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のんびりと

「とぉうーッ!」

「――ふげっ!?」


 気持ち良く眠っていたところを楽しそうな掛け声と衝撃が叩き起こしにやってきた。

 腹から漏れ出た息が上下に別れ、同時に情けない声も漏れ出す。

 どれだけ構えていても寝起きを襲われれば、誰だってこれは不可抗力。身が出なかっただけまだマシ。

 目覚めの悪い一撃を腹部に叩き込まれた俺の視界にはルフの満面の笑みが広がっていた。


「おっはよう! お兄ちゃん!」


 キラキラ輝く人懐っこい笑顔が俺を照らす。めっちゃ可愛い。

 このまま頭を撫でて、ギューってして存分に愛でてやりたいが、その分いじわるしたくなるのは世のお兄ちゃん達の性。


「えへへ。お兄ちゃんのおねぼうさーん」

「……ルフーッ?」

「わわっ……? ふみゃ⁉」


 悪い子にはおしおきを。大義名分を得た俺は今もニッコニコして抱きついているルフを布団に丸め込んで捕まえる。

 すっぽりと覆われたルフを傍から見たら布団に喰われたと思うかもしれない。

 そのままムギューって愛でながらルフに言い聞かせる。


「良いかルフ? 起こす時はダイブしないの」

「だってお兄ちゃんおきないんだもん!」

「それでも駄目なものは駄目なの」

「でもリュウお姉ちゃんはへいきだよ?」


 布団の皮を被った駄々っ子がああ言えばこう言う。

 それもまた可愛く感じてしまい、怒ることが出来ないのは俺がとんでもないシスコンだからだろうか。

 いやそんなはずは無い。お兄ちゃんという存在なら誰だってこうなってしまうのは心理でありこの世の理であり、誰も逃れ――え? ちょっと待って。

 ルフちゃん今何て? 竜華にいつもこうやってるとか言わなかった……?

 毎日ちょっとお寝坊の竜華を起こして貰ってはいたが、燦燦とした声でいつも「リュウお姉ちゃーん」って起こしていたがのは知っているが、裏でこんな惨事が起こっていたの……?


「もう慣れたわよっ」


 いつから俺達のやり取りを見ていたか分からないが竜華が諦めた様子でそう言う。

 そういえばいつも起きてくる時、物凄く疲れた顔をしていたのはそういった真相が……。


「お、おはよう竜華。てっきり竜華は朝が弱いとばかり思っていたが、その……大変だったな」

「ん、おはよう。朝が弱いのは否定しないわ。おかげで少しずつ耐性が付き始めてもいるけど」

「……お互い大変なんだな」


 自嘲的に笑った竜華に反射的に引き攣った笑みを返してしまう。

 リュウお姉ちゃん、本当助かってます。苦労かけます。ありがとう。


「っていうかそろそろ離してあげたら? その子も懲りたでしょ」


 心の底で竜華の不憫さに労いをこれでもかってくらい掛けていると、竜華は俺の抱える布団を指さした。

 未だ中でもぞもぞ抵抗するルフを見つめながら素っ気なく言うが、心配そうな視線はお姉ちゃんそのもの。

 けれどそれとは別に、羨望のような好奇心のような感情が見え隠れしている。


「もしかして、竜華もやってみたい?」

「ハ、ハァァ⁉ 何でよっ⁉」

「え、いや、何だかしてほしそうな顔してたし、それに竜華好きだろ、こういうの」

「ち、違うわよっ! す、す好きとかじゃないからっ!」


 落ち着き無くチラッチラッと見ては、そわそわと視線を泳がせているように見えるんだけどなー。

 それに竜華は暗くて、すっぽり収まるところが好きだから丁度良いスペースだと思ったんだが違うらしい。

 まあしかし、顔を赤らめて「違うー、違うーッ!」と必死に弁明している以上、追求はしない。


「プハーッ!」

「あっ」


 そうこうしている内に自力でもぞもぞ這い出たルフが腕の中からスルリと抜け出す。

 そしてそのまま竜華の手を引いて、リビングへ駆け出していった。

 多分俺を起こした事と構って貰った事に満足したのだろう。

 俺はそのまま二人を見送ったが、その際に竜華の名残惜しそうな目と目が合った。

 やっぱり無理やりにでも襲った方が良かったのだろうか?

 残された疑問が駆け巡るこの場に風がふわりと吹く。多分竜華が開けてくれていたのだろう。


 それにしても、こんなゆっくりと過ごす朝がこんなにも気持ちの良いものなのだと改めて認識した。

 普段は仕事に追われ、連休が始まればオウミさんに追われ……ここ最近は朝に追われるばかりだったから、今というこの瞬間を幸せに感じる。

 この幸せを自分だけで消化するのはもったいない。ちゃんとおすそ分けしないとな。

 かけがえない妹達に。俺を見守ってくれている二人にも。


「チーちゃ……オウミさん、大丈夫かな……」


 オウミさんは昨日のネーセフとの戦いが終わってからずっと夜寝るまでチーちゃん化していた。

 そのおかげか今日は修行が無くなってしまっている。

 オウミさんが前に言っていた事を当て嵌めれば、それだけ沢山の力を使っていたということになる。

 そしてそれはネーセフにじゃなくて、多分俺に。

 あのまま放置されていたら、俺は蛇の餌になっていただろう。

 そうしなかったオウミさんには感謝の言葉しか出て来ない。

 だからこそ、強くならねばという想いが強くなり、そして焦り出す。


 でも今は少し休んでも良いよね。あれだけ戦ったんだから。

 それにオウミさんも言っていたし。焦るなって。

 傍から見れば、都合の良いように捉えているように見えるかもしれない。けど俺は信じてるから。大切な人の教えを。

 その人のために俺に出来ることはする。今度は俺が皆を護れるように。


「……よし。そうと決まれば」


 グーッと伸びをして凝りを解消する。

 とりあえず今日は久々の休日を満喫しよう。

 せっかくルフと竜華と一緒にいられるんだ。二人と一緒に家でごろごろするのも良いし、何処かに行くのも有りだよな。

 既に目覚めた頭で今日の予定を諸々考えるけど、今は出来ることをやろう。

 そう思い、俺は立ち上がり放り出した掛け布団から畳み始めた。

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