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にぎにぎもみもみ

「お兄ちゃんおはよーっ!」

「……」


 しばらくしてルフと竜華が起きてきた。

 ルフが竜華の手を引いて元気良く走ってくる。


「おはよ二人共、ルフは元気いっぱいだな。竜華は……だ、大丈夫か……?」


 パアッと花が咲いた笑顔を見せるルフとは対照的に、竜華はまだ眠そうにこっくりこっくりしている。どうやら竜華は朝が弱いようだ。


「竜華? 起きられるか? 眠い時はまだ寝ててもいいからな」

「んーんっ……」


 それでもうっつらうっつらしながらではあるが、こくりと頷き俺の問い掛けには答えてくれる。


「そ、そうか。じゃあ二人共、朝ご飯作ってるからお顔洗っておいで」

「はーいっ! いこっ、リュウさん!」

「……ん」


 竜華がルフに引っぱられながら連れられてゆく。ル、ルフ? もうちょっと優しくしてあげて……。

 そんな二人の後ろ姿を見送ってから、俺は朝ご飯の準備に取り掛かった。


「ふみゃっ⁉」


 洗面所の方からルフの叫び声がした。

 何事かと思い、俺は慌てて洗面所へ向かおうとしたが、ドタドタと突進してくるような足音が近付いてくる。

 直後、走る勢いのまま、ルフが俺の股間に直撃した。


「お兄ちゃん聞いて聞いてっ! ふみゅ、どうしたのお兄ちゃん。だいじょーぶ?」

「んぎ……な、な、何でもない。そ、それよりルフ? ど、ど、どうしたんだ……?」

「うん! あのね、お水冷たかったの! ほらっ」


 そう言ってルフが両手を勢いよく上げてくる。その手は見るからに濡れていた。

 いやそれ以上に顔もびしゃびしゃにしたままだったらしい。おかげで俺のスウェットの股座周りが水を吸ってしまっている。


「ル、ルフ? ちゃ、ちゃんお顔拭いてこような……」


 ルフが伸ばしてくる手を触ってあげたかったが、さっきの衝撃があまりにも尾を引いている。寧ろ、今がピークかもしれない。

 しかし、大丈夫と言った手前、何とかして握ってやらねば。

 そう思い、俺は今にも転げ回って泣き叫びたい気持ちを何とか噛み殺して、ルフと同じ目線になるように体を屈めた。

 その動作の中にさり気なく股間の安否の確認を紛れ込ませ――だ、大丈夫。まだ潰れていない。


「お兄ちゃん! ほらっ!」

「うおっ、冷たッ!?」


 股間の触診中、ルフの濡れた手に頬を挟まれた。

 その手は想像以上に冷たく、俺も思わず声を上げてしまった。あ、でもこれで冷やしてやれば痛みが和らぐかも――いや、待て、何を考えている。ルフのその汚れを知らないお手手にそんなことさせる訳にはいかんだろ。いい加減にしろっ!


