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人見知り

 矢野さん達一家に誘われ、ショッピングセンターの中にあるファミレスへと足を運んだ。

 お昼時より少し前ということもあり、すんなりとテーブルへと通される。

 偶然出会ってしまったとはいえお世話になってる先輩、何なら奥さんや娘の愛衣ちゃんとも仲が良い間柄だ。断るのは気が引ける。

 いや多分、そもそもあそこで帰してくれる気など到底無かったと思われる。

 出会った瞬間は何が何だか分かっていなかった矢野さんだったが、瞬時に物事を把握したのだろう、その表情が変わっていった。例えるなら、まあ、普段俺や課長をいじるかのように面白がる表情へと。


「さてさて慶志郎、これはどういうことだ? んー? ほらお兄さんに言ってみ?」


 そしてそのままドリンクバーをとりあえず頼み、ルフ達と愛衣ちゃん達がジュースを取りに行く。

 その後ろ姿を見送るくるやいなや矢野さんがすぐに問い質してきた。


「いやいや、別に何でもないですよ。ただ親父が連れてきて今は一緒に暮らしてるだけですって」

「親父さんが?」

「はい。ほらあの子、ルフっていうんですけど、どうやら俺の妹らしいです」

「……は?」

「そしてもう一人の方が竜華って言います。ルフのお友達です」

「ちょ、え?」

「そして親父がまた行方不明です。まあ、これはいつものことなので気にしてないですが――」

「待て待て待て。は? え?」



 確定している()()だけを伝える。

 矢野さんの頭の上には?の文字が浮かんでいるように見える。それは俺が情報を追加する度に一つ、もう一つと増えていってるような気がした。


「なるほどなるほど……つまりあれがああなって――」


 パンク寸前なのだろうか? 矢野さんが頭の中を整理するかのようにぶつぶつと呟いていた。

 まあ無理もない。俺もそうだったし、何ならそれが狙いだ。

 グッと押しつぶすかのように情報()を与えれば、これ以上は欲しないだろう、多分。


「――大体は事は分かった。その何だ、お前も苦労してんだな」

「まあ大変ですけど、それ以上に満たされるんでこれもありかなと」


 ふう、と息をつくと矢野さんは同情というか何というか、苦労を分かち合うようなしみじみとした目を向けてくる。


「ん、待てよ。そうなると花ちゃんが大変だな」

「いや何でそこで課長が出てくるんですか?」

「……それ本気で言ってる?」

「え?」

「いやでもこれはこれでありか。花ちゃん意外と子供好きだしな。まあ、子供からはあまり好かれないようだけど」

「はあ……」

「それにスタイルも良いし、ああ見えて料理も出来る。あんなに完璧な子、お前にはもったいない程だ」


 まあ、俺は奥さん一筋だけどな。とか言って笑っていたが、何を言ってるいるのか分からない。っていうか矢野さんは課長のことがどんな風に見えているのだろう。

 矢野さんが追加してくる言葉に?を浮かべているとルフがとてとて走りながら戻ってきた。

 そして俺の膝の上に無理やり座り込むと、持ってきたオレンジジュースをちゅーちゅーと飲み始める。


「ちょっと! 走ったら危ないじゃない! ああ、もう、ほら、手!」


 そんなルフの後を慌てて追ってきた竜華。

