攻め方
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これからも頑張って書きます
「ハアアァァーーッ!」
「遅いッ!」
翌日、明朝。
今日も今日とて修行が始まる。
体は万全ではないが、昨日より気持ち体が軽い気がする。オウミさんに認められたからだろうか。
まあ、だからといってそう簡単にオウミさんに攻撃は届かない。今も放った拳は防がれ、弾き飛ばされた。
「だああぁぁー! 駄目だ、駄目だ、駄目だ!」
もう何度目か分からない。
全く通用しない焦りから、転げた先で駄々っ子のように喚き散らす。
雪解け混じりの土が付着するがそんなことにいちいち構ってはいられない。
「全く、何でもかんでも力押しで解決しようとするな。もっと戦い方を考えろ」
そんな俺を見下ろしながらオウミが言う。
分かってますよ、分かってますけど! どうしても昨日の感触が忘れられない。
あの盾のような膜にひびを入れた感触。それがまだ俺の拳に残っている。
痛みに耐え、必死で掴んだ突破口だ。そう簡単に変えることはしたくない。
それに、この立ち回り以上に優位な攻め方を正直思い付かないし。
もし思い付いていたとして、実行したとしてもおそらく有効打を取れないだろう。
一番可能性のある、このぶつかり合いで何度も何度も吹っ飛ばされてる訳だから。
だったらごちゃごちゃ考える事を止めて、力の一点突破、何度でも挑戦するぶつかり稽古。今はこれしかないと思っている。
「駄目に決まっているだろう。お前は自分の力を過信し過ぎだ」
「でも、昨日褒めてくれたし……」
「そうかもしれんがそれとこれとは別だ。いいか、もっと頭を使え。その凝り固まった考えと力を柔軟にしろと言っている」
「じゃあオウミさんはどうしたら良いと思ってますか?」
オウミさんが呆れ混じりの息を一つ吐いてから、その小さな手を差し出して俺を引き起こす。
ぐいっと引っ張られる力が思いの外強くて、何処からそんな力が出てくるのか気になった。
もしかしたらこの人も大概、力で攻める脳筋プレイの方が得意なんじゃないかと想像してみたり。
「…………私がそう簡単に答えを与えてやると思っているのか?」
それはその通りなんだが、微妙に空いた間に若干戸惑う。
目の逸らし方があまりにも不自然過ぎて、もしかして本当は何も考えてなかったんじゃないかと疑う。
その疑問を払拭するために少しばかり追求をしてみた。
「ヒント下さい」
「…………」
これは……やっちまったかも。
手を挙げて教えを乞うとオウミさんが押し黙ってしまった。これはつまり――
「やっぱり何も――」
「ええい! やかましい! 私はお前を鍛えているのだ! 口答えするな! 無駄口も叩くな! さっさと構えろ!」
やや強引な話の終わらせ方が俺の疑問を確信へと誘う。
いや強引と言うより、もはや横暴過ぎるオウミさんを見やると、もう既に準備が整っていた。俺も慌てて拳を構えては、また駆ける。
拳を振り上げ、オウミさんの堅牢な盾に一気に振り抜く。
もう何度目かも覚えていないぶつかり合った音が鳴り響く。
確かな感触はある。だが昨日より確実に威力が無い。寧ろ、もう何度もぶつかり合ったために、握り込む力もかなり弱くなってきている。
「力で攻めるなら甘く入るな!」
「グッ……!」
押し返され、何度目か分からない弾き飛ばし。
すぐに起き上がるが、立ち上がった先で足がガクガクと悲鳴をあげている。
自分でも体力切れが目立つ。
思っていたより消耗が早い。こんな戦い方では、いざ実戦ってなった時、すぐにバテてしまうだろう――やはり攻め方を変える方べきなのか……?
