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「そういえば慶君、これから竜華ちゃんのお洋服買いに行くのよね」


 さっき教えて貰ったんだ、とニコニコしながら真衣さんが言ってくる。

 いつの間に仲良くなったのだろうと考えながらも竜華は社交性が高くて少し安心した。


「それでね慶君、私に竜華ちゃんのお洋服選ばせてもらえないかしら?」


 ちゃんと可愛くしてあげるからと頼まれた。

 真衣さんに選んで貰えるのなら是非ともそうしたい。

 正直な話、俺には子供と言えど、女の子の服の可愛さとか何が似合ってるとかよく分からないし、多分センスの欠片もない。

 とある方――というか貴女の旦那さんからは女性を褒めるには先ず服装からと教えて貰ったが、良し悪しなんて分からず実行したところ、見事に気まずい空気になって以来しなくなったが。だから俺はモテないのかもしれない……。

 そんな俺よりも真衣さんの方が圧倒的に適任だ。ただ――


「いいんですか? でも矢野さん達のご迷惑になるんじゃ……」


 真衣さんの提案は非常にありがたいが、矢野一家の買い物は大丈夫なのだろうか? 案の定、愛衣ちゃんが残したハンバーグセットの後始末をしている矢野に聞いてみる。


「んー、いいんじゃないか。俺らは暇つぶしに来たようなもんだし」


 どっか連れてけーって、ずっと言ってたもんな。と愛衣ちゃんに話かけた矢野さんだったが、返されたのは睨むような冷たい視線。

 あまり見ちゃいけないと思い再び真衣さんの方へと向き直る。


「じゃ、じゃあ、お願いします。良かったな竜華、って大丈夫か?」


 竜華は苦しそうにしながらこくりと頷いた。

 無理もない。愛衣ちゃんと同じものを頼んで一人で食べ切ったのだから。

 途中何回か助け舟を出したが断られてしまった。けどまあ、よく食べ切った。ちなみにルフはお子様ランチ頼んで普通に食べ切った。


 会計を済ませ、店の外へ出る。

 お金を出そうとしたが、矢野さんに断られてしまった。

 ごちそうさまですと告げ、一緒に子供達の後ろを見守るように歩きながら洋服屋の前まで歩いた。

 どうやら竜華は本当に社交性が高く、ルフの手を引きながら愛衣ちゃんや真衣さんと楽しそうに話していた。まあ、相変わらずルフは真衣さんに苦手意識を持っていそうだけど。


「じゃあ慶君はここで待っててね」


 真衣さんの言葉に俺が頭に?マークを浮かべていると、それを察してか真衣さんが口に指を当てて言う。


「ここからは女の子同士の秘密の時間」


 ねぇー、と子供達に呼び掛け、そのまま店の中へと入っていった。

 そう言われては行くに行けなくなる。

 取り残された男二人は服を選び終わるまで近くのベンチに腰掛けた。


「すみません。家族水入らずの時間に」

「んー、気にすんな。愛衣はお前と遊びたがってたし。それにうちの奥さんも子供の面倒見たがりだからな」


 良く知ってるだろって矢野さんが笑いながら話す。

 確かに真衣さんは面倒見がとても良い。俺も会う度によくお世話になってる。

 あれ? もしかして俺も子供と同等に見られてる?


「にしてもばったり会ったと思ったら子供連れてんだもん」


 何で言ってくれなかったと聞いてきそうな気がしたので先に返す。


「突然のことだったので俺もテンパってて。もうちょい落ち着いてから話そうかなって」


 そう言うと矢野さんは何か考える素振りを見せた後、どこか納得したように「そうか」と穏やかに言った。

 その表情に不思議がってると矢野さんが可笑しそうに笑い、言葉を続ける。


「これでもお前のことを傍で見てきてるからさ、不慣れながらも奮闘していたんだろうなって」

「それは、まあ、はい……」

「だけどその姿勢が、振る舞いがあの子達にはちゃんと伝わってる。じゃなきゃあんなに懐かないさ。あの子達も、もちろん愛衣も」


 子供ってそういうもんだろって笑顔でそう言う。

 矢野さんはそう言ってくれるが、俺は自信を持って頷けない。

 ルフは何故か最初から懐いてくれているが、竜華はどこか俺に遠慮している。

 何するにしても顔色を窺われている気がしてならない。

 その社交性の高さから世渡り上手と言ってしまえばそれだけなんだけど、もっとこうありのままをさらけ出して欲しいと思うのは俺の我儘なのだろうか。


 愛衣ちゃんに至っては最初こそめちゃくちゃ号泣されたけど、今は何だかんだ「慶志郎、慶志郎」って懐いてくれてる。いやこれは単に下手に見られてるだけな気もするが……それでも懐いてくれてるのなら別に構わない。


