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起床

 ――夢を見ていた。

 何処だか知らない人の家、誰のだか分からないベッドの上。

 開かれた窓から広がる空は青く、白く。

 風が運んでくる香りはほんのりと甘く、心地よい。


 いや、それだけじゃない。柔らかくて、ぽかぽかしていて――何かこう、優しさに包まれている感じ。


 夢の中なのにこのまま眠ってしまいそうだ。


『慶』


 見上げれば綺麗な女性。

 幸か不幸か、控えめな胸のおかげでそのお顔がはっきりと見える。


 ルフに似た瑠璃色の瞳、金色の髪。

 だが対照的に角と見られる突起は無く、垂れた毛先が顔にかかりくすぐったい。


 俺はこの女性に見覚えがあった。

 あの時、ルフの笑顔に重なった女性で間違いない。


 ただ――何故俺はこの見知らぬ女性に膝枕をされているのだろう……?


『慶』


 もう一度呼ばれ、ゆっくりと両頬に温もりが添えられる。

 その手から伝わるのは俺の知らない感覚。

 膝の感触よりもずっと柔らかく、すべすべで、いい匂い。

 そして――当たり前のように感じるこの懐かしさ。


 この女性の正体は未だ分からない。

 けれどもこの優しさに――この安らぎにも似た懐かしさに、身を委ねるのもいいかなって思えてきた。何故なら……例えこれが夢でもこの展開は嬉し過ぎる!

 うひょお、お膝柔らかーい! 指ほっそっ! それでいてすべっすべ〜!


 こんな綺麗で美しい女性の方に膝枕され、あまつさえ手の温もりを堪能出来るなんて!

 これでお胸があったら言う事無しだったが、それは仕方がないことだ。天は二物を与えずって言うしな。

 これでたわわな二物も三物もあったら、俺の一物が悄気げてしまう。

 いや、物理的には歓喜してしまうのだが……寧ろ既に歓喜しかけてるのだが、夢の中だから別に良いよね?


 ならば、このまま時間の許す限りこの幸福を感覚全部を使って噛み締めようではないか!


『ふふっ、慶ったらだらしない顔……えいっ!』


 そう思った矢先、両頬に思い切り力が込められる。

 まるでこれは加減を忘れた整体師がやる手のひらでのマッサージ。

 いや、そんなもんじゃない! これは――万力ッ!? 万力で挟まれているといっても過言ではない……いただだだだっ⁉


『ああっ! もう! 慶ったら可愛い〜』


 足をじたばたさせながら悶え苦しんでいると、うっとりとした声色で女性が覆い被さってくる。

 視界が暗転しても手の力が緩められることはなかった。寧ろ、その控えめなお胸までも俺の顔面を捉えて離さない。


 だんだんと意識が薄れてゆく。

 それでも何とか繋ぎ止めているのは、初めての感触と懐かしい想いのおかげかもしれない。

 これでたわわなお胸があったら既に限界を迎えていたであろう。慶史郎もケーシローも。


 意識の外が眩しい。

 青白く光るそれはルフとまるで同じだった。

 何故? 分からない。


 それを考える間もなく、バチンと電撃が走ったような痛みに襲われ目が覚めた。


 ――いつもより天井が高い。

 ベッドから転げ落ちてしまったのだろうか。

 いや、違った。そういや昨日はベッドにルフと竜華を寝かせて、俺は親父が使っていた布団を敷いたんだっけか。


「ふみゅぅ」

「……」

「んんっ……」


 だというのに、何故この二人は俺にしがみつきながら眠っているのだろうか。

 そのせいで体が地味に痛い。


 右に目を向ければルフの、左は竜華の寝顔が拝める。

 ルフはよだれを垂らす感覚で体を青白く発光させている。

 一方で竜華は小ぢんまりと丸くなって静かに寝息を立てていた。


 なるほど、だからお胸が控えめだったのか。

 寝ぼけた思考が強引に俺を納得させる。

 あの夢の続きにこのまま挟まれていたいが、そうも言ってられない。

 壁掛けの時計が知らせる起床の時間はいつもより少し早いが、起きて朝の準備をしなければ。


 そう思い、体を起き上がらせようとしたが……これどうすればいいんだろ?

 もぞもぞ動いて脱出を試みるが、思ったよりも二人の力が強い。

 このまま無理矢理に動いては先に二人を起こしてしまう可能性が高いだろう。それは流石に可哀相だ。


 二人を交互に見ながら、何か別の方法はないかと考えていたが……何だかこの二人、ほんと真逆だな。


 今この寝相といい、寝顔といい、髪の色も性格も、そのほとんどが対極な気がする。

 例えるならば、太陽と月とでも言えばいいのだろうか。

 元気いっぱいの笑顔を持つ太陽とおしとやかに微笑む月。

 ならばその間に挟まれた俺は地球ってところだろうが、残念ながら俺はルフや竜華のように良い笑顔を持っていない。泣いた……

 それに俺にある球は二つだからな……恥球、この例えは無しでいこう。


 だとすれば他には……金と銀というのはどうだろう。

 金と銀、そして俺は銅でぇい(童貞)


 何てことだ、奇しくもここに三つのメダルが揃ってしまった。これならオリンピック開催も夢じゃない。

 しかし、開催するにはあと二輪ほど足りない。

 ならばここに俺の二輪(恥球)を付け足してやれば――うん、完璧である。


 いや何も完璧じゃない。

 そもそもそんな下らないこと考えてる場合でもなかった、まじでどうしよう……

 未だ動けないまま、ボーッと天井を見ているとふみゅみゅとルフが寝返りを打った。

 そのおかげで今までしがみつかれていた右腕が自由を得る。


 よし、先ずは一本。

 このままもう片方の腕に救出して――


「んんっ……んみゅぅ?」


 俺の左腕を掴む竜華の指を慎重に開いていると、竜華が目を覚ましてしまった。

 だが、完全に目が覚めてしまった訳でなく、ボケーッと寝ぼけたように半開きな目でむくりと起き上がろうとしている。

 大丈夫、まだ慌てる時ではない。


「竜華? 起こしちゃったか? まだ寝てて大丈夫だからな」

「……うん」


 その動作を阻むように竜華の頭に手を当て、そのままゆっくりと優しく布団へと戻してゆく。

 俺が使っていた枕を頭に敷いてやり、背中を擦るようにとんとん叩いていると再び静かに寝息を立て始めた。


 気が付けば両腕が自由を得ていた。

 ふぅ、どうやら二人を寝かせたまま救出することに成功したようだ。


「二人共、もう少し寝てていいからな」


 その両手を使ってルフと竜華の頭を撫でてから、俺は起き上がったのだった。



勢いで書きました。後悔は少しある。


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