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黄金と白銀

こんな(時間)にこんな(結構長め)でこんな(遅れて)すみません

「ほらっ! リュウさん早く!」

「ちょっ、ちょっと、そんな引っ張らないで! 後、私は竜華!」


 二人と共に帰宅する。

 ルフは竜華の手をぐいぐいと引っ張りながら玄関前まで駆けていく。

 口では止めてと言いながらも、竜華はルフに連れられるがまま歩幅を合わせている。


 その後ろを追従するかのように歩いていたんだが……え? 君達、いつの間にそんな仲良くなったの?

 さっきまで結構ガッチガチに闘ってたよね? 何、バトル漫画とかでよくある昨日の敵は今日の友的なあれなの? まだ日付すら変わってないんだけど。

 それとその後も助手席にどっちが乗るかで争ってたよね。結局、収拾付かなくて二人共後ろに乗せたけど。それのおかげなの? 子供のコミュ力パねえっ!


「お兄ちゃん遅い!」

「ケイジイ見てないで助けてよ……」


 玄関前で元気いっぱいのルフと、ぐったり気味の竜華が待っている。

 俺は二人にごめんと言って、玄関の鍵を開けた。

 扉を開けると、またもやルフが竜華を連れて走り出しそうな勢いだったので、俺はルフの頭にぽんと手を置いてそれを牽制した。


「ルフ? 竜華お姉ちゃんが困ってるぞ、もう少し優しくな?」

「ふみゅ? リュウさん困ってるの?」

「いや困ってるというか、戸惑ってるというか……お姉ちゃんは不意打ちすぎるっていうか……」


 ルフがふみゅみゅと首を傾げている。可愛い。

 俺とルフの言葉を聞いて、竜華はごにょごにょと何か呟きながらもじもじしていた。こっちも可愛い。

 そんな二人に俺は言葉を続ける。


「遊びたいのも分かるけど、先に泥んこ落とさないと二人共お家には入れさせないぞー?」


 車に乗せる前、二人が付けた泥は軽く払い落としてやったが、靴とかにはまだ付いていた。

 ルフは長靴だからまだマシな方だと思うが、竜華の足は目に見えてアウトだった。確実に靴の中まで浸透してしまっているだろう。

 そんな足で家の中を歩かれるのは堪まったもんじゃない。


「ふみゅ? じゃあお兄ちゃんも入れないね!」


 ルフが当たり前かのように言ってくる。

 いや間違ってはないけども……でも俺のは君達がグリグリして付けた泥だからね。言ってみれば君達の貰い泥だからね。

 そんな言葉があるかどうか知らないが、俺はルフの前で屈む。

 そしてルフの頬を両手でムギューっと覆ってからぐりぐりと揺らした。


「ルフー? 屁理屈言うお口はこの口かー」

「ふみゃ⁉ ふみゅう、ルフだって……えいっ!」


 俺が冗談めかしくそう言うと、ルフは驚いた声を上げたが、俺の真似事をしてすぐに反撃してくる。

 しかしながらそんな攻撃が俺に喰らう訳がない。寧ろ、疲れた体に鋭気が養われていくのを文字通り肌で感じられた。全く以て約得である。

 しばらくルフの肌触りの良いほっぺの感触と、もっちもちのお手手の感触を堪能していると、ふいに視線を感じた。

 振り向けば、竜華が羨ましそうな目をしてこちらを眺めていた。


 な、何だろう、竜華もやって欲しいのだろうか。

 そう思って、俺はルフから手を離し、竜華にも同じことをしてやろうと近付いたのだが、いざ手を伸ばしてみれば竜華は目をギュッと閉じてしまったではないか。

 な、何だろう……俺の勘違いだったのか……?