 このくらい竜華も――って思ったけど、それは俺次第ってところだろう。頑張ろう。


 それにしても矢野が珍しくまともなことを言っている。普段あんなにおちゃらけているのに。やっぱり父の顔になると頼れる大黒柱になるのか。父は偉大――


「……何だよ」

「いや、矢野さんからすげー真面目な話が聞けるなんて思ってもなかったんで」

「アホ。子供の面倒見るってのはそれだけ大変なことなんだ。だから、まあ何だ、何かあったら……いやある前に頼れ。俺でも奥さんでも」


 俺達はいつでもお前の味方だからよ。

 矢野さんはこれ以上にないくらいの決め顔でそう言った。

 俺が女性なら間違いなく恋に落ちていた。イケメンがこんな格好いい台詞を言うのは反則である。

 この身を預けて抱擁されたいと思うくらいで済んだ自分を褒めてやりたい。


 そう話していると前から黒髪を振ってきょろきょろとしている女の子がいた。愛衣ちゃんだ。

 手を振って愛衣ちゃんを呼ぶ。

 すると愛衣ちゃんがこっちに向かって走ってきた。

 その勢いは俺の目の前でも止まることがない。それどころかその勢いのままに思い切りダイブしてきた。


「おー、ルフっ娘が言ってた通りだ」

「な、何を……」


 何とか愛衣ちゃんを抱きかかえるように受け止めた。

 背中に腕を回され、愛衣ちゃんが上目遣いで続ける。


「慶志郎は何でも抱き止めるって言ってた。私にはしてくれなかったのに」

「いや、愛衣ちゃんそんなおてんばな娘じゃないでしょ。それに――」


 そこまで言いかけて殺気を感じた。

 言うまでも無い。隣からだ。

 恐る恐る目を向けると矢野さんが鬼の形相でこちらを――いや俺をみていた。

 いや待って、あなたさっき何があっても俺の味方だって言ってくれましたよね!?

 どんなことからも俺を守るってプロポーズみたいな事言ってくれましたよね――いやこれは言ってなかったような……


「父どうした? 顔が怖いぞ?」


 原因は君だからね? お父さんがこんな風になってるの君のせいだからね?

 平然と言ってのける愛衣ちゃんは将来絶対に魔性な女になる気がする……。


「――それで愛衣ちゃん。どうしたの?」

「ああ、母が呼んでこいって」


 一呼吸入れ、落ち着かせた後、話題を変える。

 どうやら真衣さんが呼んでいるようだ。ということは終わったのかな?

