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鍛錬

お久しぶりです

「ルフー、竜華ー、準備出来たかー? そろそろ出掛けるぞ」


 竜華が家に来て数日、仕事が休みの今日は三人で買い物に行く予定を立てていた。まあ、大体は竜華の洋服だったり日用品だったりするのだが。

 後は二人の気分転換というか、リフレッシュというか。毎日同じような景色じゃ退屈するだろうし、窮屈にも感じるだろう。少なくとも俺はそうだった。

 そういえば、親父に何処か連れて行って貰ったことってあったっけ?

 ふと、そんなことを思った。

 いや無いわけではない。それこそ今から行くショッピングセンターも連れて行って貰った記憶はある。数える程でしかないが……

 それよりももっとこう、遠い場所だっり大きい場所、例えるなら旅行や遊園地とか――うん、無いな。まるで無い。

 子供の頃の話だから忘れてるだけかもしれないが、俺の記憶に残ってるものは何もない。こういうのって時が経っても記憶の片隅に残ってるもんじゃないか、多分。


 だからと言ってそれが不満だったかと言われるとそんなことはなない。

 よく夏休みとか大型連休とかが終わった後、学校でクラスの子たちがどこどこに行ってきたとか連れて行って貰ったとか耳にしたが、羨ましいとは思ったことがあまりない。今だってそうだ。

 会社の同僚、先輩の土産話とか聞いてもいいなぁとか行ってみたいとか思わない。ただ、それが惚気話だった場合は話が別だ。羨ましいと同時に殺意が沸く。

 恋人との遠出、いつもと違う場所、いつもと違う雰囲気、そして縮まる距離。

 四六時中のドキドキがピークに達する夜。大好きな恋人との密着。このうるさいくらいのバクバクは僕かはたまた君か――

 触れ合う度に跳ねるは心か身体か。旅行中の感度は良好。昨夜はお楽しみでしたね。ってやかましいわっ! クソッ! クソッ……


 って違う違う、話が逸れた。

 俺があまりそう思わないのは多分寂しさを感じなかったからだと思う。

 たしかに平日は親父が帰ってくるまで留守番をして、休みの日は二人で時間なんて気にせずごろごろして、そんな毎日を退屈に感じることもあったし、窮屈に思うこともあった。けれども寂しさを感じることはなかった。

 ごろごろしてテレビに映った遠い何処かの観光地の特集でも見ながら「今度ここ行ってみるか」とか「行ってみたい」とか言って笑いあって。まあ、結局一度も連れて行って貰ったこと無いんだけど。

 けど、そんな何気ない日常が好きだったんだと思う。


 しかしこれはあくまで俺の話だ。ルフと竜華はまた別の話。

 それに二人は普通の子供と事情が違う。これから見るもの触れるもの全てが新鮮で良い刺激になってくれるんじゃないかと思ってる。

 だからこそ俺は二人を飽きさせないように、寂しい思いをさせないように、二人が行きたい場所には出来る限り連れて行ってあげて、一緒にいる時間をいっぱい作ってあげたい。なんたって俺はお兄ちゃんだから。


「ルフ! お出掛けするって! いつまで見てるの!」

「リュウさん、しーっ」

「しーっ、じゃない! もう、おに……ケイジイからからも言ってちょうだい! ちょっと聞いてるの?」


 っと何か色々と考え過ぎてた。

 俺は目の前の光景に意識を戻す。ソファーの上でテレビにかじりつくように見るルフを竜華が腕を引っ張って立たせようとしていた。


「ん、ああ、悪い悪い。ルフー? 言う事聞かないと竜華お姉ちゃんが困っちゃうぞ、お姉ちゃん怒っちゃうぞ」

「んみゅ? リュウお姉ちゃんは怒らないよ? とっても優しいよ?」

「なっ⁉」


 コテンと首を傾げながらそう言ったルフが再度テレビへと意識を戻す。一方で竜華は驚いた表情をして固まっていたが、その顔をみるみるうちに赤く染め上げていった。何というか、秘密にしていたことをばらされてしまった、とか言いたげな表情だ。