「……なあ、慶志郎。お前の力はあの娘っ子達を守るためだということは分かっている。しかし今のお前はどうだ」
膝に手を付きながら肩でしていた息を整えていると不意にオウミが問いかけてきた。
突然の事と息切れで頭が上手く回らない。そのせいでオウミさんが何を言いたいのか分からない。
そんな俺に構わず、オウミさんが話を続けた。
「今お前はその力を誰のために使っている?」
「誰って……ルフと竜華のために」
「本当にそうか?」
「と、言いますと……?」
「私には今のお前はただただ攻めあぐねているようにしか見えんのだが」
「そりゃだってまだ攻略の糸口が見えてませんから」
俺から見てもオウミさんから見てもそれは一目瞭然だ。
だいたい、攻め方が分かっていればここまで苦労しないし、痛い思いもしていない。
オウミさんは何が言いたいんだろうか。
「思いは力。いいか慶志郎もう一度聞く。お前は何の為に戦う」
オウミさんの真剣な眼差しが俺を射抜く。
何の為……。ルフと竜華をを守る為。二人を守る為に俺は戦っている。ん……あれ?
じゃあもしかして、別に攻めなくても良い? 守りに徹すればいいのか、オウミさんみたいに。
「半分正解で半分間違いだな。慶志郎、今お前は攻めるという事が目的になっていた。攻めるという思いは守るより気が楽だろ、誰かのために戦わなくて良いからな。だが、お前の力を最大限に発揮するのは守る時だ。誰かのために自分を賭して戦う。その時の力はさぞ重いだろうな」
オウミさんに言われて気付く。
確かに今日は何だか体が軽かったわりには拳に力が宿っていない。
それは俺がこれまでとは違い、ルフや竜華のためにではなく、俺自身のために拳を奮っていたから。
目的と手段がごっちゃになっていた。
二人の為に戦う俺ではなく、俺は一人よがりに戦っていたのか。
「ようやく分かったか。だから言ったであろう。その凝り固まった頭をどうにかしろと。全く」
オウミさんが呆れ気味に言葉を吐く。
まさか、オウミさんは全部知っていてが敢えて言わなかった……?
だとしたら……うわぁ、やっちまった。俺はとんだ勘違いをしてしまっていた。脳筋ロリババァだなんて思ってほんとすみませんでした。
「おい! お前そこまで言ってなかっただろ!」
「確かにめちゃくちゃな属性ですね」
「…………それだけ元気があるのなら、もっと厳しくしても良さそうだな」
オウミさんから殺気みたいなものが漏れ出している。ような気がする。
い、いや、あの、もう結構しんどいんですよ……? なんて言える雰囲気でも無く、俺はもう一度構える。
今度は大丈夫だと思う。自分の想いに気付けたから。その想いを拳に宿して――
「あ、あの、オウミさん……」
「何だ」
「上手くいかないです……」
宿してみるが、力を纏うことが出来なかった。
どうして、と思ったがその答えはすぐに浮かんだ。
「多分、オウミさんを敵と思ってないからなんじゃ」
「だが、お前昨日は出来ていただろう」
それは多分、昨日までオウミさんの事をほとんど知らなかったからだと思う。
しかも知り得ていた情報がルフと竜華の怯え方と先生という名の鬼ババって事だけだったし。
だけど、チーちゃんの事を知って、オウミさんの想いを知って、心の何処かで俺はこの人も守りたいんじゃないか思っているのかもしれない。
もしかしたらこれが俺のデメリット、力の代償なんじゃないかと思う。
それだと何となくだけど合点もいく。
そんな気持ちをオウミさんに送る。
「そうか……。それは――嬉しいな」
オウミさんは微笑んでいた。
けどその表情を一瞬で、ハッと我に帰ったのかすぐに引っ込められた。
少し険しげな表情になったオウミさんが一つコホンと咳をして言う。
「とりあえず、それが一先ず課題だな。何、すぐに答えは見つかるだろう」
「全然検討も付きません。どうすれば良いですか」
「………………それはお前自身が見つけ出さなければいけない」
「ヒント下さい」
「………………さ、そろそろアレイスターが来る頃だ。今日はもう止めにしてそれまで少しのんびりするか」
不自然に長い間。強引な話題逸らし。露骨に向いた視線の先には何も無い。
今度こそ何も考えてなかったんではないかと疑う。
やっぱりこの人、大概に脳筋ロリ鬼ババァなのかもしれない……。
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