 俺はすぐさま愛衣ちゃんを下ろしてから立ち上がり、矢野さんに言った。


「じゃあ、行きましょうか」

「慶志郎だっこ」

「愛衣ちゃんははぐれないようにパパとお手々繋いでね」

「ぶー」


 可愛い。いや今は違う。

 ぶーたれる愛衣ちゃんを説得して案内してもらう。

 殺気は収まったが無言の圧力が怖い。

 その背中に内心怯えながら俺は愛衣ちゃん達の後ろを歩く。


「慶君こっちこっち。あらお父さんどうしたの?」


 愛衣ちゃんの案内され少し、俺達に気付いた真衣さんが手招きして迎えてくる。

 あなたの娘さんのせいです。何て言えないのはお互い様らしく、何でもないよと矢野さんは返していた。


「そう? ならいいけど。じゃあ慶君、一応選んでみたのだけどどうかしら?」


 試着室に前で真衣さんが言う。

 2つ部屋が閉じられているってことはルフも分も選んでくれたのだろうか。ありがたい。

 逸る気持ちを抑えながら、紳士を装いながら先ずは一つ部屋を開けた。


「お兄ちゃんどう? 似合ってる?」


 開けた先にルフがいた。いつも着せているようなTシャツとズボンではなく、ひまわりがプリントされた黄色のワンピースを着て満面の笑みのルフがそこにいた。


 あまりの可愛さに意識が飛びかけた。

 戻った意識で再確認する。可愛い、抱きしめたい、肩車してルフの可愛さを道行く人に知らしめてやりたい。

 我が妹の前に平伏せ――はっ!? 俺は何を……

 意識が飛びかけた後遺症なのかすんごい煩悩が溢れ出た。

 いかんいかん、今の俺は紳士。


「ルフちゃん普段はすごい元気な子って聞いたから明るい色が似合うかなって」

「めっちゃくちゃ可愛いっす。良かったなールフ」


 成程、今度服を選ぶ時の参考にしよう。

 そう思っていると、ふと矢野さんと目が合った。

 何か言いたげにしている。もしかしてもっと褒めろと言いたいのだろうか。

 いやーでも可愛い以外に言葉が出ないっす……

 そんな俺に見かねてか矢野さんがルフにかがみ言ったのだった。


「ルフちゃん知ってる? 明るくて元気な人をひまわりっぽいって言ったりするんだよ。お兄ちゃん想いのあったかい笑顔の似合うルフちゃんにぴったりだね」


 それを聞いてルフがお日様のような笑顔を浮かべる。

 勝ち誇った顔で俺を見る矢野さん。


 ぐぬぬ……。しかし一瞬ときめいてしまった俺がいる。敵ながらあっぱれ――違う矢野さんは敵じゃない。

 しかしそうか、あんな風に褒めればいいのか。

 コツを掴んだ俺は隣の部屋を開けた。


「どうかしら……?」


 水色のワンピースを試着した竜華が後ろに手を組みながら恥ずかしそうに俺を見上げる。

 これは、ヤバい――


 あまりの美しさに言葉を失っていると竜華が催促してくる。

 柄とか何もない水色のワンピース。

 そこに竜華の可愛さと美しさが彩られている。

 竜華という女の子のありのままを、心を引き立たせるかのように着こなしている。

 服自体も可愛いが、竜華が着ることによってお互いの良さが最大限まで際立っている。

 すごい……こんなの初めて……。


「……何よ? 何か言ってよ……」

「ああ、まるで絵本の中から飛び出してきたみたいだ」

「なっ!? 何よそれ!!」


 ふと呟いた言葉に竜華が声を荒げる。

 顔を赤くしてる竜華にこれ以上嫌われまいと何とか言葉を紡ぐ。


「あ、いや、それだけ可愛いってことだ」

「ルフの時はすぐ可愛いって言ったじゃない!」

「違う違う、いや合ってるんだけど、それだけ見惚れてたっていうか……」


 まるで彼女との痴話喧嘩のようだ。俺彼女いた事ないけど。

 そんな俺達の様子を見て、矢野さんが肩を震わせながら笑いを耐えていた。

 真衣さんは何か可哀想な物を見るような目で見ている気がする。

 愛衣ちゃんに「うん、うん、これが慶志郎だな」と勝手なイメージを確立されていた。


「そ、そうだ慶君。竜華ちゃんとルフちゃん、お揃いのワンピースなんだよ。姉妹のイメージで選んでみたの」


 そんな俺に見かねて真衣さんが助け舟を出してくれた。

 さらにもう一隻。


「シンプルだからこそ落ち着きがあって面倒見の良い竜華ちゃんをお姉ちゃんとして仕立てあげてくれてる。だけどそれだけじゃなくてちゃんと竜華ちゃん自身の可愛さを存分に際立たたせていて、まるで絵本とかにおとぎ話のお姫様みたいに美しい。天真爛漫な妹としっかりものの姉、それをまさに表現していて本当に素敵だよ」