 竜華の強めの口調に耳にルフの手を見ると――うわ、ベタベタじゃん。

 多分溢しながら戻ってきたのだろう。俺はグラスを包み込んでいるルフの両手を紙ナプキンで拭いてやる。

 拭きながら、あれ、そういや竜華も走ってきたよな? そう思い、ちらりと竜華の手を見てみると……ああ、やっぱり。


「ほら、竜華も手出して」


 俺に言われて竜華はあっ、と小さく声を漏らす。

 余程ルフのことが心配だったのだろうか。

 とりあえず竜華もメロンソーダを飲む前にルフ同様、手を拭いてあげる。


「あらあら慶君ってばすっかりお兄ちゃんね」


 竜華の手を拭いているとそんな声をかけられた。

 矢野さんの奥さん、真衣さんだ。

 俺達のやり取りを微笑ましく思っているのか、真衣さんは柔らかい笑顔を浮かべていた。


「母よ、私と何度も遊んでいる慶志郎だ。当然であろう」


 その後ろをするりと抜け、矢野さんの隣に座ると愛衣ちゃんがドヤ顔でそう言う。

 何故愛衣ちゃんがそんなにも誇らしげなのか……。

 後、事実だけど何度も遊んでいるという言い方は辞めて。なんか俺が幼女と一緒に遊びたい危ない人間みたいになるじゃん。


「お父さん何飲む?」

「ウーロン茶で。慶は?」


 矢野さんが聞いてくる。

 俺もウーロン茶でいいが、そう言ったら真衣さんが取りにいく流れになるだろう。それは流石に失礼過ぎる。


「ウーロン茶すね。俺取ってきますよ」


 ルフを退かして立ち上がろうとするが、ルフがギュッと抱きつき離れようとしない。

 困りながらも一緒に連れて行くかと抱きかかえる。

 ついでにルフのおかわりも取ってこようと思い、飲みかけのグラスを空にした。

 ルフは私の! とでも言いたげにジュースを飲み干した俺を見ながら今にもグズりそうだったので頭を撫でながら一緒に取りに行こうな、とあやす。

 そのやり取りすらも真衣さんはニコニコと見ていた。


「慶君ったら遠慮しなくていいのよ。それにルフちゃんお兄ちゃんから離れたくないみたいだし」


 そう言うと真衣さんはルフと同じ目線に顔を近づけ声をかける。


「ルフちゃんはオレンジジュースでいい?」

「いやっ‼」


 真衣さんの問いかけにルフは大きな声で拒否すると俺の体にもぞもぞと顔を埋めてしまった。

 しん、と沈黙が流れる。

 俺は何とかこの気まずい空気を変えるためにあれこれ考えてみたが……


「す、すいません。この子人見知りで……」

「ううん、大丈夫よ。じゃあ私取りにいってくるから」


 真衣さんはそんな俺達に嫌な顔せず、飲み物を取りに行った。

 その後ろ姿を見送りながらもルフの機嫌を宥めるように背中をとんとん叩いてあやし直す。

 ルフの人見知りはこの前一緒に買い物に行ったから分かってはいたが、まさか真衣さんにまでするとは……。

 真衣さんは俺でさえ初めて会った時、この人優しそうというか、柔らかい雰囲気というか、矢野さんの言葉を借りるのならまるで天使のような人だと思ったくらいだ。ルフのように人見知りは発動しなかったが、すごいどきまぎしてた。だってすごくスタイル良くて美人なんだもん。

 そんな真衣さんでこれなら、もう会う人全てに人見知りするんじゃないか? そう思ったけど、そういや竜華にはしてなかったな。

 何か共通点があるのか……例えば子供同士なら大丈夫とか?


