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俺に歳の離れた妹が出来た、しかもその少女、鬼らしい  作者: 三雨
オウミ先生とアレイスターさんと修行
39/81

包容

 その日の夜、俺はリビングでボーっとしていた。

 アレイスターさんは何やら用事があるとの事で部屋に戻っていった。オウ……チーちゃんを残して。

 ルフと竜華、それにチーちゃんを寝かせて今に至る。

 その内戻るってアレイスターさんは言ってたけど、チーちゃんは何時になったら戻るのだろうか。

 さすがに子供三人の面倒を見るのは流石にしんどい。

 とは言うけども、こう甘えられるのは悪い気もしない。だから言うに言えないというか何というか……。

 そう言えばオウ……チーちゃんの甘え方はルフと竜華とまた違った甘え方だった。

 ルフは感情のまま真っ直ぐにくる天真爛漫のような甘え方。竜華は普段はしっかりしている分、二人きりになるとそっと寄り添うような甘え方をする。多分ルフに自分が甘えている姿を見られたくないのだろう。そんなギャップもまた可愛い。

 んでチーちゃんはというと、何というかルフと竜華を極限に振り切ったような感じだった。

 さっきもずっと俺の側から離れようとしていなかったし。

 そのせいでルフがぷくーっと頬を膨らませていたのにちょっと罪悪感。

 これだけだと、ルフと同じなんだが、元がなー、あれだけツンツンしてるからそのギャップが竜華と酷似していてなー……。

 おかげで竜華からの視線が思い切り突き刺さってこれまたひどく罪悪感。


「とりあえず、早く戻ってくれないと俺が死ぬ。体力的にも精神的にも。いやでも戻ったら戻ったでまた面倒そう――」

「――悪かったな、面倒臭い女で」


 そう独り言を呟くと、寝室からチーちゃんが起きてきてそう言った。


「うえっ⁉ チーちゃん聞いてたの⁉」


 驚きながらチーちゃんの顔を見やると恥ずかしいそうな、それでいて何だか睨むような視線を俺に向けていた。

 あ、あれ? 何かがおかしい。さっきまであんなにベッタリだったのに……


「……次、チーちゃ……その名で呼んでみろ。その舌引っこ抜くぞ」


 …………。あ、これチーちゃんじゃない。オウミさんだ。

 ということは元に戻った……?

 っていうか自分で呼ばせておいてその言い草は横暴過ぎる。


「や、やかましい! 全く、アレイスターは何をやってるのだ。いや、あいつに任せた私が悪いのか」

「ア、アレイスターさんなら部屋に戻りましたよ。チーちゃ……オウミさんがぐっすり眠っているのを見届けてから」


 ぶつぶつ呟くオウミさんにそう言っておく。っていうか、チーちゃんって呼びそうになった瞬間、凄い目で睨まれた。次は本気で舌が狙われそうだ。


「あいつはほんとに……まあ良い。そんなことよりも慶志郎、その、なんだ、すまなかったな」

「え、いやいや仕方ない事なんじゃないですか。アレイスターさんも言ってましたし。こうして元に戻ってくれて良かったですし、その、可愛かったですし」

「そうではない! いい加減その話題から離れろ!」


 あれ? オウミさんの面倒をみていたことじゃないの?

 頭の中でそう考えるとオウミさんは声を荒げ、怒った表情でまた睨まれた。


「ハァ……私が言っているのは朝の話だ。お前には無理をさせた。それに……私は約束事も破ってしまった」

「約束ですか? 何かありましたっけ?」

「聞いていなかったのか。言ったはずだ、私から手は出さないと。そう言っておきながら、私は破ってしまった」


 聞いてはいましたよ。でも、オウミさんから攻撃されたって記憶が俺にないんですよ。

 あ、でも、この体の痛みの節々って……まさかね?


 浮かんだ疑問を確かめるようにオウミさんの目を見れば、それに応じてオウミさんがこくりと一つ頷く。

 その一言が妙に重く、そして雄弁に語っている。目は口ほど物言うとはほんとだった。

 語り終えたオウミさんの表情が何となく暗い。

 多分、申し訳ないと思っているのだろう。この人は言った言葉には責任を持つ人だと思ってるから。

 だからこそ俺も本心を言わなければならない。


「何だそんなことですか。大丈夫ですよ、気にしないで下さい。寧ろそうじゃないと修行にならないじゃないですか」


 そう言うとオウミさんの表情が晴れた気がした。

 いや、呆気に取られたと言った方がしっくりくる気がする。

 多分それは俺が何の迷いなしにケロッとした表情で言い放ったのが原因だと思われるが。

 その想いを受け取ってから俺も自分の思いをぶつける。


「今日オウミさんと戦ってわかりました。俺はまだまだなんだって。……俺、強くなりたいんです。あの二人をちゃんと守れるくらい……じゃないとまた怖い思いをさせちゃうから。不安にさせちゃうから」