 そう言いたかったんだよな、と矢野さんが問いかけてきた。

 くっ、そ、その通りです……。

 ここまで完璧に褒められたら、俺如きでは対抗することもままならない。


 竜華は何か言いたげだったが、渋々といった様子で納得していた。


「それでどうかしら慶君」


 真衣さんが訊ねてくる。

 言うまでもない。即決だ。それと――


「愛衣ちゃんは白が似合いそう何ですが、どうですか?」


 真衣さんにそう聞くと、一瞬戸惑っていたが真衣さんは愛衣ちゃんを見ながら返答を返す。


「そうね、愛衣に似合うと思うわ。でもどうして?」

「良かったら愛衣ちゃんにも買ってあげたいなって」


 そう言って俺は愛ちゃんに膝を折る。


「今日付き合ってくれたお礼とこれからルフと竜華といっぱい仲良くしてくれるようにって。どうかな?」


 多分これから三人で遊ぶ機会がいっぱいあると思う。

 だからお揃いの服ってのはベタだけど、その光景を見たいって思う俺がいる。


「母、父、聞いたか? 慶志郎が私に贈り物だって。慶志郎、その程度で浮かれる程、私は尻の軽い女ではないぞ」


 言葉とは裏腹に顔を綻ばせてるのは敢えて指摘しない。

 それだけ嬉しそうにされたらそれ以上は何も言えないさ。


「良かったな愛衣。プレゼントだなんて」

「もう愛衣ったら、ちゃんとお礼言いなさい」


 意外にも矢野さんから殺気をぶつけられることが無くて安心した。


「ありがとな慶志郎」


 天使が微笑むかのように愛衣ちゃんが笑顔でお礼を言う。

 そしてまとめて会計をして、店を後にした。





 それから矢野さん達と少しぶらぶらして別れた。

 別れ際、愛衣ちゃんが服の入った紙袋を大事そうに抱えてるのを見てほっこりした。

 そう言えば、真衣さんにいつの間にルフと仲良くなったかを訊ねてみると「ふふっ、内緒」と言われてしまった。

 ま、まあ、これから長く付き合うことになっていくだろうし、仲良くなってくれるのはありがたい。


 さて、そんなルフを俺は今抱きかかえている。

 矢野さん達と別れてすぐ、ルフが電池切れを起こしたおもちゃのように眠ってしまったからだ。

 幸いにも竜華が荷物の一部を持ってくれたから助かった。流石お姉ちゃん。

 車に付いてルフを寝かせる。

 竜華はその隣に座るのかと思いきや助手席に座ってきた。


「竜華も眠たかったら寝ていいからな」


 車を走らせ数十分、竜華が舟を漕いでいたのでそう告げる。

 けれどお姉ちゃんの意地なのか、竜華は「寝ないもん」と言って目を擦る。

 そんな問答を何回か繰り返していると竜華が意を決したように口を開く。


「ねえケイジイ、お洋服私に似合ってた?」

「うん、めちゃくちゃ可愛かったよ」

「私ちゃんとお姉ちゃん出来てた?」

「うん、ルフの面倒ちゃんと見ててくれてた。それにルフが真衣さんや愛衣ちゃんと楽しく出来てたのって竜華のおかげだろ」

「な、なんでよ……?」


 ちらりと見たその目はどうして知ってるの? って問われてる気がした。


「一応こんなんでも二人のお兄ちゃんだからな。竜華がルフのことを気にかけていたのなんて見てればすぐ気付くよ」

「……でもさっきすぐ可愛いって言ってくれなかった」


 それはごめんて……。


「あ、あのね! 私……私ね、ケイジイにすごい感謝してる。誰かにこんなに良くしてもらったことないから。だからね、ありがとうお、お兄ちゃん!」


 竜華が言ったその言葉を聞き漏らすことはなかった。

 それはずっと欲しい言葉だった。

 今朝も――いや竜華が家に来たからずっとずっと待ち望んでいた言葉だった。


 正直竜華にまだまだ信用されていないと思っていた。

 俺は頼りないし、子供には甘々だし、服の褒め方を下手だし。

 けど竜華にとって此処が――この居場所が無くなる訳にはいかない。

 だからこそ我慢しているもんだと思っていた。


 俺はそれでもいいと思っていた。竜華にとって右も左もわからない場所に――住む世界そのものが違う場所に放り出して一人ぼっちにするなんて絶対にしたくないから。

 だから自分の世界に帰れるまでは例えお節介だろうと嫌われようと良い。

 二人を守れるならそれでいいと。


「あ……お、お兄ちゃんって呼ぶのはダメだよね……私は妹じゃないから――」

「何言ってんだ。良いに決まってるよ」


 けれど、今はその溢れ出そうな自己満足の感情は喉の奥へと押しやる。

 一度決壊して溢れ出したものは止まらないから。

 それでもどうしても零れ出るものはある。


「竜華、ありがとう。めちゃくちゃ嬉しい」

「ふえっ!?」


 竜華の問いかけに肯定を返しただけなのに顔がにやける。

 奥底に押しやった感情が嬉しさを引き連れて込み上げてくる。

 油断すれば一気に爆発しそうになるテンションを制御しながら運転している俺を誰か褒めてくれ。


「竜華、服めっちゃ似合ってた」

「うん」

「矢野さんみたいに格好いい事言えないけど、それでもちゃんと想いは伝えるから」

「――うん!」


 弾んだ声で竜華が頷く。

 姉という着ぐるみを脱いだ年相応の明るい声。

 今この瞬間、竜華という一人の女の子の尊さを初めて感じ取れた気がした。


「竜華、もっかいお兄ちゃんって言ってみて。ほら、慶お兄ちゃんって」

「強要するのは流石にキモい。いやきしょい……お兄ちゃん!」

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