川の字
「二人共、狭くない?」
リシをぶっ飛ばした後、へろへろになりながらも買い物に行って、二人をお風呂入れて、ご飯を食べさせた。
俺も半分寝てるんじゃねーかって思うくらいうとうとしながら寝る準備を済ませた。
今日はマジでもうくたくた過ぎて起きてる気力もない。
やっと寝れる。そう思った矢先、竜華の様子がどこかおかしい事に気付いた。
何だかそわそわしながら、ちらちらと俺を見ては、何か言いかけ口篭る。
はて? と思ったが、すぐに朝の約束を思い出した。
やっべ、すっかり忘れてた。
っていうか竜華も普通に言ってくれれば――いや恥ずかしがって言えないか。全く、可愛い奴め。
そう思いながら俺は二人を連れて布団に入り、そして今に至る。
昨日も思ったけど、いつもルフと竜華に使ってもらってるこのセミダブルベッドに三人で寝るってやっぱ狭い。
しかも今回は俺が真ん中で壁側がルフ、その逆側に竜華。
俺は寝相が悪い方ではないが、竜華を突き落とさないか、ルフを壁で挟んでしまわないか心配になる。
けども二人が「これでいいの!」って強く言うから流されるがままこんな不器用な川の字になってしまった。
「えへへ、お兄ちゃんはやっぱりあったかーい」
いや多分俺じゃなくてルフがあったかいんよな。
ぎゅーっとしがみつくルフから暖を取りつつ頭を撫でる。
ニコニコと目を細めるルフにどことなく子犬っぽさを感じてしまう。
そんなルフの仕草にめちゃくちゃ癒され、自然と笑みがこぼれる。
一方で竜華の方は猫のように丸くなりながら布団に顔を埋め、その表情はよく見えない。
布団を捲ろうとするとすごい力で抵抗されてしまう。
とりあえず布団の上からぽんぽんと撫でてみる。すると、中でちょっとだけびくりと動いた気がした。
「竜華ほんとありがとな。竜華が来てくれなかったら俺今頃死んでたかもな」
嘘ではない。ほんと竜華達が来てくれなきゃマジで死んでた気がする。
そういや竜華達はどうやって来てくれたのか気になっていたけれど、どうやらベランダから飛んできたっぽい。帰ってきたらここの窓が開いていた。
俺の言葉に竜華が顔を半分出してくれた。
目をうるうると揺らして不安気に何かを訴えてくる。
その目をしっかりと見つめ、俺は竜華を安心させるために言葉を続けた。
「大丈夫、今度は俺が絶対に守る……守ってみせる。何があっても俺は竜華を渡さない」
竜華に、そして自分にも言い聞かせ、その言葉を噛みしめる。
二人を守る、それだけの力がこの手にある。だったら絶対に守り抜きたい。
そう心に強く刻み込む。刻み込んだけど――
「な、ななな何言ってるのよっ⁉」
竜華が突然大きな声を出した。
がばりと起き上がった竜華の何か焦ったような、動揺したような声が響く。
見れば銀の光をお漏らししていたが、多分この子気付いてない。
「え、あ、いや、家族を守るのは当然だろ?」
「かかか家族だなんて色々すっ飛ばし過ぎよ!」
勢いそのままに捲し立ててくる。その勢いに比例するように光が強くなっている。
え、いや、俺は妹のように思ってるし、ルフだってお姉ちゃんって甘えてるし、これもう家族同然だろ。
「俺は竜華のこと妹のように思ってるよ。ルフも竜華をお姉ちゃんだと思ってるよな」
「うん! リュウお姉ちゃんはお姉ちゃんだよ?」
「つつ付き合ってもないのにいきなりか、家族になるだなんて……え?」
「え? 付き合う? すっ飛ばす? あ、なるほど……そういう……」
「ちょっ⁉ 待って違う! その何か察した感じやめて!」
「ちょ、待て竜華。揺らすなって」
肩を掴まれ思い切り振られる。
ぐわんぐわんと一頻り揺らされ、終わったと思ったら今度は馬乗りになってきた。
「お、おい竜華?」
「違う! 違うの!」
竜華が顔を真っ赤にして必死に弁明しながらぽかぽか叩いてくる。
叩かれた箇所が地味に痛い。
今お漏らししてることを伝えたらもっと強くボカボカ叩いてきそうで言えない。
っていうか竜華さん、ルフのこと踏んでない? 大丈夫? 確認してみると上手く間に足を滑らせていた。
「わかった、わかったから。な?」
「絶対に違うから! うぅ……」
腕を伸ばして竜華の頭を宥めるようにポンポンと撫でる。
竜華が落ち着くまで撫で続け、俺の上から降りてもらう。
「落ち着いたか?」
「うん、ごめんなさい……」
落ち着きを取り戻した竜華がもとの位置へともぞもぞ潜り込んでいった。
布団の隙間から銀のお漏らしが光っている。
落ち着いてくれたのはいいが心なしか元気まで無くなってしまったように見える。
いやまあ、これから寝るのに元気があっても困るんだが。
ただ、このまま寝かせると何だか俺が意地悪したような感じになってしまう。
せっかく仲良くなったのに嫌われてしまう……だが何て声を掛けたらいいのか……
「お兄ちゃーん!」
「ごふっ」
掛ける言葉を探していると腹部に思い切り衝撃が走った。
ルフの飛び込みだった。体が青白い光に覆われたルフがムギューッと抱き着いては顔をすりすりと擦り付けてくる。
角が顔に当たって地味に痛い。っていうかルフちゃんあなたもお漏らししてない? 後、竜華のこと踏んでるよね? 見れば思い切り踏み付けていた。