 二人の仲が良いことはとても嬉しいことなのだが、俺には知られたくなかったのだろうか……それはちょっと、いやめちゃくちゃショック……。ま、まあ、この年頃の女の子だもんな、秘密にしたいことの一つや二つ……ハァ……。


 自分に言い訳を聞かせ、俺は竜華へと歩み寄る。

 知られたく無かったとはいえ、ルフと仲良くしてくれてるのは事実だからな。


「竜華ありがとな。いつもルフの面倒みてくれて。これからもルフと仲良くしてくれ」

「べ、別に! 優しくないし! お、お姉ちゃんとして当然のことしてるだけだし!」

「お、おう……」


 竜華の頭をぽんぽんぽんと撫でて笑いかけると、プイッと視線を逸らしながらも竜華は威勢良くそう言う。

 照れ隠しなのか恥じらいをごまかすためなのかは分からないがその捲し立てるような口調に少し気圧されたが、笑いかけ続ける。なんたってお兄ちゃんだからな、いくら相手が竜華でも俺がお兄ちゃんだもん!


「そ、そういえば竜華は見なくていいのか? テレビ」

「見る訳ないじゃない。何が面白いのあれ」


 不意に投げかけた質問をバッサリと両断される。

 いやまあ、ルフが見てるのはいつものように教育番組だし、竜華くらいの歳ではつまらないのも無理はない。


「じゃあ、アニメとか?」

「アニ、メ……?」

「うん、絵が動くんだ。最近のは何やってるのか知らないけど、バトルものなんか面白いぞ。魔法を唱えて火の球を出したり、雷を降らせたり――子供の頃はよく真似っ子して遊んだもんだ」

「? 雷ならあの子が出せるじゃない。私は火や光線を吐くのはあまり得意じゃないけど、風の操作なら任せて!」


 あ、そうだった。この子達、鬼と竜だった。なんか少年の頃夢見た光景をこうも当たり前のように淡々と言われると少し悲しい……

 っていうかこの子、胸を張りながら恐ろしいこと口走った気がするんだが……


「そ、そうだったな。じゃあ普段竜華は何しているんだ?」

「私? うーん……別に普通よ普通。少しでも強くなるために鍛錬よ」


 鍛錬なんて言葉を子供の口から聞かされるなんて思ってもみなかった。

 竜華の口ぶりからするにそれはずっと前から――それこそ俺と出会うよりも前、もしかしたらルフの歳くらいにはもう習慣化されていたのかもしれない。

 それにしても鍛錬か、一体どういうことしてるんだろう?

 ぱっと思いつくのは中国拳法とかにあるような正拳突きだったり、お坊さんとかがやる瞑想やら座禅しか思い付かない。寧ろそれ以外って何があるんだろうか。

 ふとテレビの方に目をやると、番組も終盤だった。あの何とも言えない奇妙な体操を踊っている。可愛いかどうかさておき、このくらいの体操とかを案外鍛錬とか言ってたりして。そうだとしたら、ふふっ、可愛い奴め。


 いや待て、じゃあ風を操るとかはどうしてる? 火は? 光線は……?

 まさか竜の姿に変身してやってるんじゃないだろうな⁉

 さ、流石にそれはまずい! いやこの部屋で済む範囲なら許容してやりたいがあの威力だぞ⁉ 済む訳がないッ!