 そんなことを考えていると竜華が呆れながらため息混じりで声をかけてきた。


「もうルフったら……さっきと同じでいいのよね? 取ってきて上げるから」


 ルフが頷くとやれやれという感じで竜華は真衣さんの後を追っていった。ありがとう竜華おねえちゃん、後でいっぱい甘やかしてやるからな。

 竜華の言動に感謝しつつ、俺はルフに声をかける。


「良かったなルフ。竜華お姉ちゃんが取りに行ってくれて」

「うん」

「ちゃんとありがとうって言うんだぞ」

「うん」

「なんというか慶、お前ほんとに面倒みているんだな」


 俺達のやり取りを見ていた矢野さんが感心したように言った。

 いやまあ、俺より竜華の方がルフの面倒見が良い気がするが……。


「俺も慶に甘えようかなー。けいおにいちゃん」

「父、普通にキモい。いやきしょい」


 俺が言う前に先に愛衣ちゃんがにやにやしながら気分が悪くなる程の甘ったるい声を出した矢野さんを斬り伏せていた。

 愛娘の容赦ない太刀筋が矢野さんを動かざる者へと変える。


 キモいからのきしょいは……愛衣ちゃん流石に言葉を選ぼうよ……。

 そう思いながらズーンと沈んだ矢野さんを見やる。

 多分今の俺、すごい可哀想な者を見る目になっていると思いつつも、少しばかり同情した。

 もし俺が竜華に同じことしてたらああなっていたかもしれない。そしたら俺もう生きていけないかも……。

 竜華には普通にありがとうと伝えよう、そう思わせてくれた先人に感謝の合掌。


「それにしても慶志郎に妹がいたとは……いやだからなのか。私を追い回していた時の慶志郎の姿に納得がいく」


 チューっと吸ったストローからプハッと口を離す愛衣ちゃんの姿は一仕事終えたような謎の貫禄を醸し出していた。

 うんうん、と腕を組みながら頷いている様子を見るに、俺と遊んでいる時を思い出しているのだろう。けど言い方! 何度も言うがそれだと俺がどうしようもないロリコン変質者だと思われるからやめて! 鬼ごっこだから。普通の鬼ごっこだからッ‼


「愛衣ちゃんが小学生になってからは中々遊ぶ機会も少なくなったね。ルフ知ってるか? 愛衣ちゃんは今でこそこうやって俺とお喋りしてるけど最初はかなり恥ずかしがりやさんだったんだぞ」

「なっ⁉」


 少しいぢわるめに愛衣ちゃんのことをルフに話す。

 すると愛衣ちゃんは今までしていた涼しい顔を崩し顔を赤らめた。ふふっ、お返しだ。

 我ながら子供相手に大人気ないと思いつつも、更に恥ずかしめを受けさせてやろう。ふはははっ!


「それにかくれんぼしていた時もいつまでも俺を見つけられなくて途中で泣いちゃって――」

「そんな私を体を思い切り弄って泣き止ませたのは誰だっけか」


 だから言い方ッ‼ こちょこちょしただけじゃん! 一向に泣き止まないから!

 思わぬ反撃をくらってしまった。が、俺と愛衣ちゃんのやり取りを聞いてたルフが興味を示したのか、愛衣ちゃんに顔を向けてじっと見つめている。


「どうした? 私の顔に何かついてるか」


 そんなルフの視線を感じ取ったのか愛衣ちゃんは赤らめた顔を戻し、涼しい顔でルフを見つめる。

 少し間、お互いが無言で見つめていたが、ルフが口を開く。


「あなたは敵じゃないの?」

「て、敵?」


 おっかなびっくりというような口調のルフが問いかける。

 その口調から放たれた言葉に俺は勿論、愛衣ちゃんでさえ戸惑いを隠せない。

 愛衣ちゃんの動揺ともとれるような声色に被せて俺はフォローを入れた。


「どうしたルフ? 愛衣ちゃんは敵じゃないよ。寧ろお友達になろうとしてくれてるんだよ。ね、愛衣ちゃん」

「ん、そうだな。ほら、おいで」


 俺に促され、愛衣ちゃんは自分の横の席をポンポンと叩いた。

 しかしながらルフにとってはまだそこまでの間柄ではないのだろう、抱きついている手の力が強くなる。

 ルフには愛衣ちゃんのことがどう見えてるのは分からない。

 けれども少なからず興味を抱いているのは明白だ。後は何とかして距離感を縮めれば――


「お待たせー、あら愛衣? ルフちゃんと仲良くなれたの? お母さんも竜華ちゃんと仲良くなれて――」

「はいルフの分、全くもう――」

「でもおかーちゃんが言ってたもん。おっぱいのおっきい女はみんな敵だって!」


 竜華と真衣さんが戻ってきた矢先、とんでもない爆弾がルフの口から放り込まれた。

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