで理解できる。

 ルフと竜華が発光しているように俺の手首に付けてあるお守りもまた強く光っている。

 ルフも竜華もこの子を――ラウちゃんを助けるために来てくれたのだ。

 想いの共鳴が俺に力をくれる。

 さっきまでうじうじ悩んで迷っていた俺に指標を与えてくれた。

 二人の心に触れ、俺も心が熱くなる。熱くなった心に火が付く。

 いや心にだけじゃない。

 ルフと竜華の共鳴が光る左手、見ればその手には炎が宿っていた。

 それはオウミさんと同じものだと直感した。

 しかしオウミさんやアレイスターさんのような色じゃなく、ルフと同じ色をした蒼い炎。

 いや違う。これはルフの色じゃない。これは多分、俺の色。

 おそらくネーセフと戦った時に宿ったオウミさんの炎が俺の中で混じり合ってしまったのだろう。

 もしかしたら俺はとんでもない異物を作り出したのかもしれない。

 けどこれがラウちゃんを救える手であるならこれを使わない手はない。


「ラウちゃん、今助けるから」


 目の前を見据える。真剣な表情で。

 そして決意を固めて二人に指示した。


「ルフ、竜華、ラウちゃんの動きを止めてくれ。少しなら攻撃しても構わない」

「まかせてお兄ちゃん!」


 嫌だと言われると思ったが、ルフの返事は軽い。

 多分ルフはそこまで考えてはないのかもしれない。


 ルフがそう言うと竜華は飛び立つ。

 それを阻止しようとラウちゃんは竜華に噛み付こうとして顔を突き出す。

 しかし竜華は臆する事無く、ラウちゃんにぶつかっていった。

 竜華とラウちゃんが顔同士を突き合わせ、ぶつかり合う。

 竜と狼の力比べ、それは徐々にラウちゃんが競り勝っていく。

 竜華も負けじと唸りながら歯を食いしばって押し返そうとするが、その差が縮まることは無い。

 やはり玉により力の増幅による影響が大きい。竜華だけではどうしようもない。だからこそルフの力が必要だ。


「イヌのお姉ちゃん、ちょっといたいけど、がまんだよ?」


 竜と狼のぶつかり合いに割って入る鬼の雷撃。

 バチバチ鳴らして小さい体から放たれたそれをラウちゃんの脳天に突き落とした。


「わっとっと、リュウお姉ちゃん、いきなりうごかないでよぉ」


 危機を感じ取ってか、ラウちゃんにルフの雷が当たる前に即座に竜華が離脱した。

 無理に体をねじらせた事でルフが竜華の上でバランスを崩していた。

 竜華が何か言いたげにルフを睨んでいる。言いたい事が分かってしまうのは竜華への理解が深いからであろう。


 しかしルフのおかげもあって、ラウちゃんに隙が出来た。

 そこへ俺は一気に飛び込む。そして、ラウちゃんの前足目掛けて力を解放した。


「ラウちゃん痛かったらごめんね」


 手に宿る炎で触れる。

 たちまちに広がる炎と光。

 汚れたものを掻き消すようにラウちゃんを侵食していく。

 熱が回っているのか、ラウちゃんは苦しそうに吠えた。

 そしてそれを振り払うかのようにのたうち暴れる。

 そのがむしゃらな一振りが俺をかすめた。


「グッ……!」

「お兄ちゃんッ!」


 かすめただけだ。まともに喰らったら人である俺はどうなるか容易に想像できる。


 避けた先にルフと竜華が来る。

 俺を守るようにして竜華が前に立つ。


「大丈夫、こんなんかすり傷だ」

「でも……!」


 ルフが俺を心配そうな目で見つめている。

 何がそんなに――あぁ、そういうことか。

 俺は自身の体をよく見た。血が流れている。

 ラウちゃんにやられたのか、それとも転がった時に自傷したのか、痛みに鈍感過ぎて気付かなかった。

 さっきやった一撃に手応えを感じていてそれどころではなかった。


「ルフ、竜華聞いてくれ」


 二人の心配を余所に俺は言う。


「突破口が見えた。けど大きな炎を作るには時間が掛かる。だからその間、ラウちゃんを任せてもいいか」


 俺の問いに二人が頷く。

 そして竜華達はまた飛び立った。

 ルフが派手に音を鳴らして雷を落とすと、それに釣られたラウちゃんはルフ達に的を絞った。

 おかげで俺は集中出来る。

 目を閉じる。見えた一条の光。

 あの炎はラウちゃんから不浄を取り除いてくれた。

 ならもっと大きいものをぶつければ――想いに確信を持つ。

 しかし聞き覚えのある声が俺を邪魔するかのように叫んだ。


「邪魔はさせません! 貴方のような小僧に!」

「ネーセフ! お前また!」


 ネーセフの無数の蛇が俺に向けられていた。