「り、竜華も悪いな、流石にその足では入れさせる訳にはいかないからな」

「あっ……」

「竜華?」

「……ううん、何でもない」


 と、とりあえず、触れる瞬間だった手が居心地を悪くしていたので、代わりに竜華の頭を撫でさせる。

 すると竜華はどこか不満そうな、それでいて切なそうな声を漏らすとしゅんと顔を俯かせてしまった。

 あ、あれ? やっぱりしてやった方がよかったのでは……。


 何が正解だったかは分からんが、それより今やるべきなのは二人をお風呂に連れてゆくことだったと思い出す。

 俺は俯いてしまった竜華の頭をぽんぽんと叩いてから、再度ルフへと目を向けた。

 そしてルフが身に着けたジャンパーや長靴を脱がしてやり、そのまま抱き上げた。


「竜華、ちょっと待っててな」


 先ずルフを風呂場へと連れていき、着ていた服も全部脱がして洗濯かごへと放り投げる。

 ジャンパーを着ていたからか、幸いにもルフの衣類はそこまで汚れていなかった。


「ルフー、竜華連れてくるからその間にシャワーで汚れを落としててな」

「はーいっ!」


 ルフが入っていった浴室からシャワーの音が聞こえてくる。

 本当は隅々まで洗ってやりたいが、竜華も連れてこなければならないし、二人が汚れを落としている間にご飯の準備もしなくてはならない。

 そんな俺と急いで入るより、ルフも竜華と遊びながら楽しく入りたいだろう。

 クソッ、みんなで一緒に入りたかったのに……。


 だがしかし、落ち着け俺、先走りは良くない。

 これからは竜華も一緒に暮らすんだ、そのチャンスならいつでもある。ならば今はそれ以上望むことなんてないのだよ、グッヘッヘ。


 煩悩がそう語りかけてきて、俺の心を奮起させた。

 それを体現するかのようにスキップ混じりの足取りで俺は竜華の元へと戻る。


「竜華ー、気を悪くさせるかもしれんが抱き上げ――竜華?」


 声をかけたが返事がない。竜華は俺のリュックを見つめながら呆けていた。

 俺の声が届かないくらいに、何かが気になってしょうがないといった様子でボーッと見つめている。

 しかしリュックの中に何かあったっけかな――あっ。


 もしかしておにぎりか? そういや今日はまだ渡してなかったもんな。

 でもすぐにご飯作るからわざわざ食べなくても……。

 そう思いながらも一応リュックを弄っておにぎりを取り出したが、その途中で溢れ落ちた羽根を見て、竜華は声を上げた。


「あっ! ケイジイ、その羽根」

「ん? ああ、これか、竜華がいつも座ってた所に落ちてたぞ」

「そうだったんだ……よ、良かったぁ……」


 余程、大事な羽根だったのだろうか、俺がそう言うと竜華はどこかホッとしたような表情をして安堵の声を漏らす。

 ま、まあ、竜華にとっては体の一部だしな、どこぞの野郎に拾われるなんて堪まったもんじゃないだろう。俺のことか……泣ける。


 奮起した心が落ち込み始めたが、俺は羽根を拾い上げると竜華に返してやった。


「ほら、もう失くすんじゃないぞ」

「うん、ありがと……でも、それはケイジイが持ってて。その羽根はね、特別なの」


 真っ直ぐに見つめてくるその視線には何か決意のような物を感じる。

 言うなればドラマ等でよくある恋人にプロポーズでもするかのような……え? ということは俺は今、結婚でも申し込まれてるの? 銀の指輪ならぬ銀の羽根で?

 いやー、そういうのはもう少しお互いを知ってからでも……なんて言ってる場合じゃない。そもそもそんな関係じゃないだろ、目を覚ませ俺!


「わ、わかった。大事にするからな」

「……うん!」


 しかしながら、付き返すのは流石に可哀相だと思い、俺は竜華からそれを改めて受け取った。

 すると、竜華はぱあっと顔を明るくして大きく頷く。

 その瞬間、銀の羽根が一瞬光ったのだが……うん、今のはおそらく照明が反射してそう見えたのだろう、そうに違いない、頼むからそうであってくれ。


「ケイジイ?」

「な、何でもない。それより悪いが竜華、このまま抱き上げるぞ」

「え? わっ! ちょ、ケイジイ⁉」


 何度か羽根をくるくると回して、もう一度光ったように見えるか試していると、竜華がきょとんとして訊ねてきた。

 結果そう見えなかったので、俺は諦め、羽根とおにぎりをリュックに一時的に置き直すと、竜華を抱き上げる。


 いつもルフにしてやるような背中とお尻を支える縦抱きではなく、こう、膝と肩辺りを支えるような……い、所謂お姫様抱っこである。

 何でかっていうと、その……あれだ、ルフのように抱いて、万が一にその汚れた足を床に着けてしまったらという懸念があったからだ。他意はない。

 だというのに、竜華は恥ずかしがるように足をバタつかせ、まるで下ろしてとでも言うように抵抗してくる。やめろ、こっちだって意識をさせないように振る舞ってるんだ!


