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タイ(対/退)竜

 橋の前で竜が佇んでいる。

 銀色を身に纏い、翼を生やした竜華が俺達を見据えている。

 その橙色の瞳が恨めしそうに、険しく、俺を睨んでいた。


 く、食われる……贄として食われる……!? 直感が告げていた。

 それだけ竜華は怒っているように見えたのだ。


 原因は俺にある。

 あの時、ちゃんと竜華を待っていれば、ちゃんと信仰心を持って接してやれば、こんなことには――いや、ちょっと待って。


 って言うかおま、何処に行ってたんだよ!? 雨の中、せっかく来てあげたってのに。

 今日は餌付けしてる隙きを見計らって、頭を撫で、そのさらさらとした感触を堪能しようとしていたのに! 今日もお兄さんと呼ばせたかったのに! いや止めろ、今は煩悩を出してる場合ではない。一人で気持ち良くなってる場合じゃない。

 最早、信仰心の欠片もない。只のシコ心であった。


 俺のシコ信仰心が気に障ったのか、竜が――竜化した竜華が吼える。

 美しい見た目とは裏腹に、力強く猛々しい咆哮を上げると、風が吹き荒んだ。


 その瞬間、俺達の乗った車に突風がぶち当たる。

 もの凄い衝撃が俺達を襲った。


「おわっ⁉」


 それは正に竜の息吹だった。

 ガタガタ揺れる車の中、俺はハンドルにグッとしがみつき、シ……信仰心を胸に、必死に耐えた。

 程なくして風は吹き止んだが、その間は生きた心地がしなかった。

 初めて喰らった時もそうだが、俺この揺れ嫌いだ……。


 そ、そう言えばルフは!? ルフは無事なのだろうか⁉

 俺ですらこんな状態だ、ルフはもっと酷い状態なのではないか?

 俺は気持ち悪くなりながらも、ルフの安否を確かめた。


「ル、ルフ、大丈夫か……?」

「お兄ちゃん……」


 振り向けばルフが俯いて体を震わせている。

 クッ、何て事だ……やっぱりルフを連れて来るべきではなかった。

 俺のせいでルフに気持ち悪い思いをさせてしまった。

 そう後悔していると、ルフがガバッと顔を上げ俺を見る。

 その瑠璃色の瞳から涙が流れている――ことはなく、寧ろ想像していたものとはまるで違った。

 そんな興奮状態のルフが喜びの声を上げた。


「すっごーい! リュウさんすごいね、お兄ちゃん!」

「ル、ルフ⁉ ウップ……何でそんなに喜んでるんだ……」

「ねえ、リュウさん! もういっかい‼」


 ルフがキャッキャッとはしゃいでいる。

 あろう事かもう一回等と、まるで遊園地のアトラクション感覚で竜華にせがんでいる。


 最早正気の沙汰とは思えない。

 あんなもん何度も喰らってたら俺の命が、そして車の命も、いくつあっても足りやしない。

 だと言うのにルフ……き、君は何を言っているんだ……?


 そんなルフの態度が気に障った――いや、逆鱗に触れてしまったのだろう。

 竜華はまるで威嚇するようにその双翼を広げると、怒号にも似た声を飛ばす。

 すると竜華の周りに風が意思を持ったように集まっていった。

 自身の銀翼の羽根が舞い散る事などお構いなしに風を巻き上げる。


 多分あれは竜華が自在に操っているのだろう。

 集め込んだ風を触れる事無く、まるで粘土でもコネくりまわすくらい簡単に丸めてゆくと、一つの集合体として纏め上げた。


 そ、それをどうするつもりなんだ……ま、まさか……?