 それを回避しようとするが、その間を黒い炎が堰き止めてくれた。


「くっ、四聖アレイスター……ッ!」


 アレイスターさんが俺の背を守ってくれる。

 片方の手には剣。もう片方には課長が担がれていた。


「慶志郎、お前は自分に集中しろ。こっちは俺が受け持つ」

「でもアレイスターさん……!」


 オートリーと戦い、今度はネーセフとダイエンの二人。

 そして課長を担いで――ハンデが多すぎる。

 けどアレイスターさんは気にも止めずに言う。


「安心しろ。何も殺し合いをするわけじゃない。あくまでこいつらの邪魔をするだけだ。それに――」


 アレイスターさんが俺を見て穏やかに笑う。


「約束しただろ。お前達を守る剣になるとな」


 やだ、キュン死しそう。

 いや言ってる場合じゃない。俺はやるべき事をやらねば!


「分かりました。お願いします」

「ああ、お願いされた」

「どいつもこいつも見せつけやがって……!」


 俺達のやり取りが気に食わないのかネーセフは激昂していた。

 そこへアレイスターさんが言う。


「おい、ネーセフ。悪いがお前のお気に入りの慶志郎はお前に構ってやれる程暇が無い。俺で満足しろ」

「誰が、お気に入りですってえぇぇッ!」


 ネーセフの絶叫に蛇が動く。それをアレイスターさんは焼き払おうとするが、突如としてその炎は闇に飲まれた。

 闇がアレイスターさんを食らいに掛かるが、それをアレイスターさんは剣で斬り伏せる。


「ダイエン様ッ!」

「あーあ。だから嫌なんだよ、こいつの相手はよぉ」

「全く同感だ。俺とお前とでは勝負が永遠に付かないからな」


 アレイスターさんがダイエンがそう言って互いに牽制し合っている。

 あの様子をみるに俺の心配は杞憂に終わりそうだ。なら、俺は俺が果たすべき事をやる。


 ――由希ちゃんはラウが守るんだ。だから――助けて


 不意に――

 ラウちゃんの声が聞こえた気がした。

 違う、そうじゃない。ラウちゃんの想いが聞こえた気がした。

 心の共鳴がラウちゃんの想いを俺に呼び掛けているのか……? 分からない。けど――

 ラウちゃんの想いは痛い程分かる。

 誰かを守る。そのために戦える。

 確かにそれは凄い事で素敵な事だと思う。

 けどそれは、自分を簡単に投げ捨てる事に等しい。

 その危うさを俺は痛い程痛感した。

 だからこそ誰かが繋ぎ止めなければいけない。手を握っていてあげなくてはいけない。

 一人が駄目なら二人で。二人で駄目なら皆で。

 じゃないと簡単に引き離されてしまうから。

 そうやって繋いだ手の先に俺は未来を見たい――


「リュウお姉ちゃん!」

「くっ……流石に限界だわ……!」


 竜華が竜の姿から元に戻ってしまった。

 立っているのもやっとそうだ。

 その肩をルフが抱いて支えている。


「ありがとう。二人共」


 その二人の前に今度は俺が出る。


「おかげで準備が出来た」


 左手に溜めた想いの炎を握り、俺はラウちゃんに駆け出す。

 ラウちゃんは俺をその目に捉えて迎撃するように足を爪を駆使して攻撃してくる。

 多分余程さっきの痛みが染み付いているのだろう。その攻撃は激しさを増した。


「クソッ、近づけない!」


 何とか近づこうとするが、駄目だ、必死に振られるそれに避けるのが精一杯だ。

 どうする……いっそ相打ち覚悟で突撃するか……それしかないのであれば、俺は……

 覚悟を決める。しかし決めた瞬間だった。

 ふわりと体が浮いた。まるで風に乗っているかのように。


「お兄ちゃんッ!」

「竜を舐めないでちょうだいっ! これが修行の成果よ……ッ!」

「リュウお姉ちゃんっ!」

「ちょっとルフ! シーッ! 集中出来ないでしょ!」


 ラウちゃんの邪魔をするかのようにルフが雷を走らせる。

 竜華は支えられながら、俺に手を伸ばしていた。


 竜華が言っていたのはこれの事だったのか。

 風が空を走るように、俺に自在な自由をくれた。


「ルフ! 竜華! ありがとう!」

「お兄ちゃん、後は任せたわよ!」

「いっけえぇぇーーッ! お兄ちゃん!」


 二人に支えられ、俺はラウちゃんの顔目掛けて空を舞う。


「ラウちゃん! 目を覚ませぇぇーッ!!」


 そして、浄化の炎をラウちゃんに放ったのであった。

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