 それにもし竜の姿を見られでもしたら――力の操作を誤ったたりでもしたら――


「な、なあ、竜華。その、なんだ……あまり無理はするなよ。怪我でもしたら俺は勿論、竜華の親御さんにだって心配を――」

「あんな奴の話なんかしないでっ‼」


 やんわりと止めようとしたらいきなりキレられてしまった。

 テレビの音がどうでもいいくらいシーンと静まり返る。テレビにかじりつきだったルフも今は竜華のことを覗っていた。

 よく見ると、いやよく見なくとも竜華の身体が青白く光っている。以前、ルフが見せた光よりも強く、どこか荒々しく。


 ヤバい……これはやっちまった……。

 何をやらかしたかなんてすぐ思いつく。竜華が怒りを剥き出しにしたことなんて初めてだったから。

 けれどどう声を掛けていいかわからなかった。


「あっ……ごめん……」

「あ、いや、その、こっちも、ごめん」


 悩んでいると竜華はハッと我に返り、俺を見上げてはすぐ俯いてしまった。

 感情の制御が出来たのか纏っていた光も消えている。

 未だどう声を掛けていいか悩んでるいると、竜華はポツリと呟いた。


「……ケイジイは優しいね」

「優しい? 普通だよ。それに竜華だって優しいよ」


 俺がそう言うと竜華は俺の顔を見上げてきた。

 その目は私のどこが優しいの? と疑問を投げ掛けているように見えた。

 そんな竜華の頭を優しく撫でながら俺は言葉を続けた。


「さっきも言ったけど、ルフの面倒見てくれてるし、こうやってちゃんと謝れたりもする。こういうのってさやっぱ心が優しくないと出来ないことだと思うんだ。」


 他人を労り、自分に非がある場合は認め、謝罪する。心が優しく、そして強くないと出来るもんじゃない。俺だって出来ているか怪しいもんだ。

 しかし竜華はそれが出来ている。意識して、行動している。多分日頃の鍛錬の賜物だろう。

 鍛錬……もしかしたら竜華の言っているのは意識と所作なのかもしれない。子供にこんなこと気付かされるとは……こんなへっぽこお兄ちゃんでごめんな……


「だからありがとう。そしてこれからもよろしくな」


 俺がそう言った途端、竜華の顔がまたしても赤く染まる。

 いやそれどころか小さく震え出して目をうるうるとさせて――ちょ、竜華⁉ 俺また何か余計なこと言っちゃったッ⁉


「あ、あのね……わ、私もお、おに――」

「お兄ちゃーんッ‼」


 ゔぐっ⁉

 俺がおろおろとしているとルフがソファーをトランポリンのように使い、俺目掛けて大の字で飛び跳ねてきた。

 よろめきながらも何とか両手で抱きかかえたが、こ、腰が……

 腰の痛みにたえていると胸の辺りでもぞもぞしているルフの顔が俺を見やり、キラキラとした目を向けてくる。


「テレビ見終わったよ! 早くお出掛けいこー! ね、リュウお姉ちゃんも!」

「わっ、ちょ、ちょっと! ケイジイ助けて!」


 登り棒を滑るかの如くするするーっと降りていったルフが半ば強引に竜華の手を引いて玄関の方へと駆けていく。

 竜華が助けを求めてきたがもう遅い。


 何というか我が妹ながら自由奔放だな。面倒を見てくれてる竜華には本当に頭が上がらない。

 ただ――あれくらい竜華も甘えてくれてもいいんだけどなあ……だって俺はお兄ちゃんなんだもん。


「お兄ちゃん! 早く早く!」


 静まり返った部屋に弾む声が届く。

 とりあえず、今日は二人を目一杯甘やかしてやるぞと心に決めて、俺はニュース番組へと移り変わったテレビを消し、照明を落とし、二人の元へと向かった。









 車で一時間、目的地のショッピングセンターへ到着。

 風が少しあるがこの時期にしてはとても暖かく、絶好なお出掛け日和だった。