 ルフと竜華をしっかりと守りたい。

 俺の中にある嘘偽りのない気持ち。これだけは絶対に守り抜く。

 そんな想いを込めて、オウミさんの目を見据える。すると、オウミさんが微かに口元を緩めた。


「――お前はほんとに似ているな」

「えっ……?」

「何でもない。お前の気持ち、確かに受け取った。それを踏まえて明日からはもっとお前を鍛え抜いてやる。覚悟しておけよ?」

「えっと、頑張ります……! 多分……」

「……お前は何というか、ほんと締まらないな」


 だって既に経験してる身ですから。

 それにルフや竜華、おまけに過去何人も絶望の底へと叩き付けてきたと聞けば、そりゃ少しくらい心の準備に必要な時間は欲しいかなって。自分から言い出したことですけど。


「泣き言言うな、もう遅い。それと、私はそこまでしていない」


 でも、俺は完膚なきまでに叩きのめされましたし。いやまあ、それは俺の実力不足が原因だからノーカンか。


「それは……その、すまないと思ってる……」

「あ、いや、別に、だからと言って、どうこうって訳ではなくてですね……」


 まずい。せっかくオウミさんが元気を取り戻したのに余計な事を考えてしまった。

 そのせいで、何とも気不味い沈黙が流れる。


「とりあえず、座って下さい。今お茶淹れますから」

「ああ、すまない」


 オウミさんを座らせ、お茶を淹れる。

 その間に打開策を考え――そうだ、聞きたいことがあったんだ。でもこれは……


「そう言えばアレイスターさんが言ってました。オウミさんの……その、チーちゃん現象のこと」

「アレイスターが? 何と言っていた?」


 お茶を淹れ、オウミさんに差し出してから俺も隣に座る。

 オウミがズズズと啜り、一息吐いて聞いてくる。


「それがその内戻る。そしたら本人に直接聞けと」

「全くあいつは本当に――」


 またも一息。けどこれは呆れ混じりのため息。

 なんかこう見てると昔からの仲なんだなって沁み沁み思う。


「だたの腐れ縁だ。だからこそお前には話しても良いのだろうな――しかしどこから話せばいいのやら」


 そう言ってオウミさんが考え込んだ。

 そんな複雑な事情があるのだろうか。


「いやそうでもないんだ。ただお前やあの娘っ子、白竜族の娘は少し訳が違う。本来、私達は力を使えば反動がある。これは誰しもがそうだ。代償は人それぞれ違うのだが、私は力を使えば使うほどその反動で精神が幼くなる」


 成程。だからあんなに可愛いらしい姿に。

 そう思った瞬間、キッと睨まれた。


「……続けるぞ。その分力は協力でな、それはお前も分かっていると思うが」

「はい。それはもう嫌というほど。打ちのめされましたから」

「……それは嫌味か? まあ良い。そして酷使すればするほど、その反動も大きく長い。本来少し休めば治るはずなのだが、どうやら今回は反動が長かったようだ」

「ずっとでしたもんね」

「…………。つまり何が言いたいかと言うと――」


 瞬間、オウミさんが立ち上がり、俺の頭を撫でながら言った。


「誇れ、お前はそれだけ私を本気にさせたのだ」


 突然の出来事に驚いたが、妙に溶け込むように俺はそれを受け入れられた。

 慈愛に満ちた目を向けてオウミさんが俺を包み込む。

 気恥ずかしさとか情けなさとか俺の心の弱さを見透かし、全てを受け入れるように。

 その手は、優しく温かく、そしてどこか懐かしい。

 誰かに撫でられるなんて久しぶり過ぎて忘れていた。

 この体も想いも何もかもを委ねたく気持ちを――


「お前は言っていたな。守りたいって。その気持ちの強さは本物だ。だからこそ私もお前にこんなにも本気になったのだろうな。だからこそ私もお前のことを守ってやりたくなるのだろうな」


 撫でられる度に何か不思議な感情が溢れてくる。

 俺の知らない感情。知り得なかった何か、だけど、ずっと知りたかった何か。


「お前にはこれから辛い思いをさせるかもしれない。一人前にするためにいっぱい傷付けるかもしれない。しかし誰よりもお前のことを想っている。それが私の嘘偽りの想いだ。だから――」


 その知らないが何だかいっぱい溢れてきて、熱くなって、自然と目から涙がこぼれていた。

 オウミさんの一言一言が俺の中に心の中に入ってくる。温かく、優しい光となって俺の全てを丸ごと包容してくれる。


 おかあーちゃん。


 不意に言葉が漏れ出した。

 おかしいな、オウミさんが母親な訳ないのに。

 けどオウミさんは肯定も否定もなく、俺を撫で続ける。

 その手がとても穏やかに俺に寄り添ってくれている。


「――眠ってしまったか。それにしても、おかあーちゃんか……。私もなりたかったな、お前の母親に――」


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