「お、おい、あんま暴れんな。せっかく泥を落とさないように運んでるんだから」

「わ、わかった……ごめん」


 俺の言葉を聞いて、竜華が大人しくなる。

 そこから何とも言えない気まずい空気が流れたが、俺は竜華を抱えて風呂場へと連れていった。


「ごめんルフ、開けてくれ」

「はーいっ」


 ばしゃばしゃと水を掻き分ける音が聞こえた後、浴室の扉が開かれる。

 おそらく頭を洗い終わってからタオルで拭くことをしなかったのだろう、髪をびしゃびしゃにしたままのルフがむぅっとむくれて竜華を見上げた。


「リュウさん遅い!」

「う、うん……」


 待ちくたびれたと言わんばかりにルフが不満を垂れたが、大人しく抱えられるがままの竜華を見るとその態度を一変させた。

 今度は心配そうに声をかけてくる。


「ふみゅ? リュウさん顔赤いよ? 大丈夫?」

「なっ!? 大丈夫! 大丈夫だから!」


 ルフにそう言われ、竜華は焦ったように声を荒げる。

 そして、またじたばたと暴れ始めた。


「ケイジイ下ろしてっ‼」

「わ、ちょ、待て! 今下ろすから」


 言われた通り下ろしてやると、竜華は恥じたように顔を俯かせ、拳を握ってはぷるぷると震わせていた。

 こ、これは、また竜華が竜化してしまうのではないか……?


 俺に無理矢理抱っこされ、自分より幼いルフには指摘され――きっと竜華の中の竜の誇りとやらがボロボロになってしまっているに違いない。

 ならば、ここで竜化してしまうのはおかしくない話だ。

 クッ、それだけは止めないと!


「り、竜華! そ、その……あれだ、足気持ち悪いだろ? あ、洗ってやるからそこに座りな」

「ふえっ……?」


 竜華を風呂椅子へと促す。

 言い方は悪いかもしれんが、竜華は俺に足を洗わせることでその誇りとプライドが保たれる筈だ。シューシャンボーイならぬリューシャンボーイである。


 しかしながら、竜華に座ろうとしない。

 どこか躊躇うように風呂椅子を眺めている。

 さてはそのまま座ったら服が濡れてしまうとでも言いたいのだろうか?

 いやでも今更じゃない? それに風呂に入ってる内に君達の服は洗濯しようと思ってるからもういくら濡らしても平気だよ?


 それともルフや俺が使ったこれを使いたくないのか? 世の中には潔癖過ぎて銭湯や他人の風呂を使えない人間がいるらしいが……竜華も俺達との間接ケッツが嫌なのか?


 思考を巡らせてみたが、答えが出ない。

 けれどもルフがその突破口を開くように竜華にこう言った。


「ふみゅ、分かった! リュウさん恥ずかしいんだね! お兄ちゃんに洗ってもらうのが恥ずかしくて顔を赤くしてるんだね!」


 ル、ルフ!? 突破口開くどころか、それ無理矢理こじ開けてない!?