 軽く伸びをしてから後ろの二人へと振り返り、声をかけた。


「ルフー、竜華、着いたぞ」

「わーい! リュウお姉ちゃん、お兄ちゃん、早く、早く!」

「ええ、そうね……」


 今にもシートベルトを引き千切って駆け出しそうなルフと、対照的にぐったりしている竜華。

 ま、まあ、無理もない。この一時間、竜華はルフの相手に振り回されっぱなしだったし。

 最初は竜華もその移り変わる景色に初めて見るであろう風景に見惚れていた。

 そこへルフが「あのね、あのね、」と言いながら、おぼつかないながらもこれはこうでとか、あれはあれでとか解説も入れていた。

 ルフとは先週一緒に買い物に来ているから何となくはここまでの風景を覚えていたのだろう。

 バックミラー越しに見ている雰囲気はまるで本当の姉妹かのように思えるくらい仲が良く、和気藹々としていた。

 しかし事態は一変、素直に関心して聞いてくれる竜華の姿に嬉しくなってしまったのであろうルフは竜華に「あのね、あのね、」攻撃――いや口撃を連発していた。

 竜華もその混じりっけの無いルフの純粋な感情を汲んでくれたんだと思う。真摯に対応し、反応していた。ルフが懐く理由が分かる光景だった。


「ルフ落ち着け、駆け出さない。ほら帽子」


 後部座席のドアを開け、帽子を被せてルフを降ろす。

 放っておいたらいつの間にか居なくなりそうな勢いのルフとは手を繋いでおく。


「んー、気持ちいい」

「竜華、お疲れ様。疲れただろ?」


 俺がルフを降ろしている間に、竜華は外へと出ていた。

 車からの開放感かそれともルフからの開放感かは分からないが、グーッと伸びをしている。

 陽の日差しを反射する銀色の髪が風に揺らさせる光景はとても神秘的でこの世のものとは思えないくらい綺麗で――まあ、ほんとにこの世のものでは無いんだけど……


「ええ、ほんと。でもいつものことよ」

「ほんとありがとうございます。助かってます」


 竜華がルフを見ながら、呆れながらそう言う。

 ルフもそんな竜華のことを、それもいつものことと言わんばかりに気にしていない。

 っていうか、いつものことなんだ……俺全く知らない……。

 いやいや、こんなことでは駄目だ。今日は二人を甘やかしてやるって決めたんだ。

 そう思い、俺は竜華に手を差し出した。


「竜華、ほら、手」

「え? ……うん」

「お兄ちゃんダメーッ! リュウお姉ちゃんはルフと繋ぐの!」


 差し出した手を竜華は少し戸惑いながら眺め、何だか照れた様子で握ろうとしたが、ルフにそれを止められる。

 ルフを見ながらどこか迷った様子の竜華だったが、最終的には諦めたようにルフの言葉を受け入れた。


「……しょうがないわね。ほら」

「すまん……」


 肩をすくめて竜華はルフの手を握る。

 さっきよりも更にご満悦になったルフの手綱は二人で引いておくことにした。


 それにしてもルフの奴、竜華のこと振り回し過ぎじゃないか。

 いや、まあ、それだけ頼りになるってことなんだろうけども、これじゃあ竜華が少し可愛そうというか、大変というか……。

 竜華はいつものことって言ってたけど、いつものことなら尚更苦労かけさせている。ほんとこんなだめだめお兄ちゃんでごめん……

 ここは俺がビシッと言った方が――言えないんだよなぁ、ルフも悪気がある訳じゃないし。

 我ながら甘々だとは思う。

 ひょっとして竜華はそれ見透かして俺に甘えてこないのでは……?

 こんな甘っちょろくて、子供相手にも「あ、あの、その、」と吃るクソ童貞に甘えるとかちゃんちゃらおかしいわ! とか思われてるんじゃ……?

 もし、そうだとしたら――よしっ、やっぱり言おう。

 これも鍛錬の一環、ここは心を鬼にしてお兄ちゃん――いえ、鬼いちゃん頑張ります!