 直感が告げている。ここは既に――避難区域⁉


「ル、ルフ!」


 俺は催した吐き気を抑えながら、ルフのシートベルトを外し抱きかかえると、急ぎ外へ脱出した。

 ふらつきながらも車と反対の車線へと足を走らせていると、尚もルフが楽しい声を上げた。


「おおーッ! お兄ちゃん! 見てあれ!」


 ちょっ、ルフ。今、耳元で叫ばないで。

 ぐるぐるバットをした後の視界並みに揺れる世界の中でルフの声が響く。

 その意識の中で、ルフの声に従うと驚愕する光景を目にしてしまった。


「ま、まじかよ……」

「うん! マジッ‼」


 直感が的中した。いやそれ以上だった。

 竜華が凝縮して作ったその球体を、俺ら目掛けてカッ飛ばそうとしている寸前だったから、俺はルフを連れて避難したのだ。

 しかし振り返って見れば――目標を俺らの方向へと完全に移し替えているではないか。


 よく見れば、竜華の体が白く光っている。

 あの光に覚えがある。色は違えどルフが電撃を出す時にいつも纏う光だ。

 それはもう――発射の合図にしか見えなかった。


 あ、あかん……逃れられない。そう思った瞬間、竜華が吼え――光線のような風に襲われた。


 ――何が起こったのか分からなかった。

 気が付けば、空から落とされ、顔が雨で濡れていた。

 何で俺は空を見ている――?


 そうだ確か竜華に吹き飛ばされたんだっけ。


 竜華が吼えると、球体から光線のように直線的な風が吹き抜けていった。

 車の中で喰らった風を巨大な扇風機に例えるならば、さっきの風は巨大なサーキュレーターとでも言ったところだろうか。

 ただそれくらい、一直線上に駆けた猛烈な風に襲われた。


 そう言えばルフは!? ルフは無事なのか!?

 俺はルフを探すため起き上がろうとしたが、体が言う事を聞いてくれない。

 麻痺してる感覚に近い。どこか怪我でもしてるのだろうか?


「お、お兄ちゃん……大丈夫?」


 ルフの声がして、顔を覗き込まれる。

 見た感じ怪我はしてなさそうだ。良かった……


「大丈夫、ちょっと全身を打っただけだ」

「ほんとに? 本当に大丈夫?」


 ううん、全然大丈夫じゃない。でも、そんな心配そうな顔で問われたら、大丈夫じゃないなんて言えない。

 だけど、一応これだけは聞いてみた。


「悪いルフ、ちょっと体動かなくてな。俺の体……無事? おかしく曲がってない? 血出てない?」

「ふみゅ、ちょっとまってね――うん、大丈夫そうだよ?」


 ルフが俺の体を確認してくれた。

 少し自信無さだけど、ほんとに大丈夫だよね?


「そ、そうか。じゃあルフ、逃げろ」


 風が少し大人しくなった気がする。

 竜華も次の一撃を仕掛けてこようとしない。いや、もしかすると仕掛けられないのか?


 ルフもあのマスコットの股間を蹴り上げた時、そうだった。

 多分さっきの攻撃の反動で動けなくなっているのではないか?


