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二人の出会い

 ラウちゃんが課長の手を離れ、竜華の方へと向かっていった。

 竜華がラウちゃんのそのイヌ耳をもふもふと堪能している。

 そこへテレビを見終わったルフも加わった。ルフはどうやら尻尾の方を物珍しそうに見ては触っている。

 尻尾……尻尾ッ!?

 よく見れば締まって隠していたであろうこれまたもふもふそうな尻尾がラウちゃんのお尻付近からはみ出ていた。

 いや、まあ、犬なら尻尾くらいあるか。

 そう納得するくらいには俺も染まっているようだ。


「そういや課長とラウちゃんの出会いってどこ何ですか?」


 触ってはみたいが、俺がもしそんな本能のまま行動をしたら、課長にきっと怒られる。

 いや怒られるでは済まされそうにない。金輪際、口も聞いてもらえなそうだ。

 そりゃだって、世間的には大人が少女の臀部を撫でくり回している図だぞ。

 豚箱待ったなし。そりゃ世間は許してはくれませんよ。


 なので、触りたい衝動を紛らわせるためにそんな話を振ってみた。

 しかしながら純粋に興味はあった。

 何だか俺の周りだけこんな非日常で溢れている気がする。

 そしてそれに課長を巻き込んだような形になってしまっている。

 課長の次は谷野さんか? 案外もう巻き込まれてたりして……。

 否定を断言出来ない程には俺も染まりきっているのかもしれない。


「ああ、近所のスーパーの近くでな。ほら、あそこの大きな。慶志郎も多分行くだろ」


 やっぱり近所じゃねーか! ドンピシャで俺の生活圏内ッ!

 っていうか課長の家その辺りなんだ……ふーん。

 いや、別に他意はない。ただ関心を持っただけだ。


「時々、たまーにいくっすね。たまーに……」

「なんでそこを強調している……? そこで夜買い物して帰ってる最中に、段ボールの中で縮こまってたのを発見したんだ」


 課長が言うには捨てられた子犬のように段ボールに入っていたらしい。


「見つけて目が合った時のことを私は今でも鮮明に覚えている。最初は動物か何かだと思って近付いたら人だもの。正直戸惑った。困惑もした。けどそれよりも――怯えたような目が不安そうに揺れたのを見て私は居ても立ってもいられなくなった。私が近くに駆け寄ると、その目が激しく揺れ――私は憤った。そんな酷い仕打ちされて捨てられたのかと」


 ……いや、それは単に課長の目が怖かったからでは……?

 とは言えなかった。遠く見るような目で話す課長を見たらそんな余計な茶々は入れられない。


「そして私は直ぐにラウを抱き、自宅へ連れて帰った。よく考えれば大胆な行動だったが、真っ先に体が動いていた。その間、ラウはギュッと目を瞑って震えていたよ。また酷い事されるとでも思ったのだろう。私はその不安を払拭するためにずっと献身的にラウに寄り添った」

「なるほど……」

「その甲斐あってか、やっと少しずつ心を開いてくれてきてな。ご飯もいっぱい食べるし、お風呂だって一緒に入るし、寝る時も一緒だ。まあ、ご飯は野菜をあまり食べてくれないがな」