 ルフが言った言葉に竜華は図星でもつかれたようにビクッと体を跳ねさせる。

 そしてルフの発言を顔を真っ赤にして、叫んで否定した。


「そ、そんなことないもんっ‼ ケイジイ! 早くして!」

「あ、ああ……」


 竜華の声が浴室に響く。

 そして何か吹っ切れたように竜華はドカッと風呂椅子へと座り込む。

 その勢いと堂々さは正に竜――なんて言える訳ねぇだろっ‼


 最早、竜の誇りもプライドも何処にもない。やっぱり俺には駄々をこねる、面倒臭い子供にしか見えない。

 けれどもそんなこと、この(少女)の前で言える訳がない。


 自分で言っておいて何だが、半ば面倒臭くなりながらも俺は竜華の足を洗ってあげた。


「――よしっ! 後は自分で出来るな? そのままルフと一緒にお風呂入っててな。それとルフ?」

「んみゅ? ふみゃ!?」


 洗い終わり、竜華に声をかける。

 それとルフが何時まで経っても頭を拭こうとしないので少し強引にタオルでワシャワシャと拭いてやる。


 その光景を見てたからか、竜華は物足りなそうに俺を見つめてはこう口にした。


「ケイジイ私も!」


 多分、さっきのやり取りで竜華の何かが完全に吹っ切れてしまったのだろう。

 もう恥じるようなことをせず、本能のままにそう言ってくる。

 けれども――


「その、いいのか? それは竜華の……」

「いいの!」


 竜華はそれ以上言うなと声を荒げ、その勢いが落ちる前にすっぽんぽんになった。

 分かっていたことだが、その素肌は思わず見惚れてしまう程に白く美しい。


 美しくも猛々しいその姿は正に竜――と言ってやりたいんだが、俺にはどうしてもヤケクソになってるようにしか見えないんだよなぁ。


「はやく‼」


 例えそうだとしても、竜華にはもう引き返すという選択肢は無いらしい。

 俺は一度、竜華が脱ぎ散らかした衣類を持ってルフの衣類と一緒に洗濯機に入れてから、竜華の頭を洗って上げたのだった。これが正にリューシャンプーボーイである。

 いや、言ってる場合ではない。


 竜華の頭を洗って、拭いて、俺は浴室から出る。

 それから自分の着ていた服を脱ぐ。

 その途中、ルフと竜華が扉越しにわーきゃー言いながら騒いでいたが、余程楽しく遊んでいるのだろう。

 あれなら当分は上がってこないと思う。


「リュウさーん! えいっ!」

「わっ!? こんのぉ、やったなぁーッ!」


 けれども何やらバシャンバシャンと水を叩き付ける音とかしてるけど、ほんとに大丈夫だろうか?

 ま、まあ、ああ見えて鬼と竜だし大丈夫だろう……きっと。


 少し二人の様子が気になったが、そう結論付けて俺は新しい服を求めて寝室へと向かった。

 二人が楽しく遊んでいるならそれでいい。そこへ俺が水を差すにはいかない。


 寝室で部屋着のスウェットに着替え、その足でキッチンへと向かう。

 ルフと竜華が風呂で遊んでいる内に、ご飯の準備を済ませておきたい。


 手を念入りに洗い、冷蔵庫を開ける。

 そこからこれから作るおかずの食材を取り出していく。


「ひき肉に玉ねぎに、牛乳……後は何使うんだっけ――ああ、そうだパン粉だ」


 実を言うと、竜華を家に招き入れると決めた時から今日の夜ご飯の献立は決まっていた。

 友達の家にお泊り、もしくは友達がお泊りに来る時のメニューと言ったら、ハンバーグだと相場は決まっている。次点でカレーだが……考えてみれば俺はそのどちらも経験がなかった……泣いた。


 そんな思いをルフには絶対にさせまいと決めた矢先の竜華だ、これはもう腕によりをかけて作るしかないだろう。

 待ってろよ、ルフ、竜華。今から俺のハンバーグを振る舞ってやるからな!

 そんな思いの愛情を炒めた玉ねぎとかと一緒にたっぷり注いでボウルでコネクリ回していると、ドタドタと足音が聞こえてきた。


「お兄ちゃん! 大変っ!」

「どした……って、ルフッ!?」


 ルフの声に振り向けば、体も拭かずにバスタオルをマントのようになびかせたルフが駆け寄ってくるが……ル、ルフ!? な、何ちゅー格好で出てきてんの!? はしたないよそれはっ‼


 俺は手を拭き、急いでルフがなびかせていたバスタオルを閉じる。

 こんな格好をしていたらロリコン共の恰好の餌にされてしまう……お、俺はそんなことしないもんっ!


 イ、イカン、少し竜華の口調が混じってしまった。

 俺にはこの状況の方が既に大変なのだが、一体これ以上に何が大変なのだろうか。

 それを聞こうとした時、ルフの後を追ってきた竜華の姿が目に入った。

 多分ルフが慌てて出て行ったもんだから、竜華も着替えることなく追ってきたのだろう。

 それでも竜華には一応恥じらいというもんがあるらしい。ルフのようにバスタオルをなびかせてすっぽんぽんのままではなく、その体に纏うようにして露出を抑えていた。後、竜華はちゃんと体を拭いてきたっぽい。