 ならば今が避難するチャンスだ。俺はこんな状態だが、ルフだけなら……。

 それにこれは元々俺が招いた事態だ。これ以上ルフを巻き込んで怪我なんかさせる訳にはいかない。


「イヤッ! お兄ちゃんと一緒にいる!」


 だと言うのに、ルフは言う事を聞こうとしない。叫んで否定すると、離れないという意思表示なのか、俺にひっついてくる。


「で、でもな、ここは危ないし、また次が来るかもしれない。俺はルフに怪我して欲しくないんだ」

「お兄ちゃん……うん、わかった」


 俺がそう言うと、ルフが頷いてくれた。

 良かった、これでルフの身の安全が守られる。後は俺がどうにかしなければ、先ずは体をどうにか動かさねば。

 そう考えていると、離れたルフが何かを覚悟した顔付きで俺を見下ろし、こう言ってきた。


「じゃあルフもね、お兄ちゃんのこと守る」

「え? ルフ?」

「ルフがね、あのリュウさん、やっつける」

「……ルフ? そ、それってどういう――」

「ぶっとばしちゃうぞー! おおーっ!」


 モニュモニュと、ルフが節を鳴らす仕草をする。可愛い。

 そして天に拳を掲げると、楽しそうに声を上げた。めっちゃ可愛い。

 いや、違った。ル、ルフ? き、君は何を言っているんだ。


 俺の言う事を何にも分かっていなかった。

 だ、第一! ルフが竜華に勝てる訳――


「お兄ちゃん、ちょっと待っててね」

「ア、ハイ……」


 一頻り終えたルフが俺に向き直り、ニコッと笑う。

 その体には青白い光の膜が張っており、その角からはバチバチと電撃が鳴っている。

 それはルフの想いに呼応するように強い輝きを放っていた。

 それはもう臨戦態勢だった。


 すると俺の腕のお守りも同時に光出す。

 ルフと同じようにバチバチと電撃を鳴らしながら強い光を放つ。


 え、電撃を!? 思わぬ事態にそっちに意識を取られていると、ルフに呼ばれたのだが――その醸し出す雰囲気に思わず萎縮してしまった。


 それそのものを見た事ない俺でも分かってしまった。

 向かっていくルフには鬼が宿っていた。





 竜華は牽制するようにルフを睨み付けた。

 それでもルフは怯むこと無く、竜華へと向かって行った。

 おそらく竜華はまだ先の攻撃の反動で動けなかったのだろう、ルフの歩みを目の前まで許してしまっていた。


 そこから少し膠着した状態が続いたが、先に動いたのはルフだった。

 ルフが地面を蹴り上げ、飛躍すると、竜華の顔面に拳を叩き付けた。

 その拳からはあのマスコットを蹴り上げた時のように電撃が流れた。


 竜華も突然の事で怯んでいたが、それは多分当然の事だったと思う。

 いくら竜華が子供の竜と言えど、ルフとの身長差は子供と大人くらいある。

 そんなルフが少女とは思えない跳躍から、力任せの拳を振りかざしてきたんだ、呆気に取られるのも無理はない。


 しかしルフの攻撃はそれだけでは留まらなかった。

 竜華が怯んだ隙きに、ルフはまるで跨がるようにその体へ飛び乗った。


 竜華もやっと動けるようになったのか、ルフを振り落とそうと道路に自身の体を擦り付けては暴れ回っていた。

 そのせいで竜華の体からは鱗が、そして羽根が舞っていた。


 それでもルフは離れようとしなかった――いや、それ以上だった。


 暴れ回る竜華を掴み、離さず、時折電撃で打っていたその姿は――まるで暴れ馬を乗りこなしているようにも見えた。


 頑固にも離れないルフに堪らず、竜華は銀翼を広げて空へ駆け出した。

 これでルフも大人しくなるという思惑があったんだと思う。しかし現実は違った。


 ルフは何勝手に飛んでんだ、と言わんばかりに体を光らせ、電撃を浴びせては打ち落そうとしていた。

 竜華も意地でも振り払おうと風を操っている。


 その光景を、俺はただ見守ることしか出来なかった。

 それは子供の喧嘩というにはあまりにも規模がデカ過ぎた。

 雨のしぶきが吹き荒ぶ風が轟く雷が空で暴れていた。それは正に災害だった。


 体は自由を取り戻したが、同時に電撃が走ったような強烈な痛みに襲われた。

 未だバチバチいってる右腕ではないことは確かだ。だとすると、これはさっき打った時の痛みだろう。

 けれども見た感じ骨は折れていないし、血も出ていない。多分この痛みは打撲と擦り傷によるものだ。いや、そんなことはどうでもいい、今はルフと竜華を止めなければ。


 空を見上げると、未だにルフと竜華は闘っていた。

 いや、正確には闘っているんだと思う。


 暗闇を掻き分け、青い光を放ち、音を鳴らす。

 それは光る度、音が鳴る度に場所を移動させ、俺に二人の位置を知らせてくれた。

 遠くの方で空が光る。少し遅れて音もやって来た。


 でもどうやって? あんなもんどうやって止められるんだ?

 考えてみたが何も思い付かない。思い付く筈がない。だってそれは嵐に立ち向かおうとしているもんだぞ。


 それでも体が勝手に動く。

 とにかく行け、そう命じられたような気がした。

 俺は痛みに耐えながらも体を動かした。

 明確な策がある訳じゃないが、それでもルフと竜華を目指し足を動かす。


 橋の上まで来ると頭上で空が光った、音が鳴った。

 そして、その後すぐに風が追い掛けてくる。

 すぐ近くに二人がいるのか。何処だ……何処にいる?