「ル、ルフ? な、何で……」
「だってリュウお姉ちゃんばっかりずるい! ルフも!」
そう言ってルフが顔を上げて真っ直ぐに見つめてくる。
撫でろと言う事だろうか。さっきまで撫でてたじゃんかと思ったが、おそらく竜華と同じ格好で撫でろということなのだろう。
「わかったわかった――ほらっ」
そう思い、わしゃわしゃと乱暴に撫でてやる。
ルフは「みゃぁぁー」とか言いながら俺にやられるがままだった。うん、どっちかっていうとルフの方が猫っぽさがあるような気がする。
しばらく撫で続けているとルフが満足そうに口を開く。
「ルフはね、お兄ちゃんと結婚するー!」
「ふえっ⁉」
にっこにこでルフがそう言ってくる。今まで見たこともないくらい青白い光を強くさせて。
ルフの言葉に竜華がまたがばりと反応した。
俺の上で鬼と竜が睨み合っている。
「けけけ結婚って……ルフ? あなた意味分かってるの⁉」
「ふみゅ? おとーちゃんとあかーちゃんみたいになるんだよね? ルフはお兄ちゃん好きだからなれるよ?」
「そそそうじゃなくて! えっと、その、そんなの許されないし、ルフのお母さんだって許さないわっ!」
「ふみゅ? どうして?」
「だって!! だって……」
語尾が弱くなると共に竜華が俺を見てくる。
説明してあげて、と言わんばかりのその表情に俺も助け舟を出す。
「あー、その、あれだ、ルフ、結婚はもっと大きくなってからな」
「そうよっ! ――えっ?」
俺の言葉に竜華がギョッとして目を見開く。
竜華が欲しかった言葉では無いのは分かっている。
いや、でも、その、ね? 子供の言う事ですし、多少はね?
それに見てみ、ルフのこのキラキラとした目と光。これでだめなんて言えんだろ。だから今はこれで勘弁して下さい。
そんな思いを竜華に目で訴えてみる。
すると竜華は何か吹っ切れたように叫んだ。
「じゃ、じゃあ私もするわよ! 絶対結婚するわよ!!」
最早ヤケクソのように竜華が高らかに宣言してきた。
さっきまでのしおらしさのようなもじもじした感じなんて全部吹き飛ばしたかのように。
そんな竜華に俺は気圧し、ルフはその勢いを見て目をまん丸くしていた。
「お、おう。そ、そうだな。竜華ももっと大きくなってからな」
とりあえず叫んだ反動で息を切らす竜華に声を掛けてみるが多分届いていない気がする。
っていうか俺、しれっと二股かけてるみたいになってる。我ながらクズ……いやでもここで否定したら二人の夢をぶち壊してしまうし……大丈夫、大丈夫……多分。
そんな事を考えているとルフが竜華に声を掛ける。
「リュウお姉ちゃんもお兄ちゃんのこと大好きだもんね!」
「〜〜ッ! えぇそうよ! 大好きよ! でも慶お兄ちゃんだって私の事大好きって事よ! じゃなきゃ私の力を扱えないし、お守りだって反応しないし! ね、慶お兄ちゃん!」
「じゃあお兄ちゃんはルフのことも大好きってことだね!」
二人が俺に問い掛ける。
いやちょっと待って。え、あのお守りってそういうことなの⁉
二人の言葉に俺はお守りを確認した。
見れば、二人の光に釣られるように光が呼応している。
多分リシをぶっ飛ばした時より強い光を放っている。いやそれよりも
「り、竜華? これってそういう意味なのか?」
「〜〜ッ! ええっ! そうよ! 私は慶お兄ちゃんを信頼してるから――だ、大好きだから、私の力が羽根のお守りになって慶お兄ちゃんに宿ったのよ!!」
「お、おう、ありがと」
勢いそのままに竜華が説明してくれた。
とりあえず、頭を撫でて落ち着かせるが、ルフもせがんできたので二人を撫でておく。
つまり、ルフと竜華が俺を好きになればなるほど――俺がルフと竜華を好きになるほど俺が強くなるってこと? ……まじ?
いや二人のことが好きって言われれば好きだけど、そもそも俺の好きは定義が違う。
守ってあげたいとか、妹みたいって感情からくる好きなんだけど、それでもいいの? いや待て、これ仮に、もし仮に! 本当の意味での好き――延いては結婚とかなったら――いやいやいや駄目だ、それ以上考えるな! 俺はまだ人間を辞めたくはない。物理的にも、世間的にも
「そ、そうだな。二人のこと大好きだぞ……妹として」
俺は考えるのを止め、とりあえず曖昧な言葉を二人に返す。
だが、それが気に食わなかったのか二人は頬を「むーっ」と膨らませていた。
「はい、皆大好きっての確認できたし、そろそろ寝るぞ。後二人共、お漏らしし過ぎ」
「お兄ちゃんもいっぱいお漏らししてるよ?」
「だからお漏らしって言わないでちょうだい!」
だから俺が名付けた訳じゃない。後、俺のお漏らしは君達のせいだからね?
俺の無理やり締めた言葉に渋々といった様子で竜華が、意外と素直に従ってくれたルフがまた布団へと戻っていく。
ただ二人共、俺を抱き枕かなんかと勘違いしてるかのようにギューッとしがみついている。
別々に刻む二人の鼓動を感じながら眠りにつこうとしたが、放たれた三つの光が眩しくて寝付けない時間が刻々と過ぎていくのであった。
読んでいただきありがとうございます。
書きたいと思ってた部分まで書けました。
ちょっとばかし次のお話考えるのでお時間ください