 そんな竜華が顔を赤くしてもじもじとしている。

 何だろう、大変なことってもしかして、竜華がのぼせてしまったということなのか。

 そう思い、俺は水を用意して竜華に差し出してやったのだが、竜華は受け取ろうとしない。

 あ、そっか。手が塞がってるからか。ならば、俺が飲ましてやろう、グッヘッヘ。


「ほら、竜華。口開けて」

「そ、そうじゃなくてっ!」


 コップを口に近づけてやったが、それを拒否して竜華が叫ぶ。


「わ、私の服無いのっ‼」

「ん? そりゃだって竜華の服はルフの服と一緒に――あっ」


 そこまで口に出して気付いた。

 大変なことってそういうことか、そりゃ大変だ。やっべぇ……完全に忘れてた……


「な、なぁ竜華、ちなみに服って他にあったりするか?」


 竜華は俺の問いにふるふると俯きながら首を振る。

 ど、ど、どうする? 流石にこのままにしておくのはマズいし……。


「ふみゅ? リュウさん、ルフの服使ってもいいよ?」

「ふえっ?」


 俺がおろおろとしていると、ルフが竜華に向かってそう言った。

 た、確かにそれで済むなら越したことはないが……


「い、いいの……?」

「うんっ! リュウさんはとくべちゅだもんっ!」

「ふ、ふえっ⁉」

「リュウさんっ‼ こっちこっち!」

「わわっ、そんな引っ張らないで! 後、私は竜華っ!」


 ルフが竜華のバスタオルを引っ張り牽引してゆく。

 竜華はそれが(はだ)けないようにしながら連れられてゆく。


 うん……何か気付いたら全て解決していた。

 このスピード解決……果たして俺の所に来る意味があったのだろうか……?

 キッチンから消えてゆく二人を目で見送っては少し呆けてしまっていたが、まぁ、二人がそれでいいのなら別にいいか。


 そう思い、俺は改めてお肉をコネクリまわすのであった。

 ――にしても、もうあんなに仲良くなるなんて、ほんとに子供のコミュ力パネェなっ!