「そこはほら、これから食べて貰えるようがんばりましょ」

「ルフちゃんや竜華ちゃんはどうなんだ?」

「二人ですか? うーん……ルフも竜華もあんまり好き嫌いはしないですね」


 思えば、二人が好き嫌いしている所を見たことがない。

 出された物は残さず食べてくれる。世のお母さん方を困らせる悩み事とは家は無縁だ。

 変わりに別の悩みはいっぱいあるけど……


「なるほどな。ただうちのラウだって凄いんだからな。いっぱい食べるし、買い物に行った時なんて袋を持ってくれた。寝る時は温かいし、何よりもふもふで気持ち良い!」


 課長がめちゃくちゃ張り合ってきた。何だか凄い親バカを見せられている気がする。

 ただまあ、ラウちゃんが課長にあれ程懐いている理由も納得した。

 一人寂しいところに、こんなにも優しい人が現れたのはラウちゃんにも幸せなことだ。行き過ぎな気もするけども。

 それだけ愛があるとでも捉えておこう。うん。


「それよりも課長、ラウちゃんに変わった特技とかありませんでしたか」

「特技? いや見てないな」


 俺の予想が正しければ、ルフや竜華と同じく、何らかの力を持っていてもおかしくは無い。

 そしてそれはルフのように制御がまだ難しく、何らかの理由で暴発するタイプなのか、竜華のようにもう自制出来るものなのかは分からない。

 しかし課長は首を傾げながらそれを否定する。

 どうやら力の暴発はまだしていないようだ。と言うことはある程度は制御出来ているのだろう。

 一先ずはこれから先、一緒に暮らす上での悩みのタネは無さそうだ。

 その話を踏まえて、俺は課長に二人の事を話す。

 最早隠していても意味がない。それなら寧ろ秘密を共有し合ってる方が後々の事を考えれば良いだろう。

 その間、課長は静かに俺の話を聞いてくれた。


「おそらくですが、ラウちゃんもそれを持ってます。多分自分で制御出来るんだと思いますが」

「にわかには信じられんが……いやもう既に信じらない事は起こっている。何が起ころうがいちいち動じていても無意味だな」

「理解が早くて助かります」


 そう言って課長は全て受け入れてくれた。

 いちいち動揺してた俺とは大違いだ。

 それだけラウちゃんに掛ける愛情が大きいのだろう。

 たった数日で課長の心を掴んだラウちゃんを凄いと思うのと同時に、ちょっと嫉妬してしまう。


「ねえねえ、お兄ちゃん」


 そんな思いがちらついているとルフが俺の膝へ上がってきた。

 竜華とラウちゃんはまたソファーで何やら話込んでいる。


「どしたルフ?」

「んとね、イヌのお姉ちゃん、すっごくもふもふ!」


 膝の上に乗って手を広げ、すっごくを表現しているところが愛くるしい。

 そんなルフを撫でてやると目を細めて気持ち良さそうにしている。

 こんな姿を見ていると、家の子も負けてないという対抗心だって芽生えてくる。


「良かったな。ルフはこれからもラウちゃんと仲良く出来る?」

「うんっ!」


 眩い笑顔で応えてくれるルフをもっかい撫でる。

 初対面こそ不穏を残す結果であったが、その心配はもういらなさそう。

 どうやら子供達はもう打ち解けたようだ。


「仲が良いな……」


 俺とルフのやり取りを見て課長はぼそりとこぼした。


「あぁいや、慶志郎とルフちゃんを見ていたらついな。本来のお前はこっちなんだなって思ってしまうと、何だか、こう……」


 そして言いづらそうにしながら、小さく呟いた。


「し、嫉妬してしまう……」

「……へっ?」

「いや何でもない! 今の無しッ!」


 無しには出来そうにない。

 課長は手を荒ぶらせ、声を張る。


 何だ、同じ事思ってたのか……

 そう思うと自然と笑みが出る。

 けどこの想いと言葉は俺の心の中に閉まっておく。

 さらけ出してしまえば、俺も目の前の課長と同じになってしまうから。


「えへへ。おばちゃんもいっぱい仲良くしようね!」

「おばちゃん……」


 ルフちゃんッ!?

 ルフがまたしても課長をおばちゃんと言った。昨日教えたでしょ!? お姉さんだって!


「いやいいんだ。ルフちゃんから見たら私なんて……」


 俺があわあわしていると課長が明らかに暗い声でそう言った。

 それはルフにも伝わったようで「おばちゃんどうしたの?」なんてまたしても言った。

 もしかしたらルフにはお姉ちゃんになる存在が多すぎて逆に覚えられないのか……?

 そんなことを思い、俺はルフに言ってみた。


「ルフー? おばちゃんじゃなくて……ゆ、由希ちゃん! はいせーのっ!」

「ユキちゃん!」

「ルフちゃん……!」


 どうやらこれで合っていたらしい。

 ルフが課長をそう呼ぶと、課長はあからさまに元気を取り戻した。


「ユキちゃんユキちゃん」

「なーにルフちゃん?」


 ルフも呼び方を気に入ったのか何度も課長を呼んでいる。


「良かったね由希ちゃん」

「あん?」


 ……俺はどうやら許されないらしい。当然だった。


「そうだルフちゃん。もうお昼も近いし、これからご飯食べに行こっか?」

「うん! 行くーッ!」

「そうと決まれば、竜華ちゃん、ラウもいい?」


 二人はこちらを振り向き、頷く。


「お前は運転な。準備するぞ」

「あ、はい」


 何か俺にだけめっちゃ冷たい。辛辣すぎる。

 多分これは世のお父さん達が受ける扱いに近い。

 そう思いながらも、抱いていたルフを下ろし、準備に取り掛かる。

 洗面所へ向かい、準備していると、玄関のチャイムが鳴った。


「慶志郎ッ! 大変だ!」

「オ、オウミさん!?」

「ん? 誰か来たの……か?」


 切羽詰まった様子のオウミさんが慌ただしく詰め寄ってくる。

 そこへ課長とラウちゃんも来た。

 向かい合うオウミさんと課長。

 その後ろにラウちゃん。

 ラウちゃんの顔が少し引き攣ったのを確認。

 事情は何となく察しているが、向かい合う二人は何も言わないが、目は口より物を言うもので。

 こう俺に訴えかけている。


 事情を説明せい、と……

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます!

まだまだお待ちしております!

不定期更新なんでしおりも忘れずに!(盆が終わるので……)

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