 照明が落ちたような空を目を凝らして探していると――ルフに乗られた竜華が落ちてきた。


「ふぎゃ!?」


 竜華はルフを乗せたまま橋の下――あの土手に落ちては斜面を転がっていった。

 その途中でルフが放り投げ出されたんだが……何か潰れたような鳴き声がしたけど大丈夫か……?


 俺は急いでルフのもとへ駆け寄る。すると、大の字で寝そべるように倒れたルフがガバっと体を起こし、飛びついてきた。


「お兄ちゃん! ルフね、リュウさんやっつけたよ!」


 元気良くダイブしてきたルフを受け止めた直後、体に電撃が走った。

 それはルフの電撃のせいでも、右腕のビリビリのせいでもない。

 ただ単純にか、体が痛い……。


 それでも、何とか踏ん張ってルフを受け入れる。

 泥んこ塗れでも構わない。けど、そんなグリグリされるのはちょっと……。いや、そんなこと考えるのは止めよう。無事だったのならそれでいい。


「ふみゅぅ……お兄ちゃんのが流れてくる〜」


 だ、だから、それはどういう……


 ふと右腕を見ると、バチバチが少しずつ収まっていく。

 それはまるでルフに吸い取られるように小さくなって、そして程なくして光と共に消えてしまった。


「うん! 元気いっぱい‼」


 ルフが元気いっぱいの笑顔を向けてくる。

 うん、やっぱりこれ以上考えるのは止めよう。こうしてルフの笑顔が見れればそんなこと些細な問題だ。


 こうして俺はロリコンという沼に両足をどっぷりと踏み入れるのであった。


 ――って違う。まだ問題があった。


 竜華は? 竜華はどうなった!?


「竜華ッ!」


 竜華の方を見れば、ボロボロになりながらも立ち上がり、こちらを睨み付けては、吼える。

 まだ終わりじゃない、そう言われた気がした。

 しかしその声は目の覇気に比べ、弱々しい。


 そんな姿になってまでまだやる気なのか……。

 竜華をそこまで駆り立てるのか何なのか、それを考えていると、あることを思い出した。

 それはこの闘いを終わらすための賭けに近いものだった。

 それでもこんな痛々しい姿の竜華を見続けるよりは遥かにマシだった。


「ふみゅ、お兄ちゃん?」


 ルフを下ろして竜華へと足を進ませる。

 竜華は近寄るなと言わんばかりに吼え、自身に風を纏う。

 それはまるで竜巻のように天へと伸びる。


「お兄ちゃん!」


 後ろでルフが叫んでいたが、大丈夫という気持ちを込めて右腕を上げた。

 こればかりは俺がどうにかしないといけない問題だ、ルフに頼る訳にはいかない。

 だから俺は竜華の目の前まで行き、誠心誠意を持って頭を下げた。


「竜華、ごめん」


 頭を上げると、竜巻は消滅し、竜華は何が何だか分からないとでも言ってるように固まっていた――いや、分かってるからこそ固まっているのだろうか。


 その真意は分からない。

 けれども俺はそんなことお構いなしに両手を広げ、竜華を誘う。


「ほら、おいで。怖くないから」


 促され、ジッと見つめた竜華が顔を近付ける。

 少し警戒しているようにも見えたが、俺は強引に広げた両手を閉じて、頭を撫でた。


「痛かったよな、寂しかったよな、お腹すいたよな。辛い思いさせてごめんな」


 俺は思ってることを全部言葉にして竜華にぶつける。

 すると竜華はまるで泣いた声のように一つ鳴き声をあげると、体から光が溢れ出した。


 それは竜を包む大きな光から次第に少女を包む小さな光へと変わっていき、やがて消える。

 すると声がした。叫び声や咆哮ではなく、可愛らしいが涙で濡れた少女の声が。


「うわぁぁん! ケイジイのバカァァ‼」


 そう言って泣き叫んだ、銀髪で橙の瞳をした、泥んこ塗れの泣き虫少女が俺をポカポカ叩くのであった。

読んで頂きありがとうございます。


この話で自分なりに区切りを付けられたかなと思っております。


しかしながら、もしかすると書き直しをするかもしれません。


なければ、次話からは下ネタ中心で投稿していきます。(多分)

まあ、何もかもが未定になりそうです。はい。


ですが、これからもどうぞご贔屓に

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