 先程の騒動も終わり、ご飯も食べ終わった。

 俺が愛情込めて作ったハンバーグをルフと竜華が美味しいと言ってぺろりと食べてくれたことにとりあえず一安心。

 一緒に出したサラダも綺麗に完食してくれたし、これなら竜華も大抵の物は好き嫌い無く食べてくれそうだ。


 ご飯を食べ終わった後、またしても竜華がルフに手を取られ、振り回されるかのように遊んでいた。

 竜華は困ったような、疲れたような顔をしながらもルフに付き合っていた。


 しかし俺が食器を洗って戻ってみれば、二人は電池の切れかかったおもちゃのようにソファーでうとうとしていた。ルフに至っては寝息を立てている。

 俺は竜華の隣に腰を掛け、竜華を労った。


「お疲れさん。悪いな、ルフも俺と遊ぶより竜華と遊んでいる方が楽しいらしい」

「……うん」

「それより、服きつくないか?」

「大丈夫……」


 竜華がうとうとしながらも何とか言葉を紡ぐ。

 その姿はルフの服を纏っているためか、首元が苦しそうにみえる。

 上着はパーカーなのだが、やはりシャツがそう見せているのだろう。

 ほんとに悪いことをしてしまった。ごめん竜華、もうちょっと待ってて。さっき乾燥機に入れてきたから。


 竜華の頭を撫でながら労っていると、竜華が体を寄り添うように身を預けてくる。

 どうやら竜華も限界が来ているようだ。


 まあ、無理もない。

 俺には分からないが、ルフも竜華もあれだけ力を使ったんだ。そこへ腹が満たされてしまえば、眠くなってしまうのは必然的だろう。


 そんな眠たい筈の竜華は、それに抗いながらも言葉を続けた。


「ケイジイ、ありがとね」

「ん? 何がだ」

「んとね、私……ずっと一人で、寂しくて、辛くて、怖くて……」


 段々と、綴られる言葉が濡れてゆく。

 俺の服を掴む手には縋るように力が、けれでもぴったりとくっつくその体は弱々しく震えていた。


「ケイジイはこんな弱くて、情けない竜なんて嫌い……?」


 潤ませた橙の瞳が怯えたように俺を見据える。

 それは多分、決意とか不安とかが入り混じって、自分でも感情の制御が出来なくなってしまっているのかもしれない。


 そんな竜華を目にして――今この姿こそが竜華という少女の、本来の姿なのだと感じた。

 しかし、誇りだとかプライドだとか言っている、意地っ張りでめんどくさくて泣き虫なのを頑なに認めようとしないあの姿も、竜としての竜華なのだ。


 そのどっちが嫌いで、どっちの竜華が選べだなんて――俺には出来ない。


「そんなことないよ。どんな竜華でも俺は決して嫌いにはならない」

「ふえっ……?」


 意外だったのか、竜華はその潤んだ目を驚いたように見開いた。

 竜華に向かい合い、俺はぽんぽんと撫でるように竜華の頭を触って言葉を続けた。


「どの竜華でも、今ここに居る竜華が俺にとっての竜華なんだ。だからもう泣くな」

「な、泣いてないもん……」


 いじけたように竜華はそう返答するが、その顔色が、声色が、さっきまでとは違う。

 どことなく胸の支えが取れた、スッキリしたような顔付きだ。

 きっと今は竜であることを忘れ、ありのままの竜華でいたいんだと思う。

 だからこそなのか、竜華はもう躊躇う事も、遠慮する事も無く――


「ケイジイ……お願いがあるの」

「ん? 何だ」

「あのね……抱っこ」


 本能のまま、そう告げてくる。

 手を広げ、甘えるように、そして早くと言わんばかりの様子に俺は少し戸惑いながらも、包み込むように抱きしめた。

 最早、誇りもプライドもありはしない。

 それでも、俺は今のありのままの竜のお願い事を聞き入れたのだ。


 その髪の手触り、頬から伝わる感触。

 離して見つめ合うと、恥じらうように俯きながらも、決してその橙を逸らさまいとする仕草。


 その全てが俺の竜の誇りを刺激する。

 これは、もうプロポーズ待ったなしである。

 最早、ロリコンだ何だ言われようがどうでもいい。プライドで飯が食っていけるか。

 それに据え膳食わぬは何とやらという言葉もある。

 そして何やらが葱を背負ってくるって話も聞く。

 その二つが同時に俺の元へと辿り着いた。


 これぞ正にお供え物。では遠慮なく、いっただきまっーすっ!


 ――いや待て落ち着け。

 何がいっただきまっーす、だ。違うだろ! 遠慮どころか、物の分別すら無くなってるではないか!

 だいだい、竜の誇りって何だよ! 俺のはリュウさんどころか、亀っ子ケーシローだろ、いい加減にしろ!


 このままではケイジイどころでは済まなくなる。

 少女を自宅に招き入れ、あまつさえ誇りを見せつけるなんて事案待ったなしである。刑死秒読み不可避、容疑者は刑死牢です。


 正気を保て、俺!


 迫る来る煩悩を、自分を蔑む事で何とか追い返した――泣いてしまいそうだ。

 心に少し傷を負ったが、実害が出るよりは遥かにマシだ。

 そうやって心の闇と闘っている間、竜華はきょとんしていたが、俺が正気を取り戻した頃合いを見計らってか、こう切り出した。


「ケイジイ、私信用してるからね? だから、もう嘘付いちゃ嫌だよ……?」


 だからあれは俺が悪い訳ではなくて……

 そう言ってやりたかったが、もう自分の否を認めてしまったから何も言えねぇ……。


「わ、わかった。約束する。その代わり、竜華にもお願い」

「な、何……?」


 竜華は少しビクついたように俺を見る。

 そ、そんなに理不尽なお願いをされるとでも思っているのだろうか……既に信用に亀裂が……


「そんな怖がるなよ。難しい話じゃない――ルフといっぱい遊んでやってくれ」

「ふえっ?」


 本当に難しいお願いされると思っていたのだろうか、竜華が拍子抜けしたような素っ頓狂な声を漏らす。

 それに構わず、俺は話を続けた。


「ルフもな、俺が仕事で居ない間は一人で寂しく過ごしてるんだ。それがどうしても不憫でな。でも竜華と一緒ならルフも嬉しいだろうし、何より俺も安心して任せられる」

「ケイジイ……うん、わかった」


 そう話すと、竜華は納得してくれたようでコクリと頷いた。

 そして、何故か呆れたように息を吐いては、こう漏らす。


「竜へのお願いがそんなことだなんて、ほんとケイジイは……」

「でも信頼してくれてるんだろ?」

「〜〜ッ‼ っもう、知らない!」


 そう言うと、竜華はプイッとそっぽを向いてしまった。

 損ねたご機嫌を治してもらうため、俺はごめんと言って頭を撫でながら許しを乞う。

 暫く続けていると、竜華は顔を赤らめて、その身を委ねてきた。


「ケイジイ、竜の扱いに手慣れ過ぎ」

「そりゃそうだ。他の人より少しばかりは竜について詳しいからな。だからこうやって」


 竜華の背中をぽんぽんとリズム良く叩いてやる。

 これは竜どころか鬼にも――いや、子供に良く効く技だ。


「ねえケイジイ……」

「ん?」

「ありがとね」


 そう言った竜華からは直ぐに寝息が聞こえてきた。

終わりました。いや、力尽きました。

多分今月これしか投稿出来ないかもしれません。

詳しくは活動記録でも見ていただければ思います。(多分書きます)


こんな話ですが、どうぞご贔屓に

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