「あ、あの……ルフ――」

「ねぇお兄ちゃん、リュウお姉ちゃんはこれ被らなくていいの?」


 意を決した俺の言葉を遮り、ルフが見上げてきて訊ねてきた。

 ルフの帽子は角とこの辺では目立つ髪色を隠すために被らせているから、竜華にはあまり必要ないと思うが……そもそもルフ用の一つしか用意していないし。

 そこまで思い、ハッとして竜華の方を見る。


「な、何よ」


 怪訝な表情の竜華と目が合った。

 俺に気付けと言わんばかりに竜華の髪を風が強く揺らす。


 やっちまった。そういや竜華の髪色もこの辺では全く見ない。

 いやそもそも――


「竜華、大丈夫か⁉」

「きゃあぁぁ⁉」


 俺は慌てて竜華の顔に手を当てて肌を確認した。

 竜華の肌や髪、目の色、そのどれもがアルビノに似ているためだ。

 あまり知らないが、確かアルビノの方って太陽の日差しは避けてるイメージがある。

 もし竜華も同じであるのなら俺は何てことを……


「大丈夫か⁉ 痛くないか⁉」


 竜華は悲鳴を上げていたが、ちょっと我慢してくれ。

 触れた手から熱を感じる。

 よく見ると顔も真っ赤じゃないか。


「とととにかく一旦車の中に」

「落ち着いて! 急に何ッ⁉」


 あたふたしている俺に竜華は強く静止をかける。

 事情を説明すると呆気にとられたように固まっていたが、やがてその目はジト目に変わっていった。


「何、私が日差しに負けるですって? ふーん、ケイジイはリュウである私がそんな貧相に見えてるんだ」

「あ、いや、その」

「ふん、いいよーだ。どうせ私なんて年下に負けるような弱々なリュウですよーだ」


 いじけたように竜華はそう言って、そっぽを向く。

 い、いかん。いっぱい甘やかしたいのにこれでは意味が無い。

 何とか竜華のご機嫌を取り戻さなければ。


「いや、違くってな。竜華が心配なんだよ、お兄ちゃんとして」

「ふえっ⁉」

「竜華はさ、たしかに竜でかっこよくて綺麗で強いかもしれない。それでも俺にとっては一人の少女であることは変わらないんだ。ルフもそう。たまたま俺の所に来ただけかもしれないけど、俺がルフの、竜華のお兄ちゃんしてる間はいっぱい甘やかしてあげたいし、心配してあげたいし、何よりいっぱい頼って欲しい」


 方便ではなく、これは俺の本心。

 そもそも竜華はしっかりし過ぎなんだよ。

 俺が竜華くらいの時なんかテレビの真似っ子したり、鼻水垂らして日が暮れるまで泥だらけになって遊んでたもんだ。

 綺麗にするのが大変というのはこないだ身を持って知ったから、泥んこになるまで遊ばせたくはないけど、そのくらいの意識で、自由に、わがままになって欲しい。

 そうすれば俺もお兄ちゃんらしく振る舞えるし。何だかすごい他人任せな気がする。しかしこれも鍛錬。心を鬼にすれば二人に言う事を聞かすことだって出来る。


「だからさ、こんな頼りないお兄ちゃんだけどさ、これからはいっぱい甘えてこい」

「……うん」


 そう言って竜華の頭を撫でて微笑みかけた。

 竜華は呆けていたが、俺の思いが届いてくれてると願う。


「さて、まずは竜華の帽子を買わないとな。ルフとお揃いにするか」

「リュウお姉ちゃんとおそろい! やったぁ~ッ!」


 目をキラキラさせてルフが笑う。

 そうそうこんな感じでいいのよ。

 何かをして、素直に感情を表現する。是非竜華にもやってもおう。これもまた鍛錬だ。


 そう思い、俺は足を進めようとした。

 しかし、何かが俺のズボンを引っ張っている。

 ルフは両手塞がってるし、竜華のもう片方の手では届かないだろう。

 じゃあ、一体誰が?

 俺はその正体を確認するために顔だけで後ろを振り向いた。


「よ、慶史郎」


 竜華くらいの身長の女の子が俺の名前を友達を呼ぶかのように手を上げている。

 見知った顔だ。この娘の親御さん――特に父親はことあるごとに娘はまるで天使のようだ、否、天使だ、と散々豪語しているからな。

 ま、まあ、俺もルフや竜華に出会うまではそう思っていたが。

 でも、ルフや竜華だって天使だもん! 鬼と竜だけど俺にとっては天使だもん!


「あ、愛衣ちゃん⁉」

「愛衣ー、そんな急いでも――お、慶! 奇遇――」

「慶君お久しぶりね、あら、まあまあまあっ!」


 驚いて全身で振り返えると、遅れてその両親が到着する。

 俺を見て……いや俺が連れている二人を見てそれぞれ違う反応示している。


「や、谷野さん。き、奇遇っすね……」


 とりあえず、俺はその中でも一番見知った顔である固まったままの上司に挨拶をした。


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