「んっ」

「りゅ、竜華、わざわざ持ってきてくれたのか。ありがと。ほら、ルフ。お顔向けて」


 朝から元気な煩悩に喝を入れていると、遅れて竜華が戻ってくる。その手にはタオルを持ってきていた。

 俺はそれを受け取ると、ルフの顔をわしゃわしゃと拭いてやった。


「ふみゃ、ん、わぷぷ」


 ルフは嫌がりながら顔を背けて抵抗してくる。

 だが、構うことなく俺は無心で手を動かし続ける。こうでもしてないとどうして意識が股間の方に……うっ、くそ痛ぇ……。


「よ、よし、お顔は終わりっと……次はお手手を拭こうな」


 股間の痛みに何とか堪えながらもルフのお顔を拭き、今度はお手手へとタオルを持っていく。


「お手手冷たかっただろ? これであったかくなるからな」


 ルフのお手手をタオルで包み込みながら拭いてやり、最後に息をハアーっと吹きかけ、擦りながら手を揉んでいく。

 もっちもちのルフのお手手を揉んでいると、心なしか股間の痛みが無くなったような気がした。


「ふみゅぅ、お兄ちゃんのお手手あっかーい」

「ふふっ、そうだろう、あったかいだろう。何たって優しさがいっぱい詰まってるからな」


 もにゅもにゅにぎにぎして揉んでいる俺の手に優しさが詰まっているかはわからない。けれども目一杯の愛情はいつも込めているつもりだ。


「ふぅ。さて、お手手もあったかくなったし、もうちょっとで朝ご飯も出来るから待っててな」

「はーいっ!」


 少しもにゅもにゅし過ぎていたかもしれない。

 冷たかったルフのお手手が、逆に今は少し熱を持っている。

 いや本音を言ってしまえば、もにゅもにゅしている途中で気がついてはいたが、これまたどうして止めるに止められなかった。だって……めっちゃ触り心地いいんだもん! 最後にもうちょっとだけ……あぁ、癒やされるぅ〜。

 愛情を送った分だけ癒やしが送られてくる。これぞまさにWin-Winな関係なのではないか。そうである。


 俺の手から離れたルフはソファーへ座り、テレビを点けていた。

 テレビに映った映像はあのマスコットキャラでおなじみ、朝の教育番組。

 せっかく良い気持ちでいたのに、少しばかり不快指数が上がった気がした。しかしながら、ルフが食い入るように見ているのでチャンネルも変えづらい。

 まあ、楽しんで見ているのなら俺もどうこう言うつもりはない。そう思い、俺も途中だった朝ご飯の準備を再開しようとしたが――あれ? そういや竜華は?


 朝ご飯の準備をしようとしたが、目の前の竜華の姿に目が止まる。

 てっきりルフの後を追いかけて行ったもんだと思ってた。


「竜華も朝ご飯出来るまで待っててな」

「……んっ」


 こくりと頷いた竜華だったが、動く気配はない。それどころかその場に突っ立ては、何かを訴えるように俺のことを見上げている。

 何だろう……何か俺に言いたい事でもあるのだろうか。いやその前に、竜華のやつ、さっきから「ん」としか発言してねーけど、大丈夫なのだろうか……。


「りゅ、竜華、やっぱまだ眠たいか? 本当に大丈夫か?」

「んっ!」


 うおっ⁉ びっくりした……。

 痺れを切らしたかのように竜華が声を上げ、俺に向かってバッと両手を伸ばしてくる。

 依然として目での訴えは変わらない。寧ろ、さっきよりも一層強くなっている気がする。

 こ、これはもしや、竜華のお手手もルフみたいにもみもみしてもよろしいという事なのだろうか――そうに決まっている。


 股間のリュウさんが最終的判断を下した。

 この状況、龍虎ならぬ、竜股相見える。いざ参るっ!


 ――いやいや待て待て早まるな。煩悩に塗れるんじゃない俺ッ!

 もし仮に、万が一にもこれがOKサインだという判断でもだ。ルフみたいにもにゅもにゅにぎにぎはマズい。

 ルフと俺のは謂わばスキンシップ。兄妹だからこそ許される至福の時間。

 それに対して竜華は違う。人様の大事な大事なお子さんだ。俺のような煩悩塗れの手が包み込むのは非常によろしくない。

 下手をすればロリコンという汚名を被ってぶた箱行きだ。

 それだけはまじ勘弁……。


 あれ、でも待てよ。よくよく考えれば昨日一緒に寝てたし、それ以上にお風呂で体も洗ってやったし、今更な気が……。

 いやあれは違う。断じて違うッ!!

 あれはそうせざるを得なかった行為であり、互いに同意の上での行い。決して俺の煩悩が先走ったやましい愚行ではないッ!!


「史郎お兄ちゃん……んっ」


 ――にぎにぎ不可避。


 思考を張り巡らせ過ぎていたせいで竜華に不安を与えてしまったようだ。

 うるりとした目が差し出した訴えを、俺は目一杯の愛情で受け止める。

 白く、柔らかく、温かい想いがこの手を通じて全身へと駆け巡る。

 そこにやましさなんて一切ない。

 いや違う。これはおそらく、俺の中の煩悩が浄化されていってるのだ。

 その感じる位、この手から流れてくるものは神秘的で、愛らしく、神々しい。これが竜の力なのか……?

 さっきまでの欲に塗れた俺を蹴り飛ばしてやりたい。


「ケ、ケイジイ……流石にもう……大丈夫……じゃないと私、そろそろ……ヤバい」


 顔を赤くして恥じらったように竜華が言う。

 どうやらまたしても握り過ぎてしまっていたらしい。竜華の手がルフとは比べもんにならないくらい熱い。

 いやそれどころか、体からは白い光のように湯気を発していて――って、おいおい大丈夫かこれ⁉


「わ、悪い! 大丈夫か⁉ すぐ冷やすからな!」


 俺は急いで竜華の手を離し、冷凍庫を開け放つ。

 そしてそのまま氷を鷲掴みしたところで、竜華が慌てたような声色で言ったのだった。


「だ、大丈夫! 大丈夫だから! ちょっと竜化しそうになっただけ」


 いや、そっちの方が大丈夫じゃないから!

 竜になろうとしたことをだけとは言わないから!


 そう反射的に口が動きそうになったが、何とか紡ぐ。

 ま、まあ、本人に悪気があった訳でもないし、とやかく言われるのは竜華も嫌だろうし。何ならそれをちゃんと知っておかなかった俺の方に責任があるし……いや、それは流石に無理がある。


「そ、そうか……まあ、何事も無かったなら良かった。でも手冷やした方が良くないか。熱いだろ?」

「ううん、大丈夫。それに私、冷たいの苦手なの」


 初耳だった。竜についてまた一つ賢くなった。

 いや、本当のこと言えば、何となく分かっていたかもしれない。

 だってドラゴンタイプって氷に弱いし、俺のリュウさんだって冷水かけられると縮こまるし。


「そ、そうか、分かった。でも何かあったら言うんだぞ」

「うん」

「じゃあ、ご飯作るからルフと一緒に待っててな」


 そういや俺達のやり取りになんか興味が無いと言わんばかりにルフが大人しかった。

 それだけあのマスコットが気に入ってるのだろうか。気持ち的に複雑だ。


「今はあんな感じで大人しいけど、会社に行ってる間はどうしても寂しい思いをさせてしまっててな」


 お見送りしてくれた後、一人で泣いていないか。

 また強がって我慢してるんじゃないか。

 どうしても考えてしまう。

 だからこそ俺は竜華に改めてお願いをした。


「けれど、今日からは竜華がいる。ちょっと強引な所もあるけど、一緒に居てあげて欲しい」

「もうっ! 大丈夫だよケイジイ。竜はちゃんとお願いを守るの!」


 少し棘のある言い方だったが、任せてと言わんばかりに胸を張る竜華を見るとそんなことは些細な事だった。

 そんなお姉ちゃん的な態度に一安心した俺は、竜華の頭を撫でながらニッと微笑みかけた。


「頼もしいな。じゃ、よろしく頼んだよ竜華お姉ちゃん」

「っ!? なっ、何言って……」

「ん、どした?」

「〜〜ッ! 何でも無いっ!!」


 竜華にそう言って、俺は今度こそ朝ご飯の支度を始める。

 竜華が何か言いかけていたが、ふんっとそっぽを向いてリビングへと向ってしまった。


『さあ、テレビの前の皆ー、今日も元気に始めるよー』


 依然としてテレビからはあのお姉さんの声が聞こえてくる。

 ということはまだその隣にはあれとあれが居るのだろう。

 それに加えてルフと竜華の喋り声が聞こえてくるが、何を言ってるのかまでは聞き取れない。そういや今頃気付いたが、竜華普通に喋ってんじゃん。


 ま、まあ、いいか――にしても、あれが本当のリュウの力か。何というか……比べもんにならないくらい尊くて破壊力抜群だった。

少し?いや、大分時間空きましたが、ようやく変化した環境にも慣れてきましたのでぼちぼちひっそりと再開していきたいと思います。

なので、見つけたら読んでいただければありがたいです。

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